編集部
特にAIを活用したリーガルテックは、近年注目を集めてきました。しかし、2023年に入り、この分野への資金調達が減少していることが明らかになってきました。
過去数年間で急成長を遂げたリーガルテックの資金調達が、なぜこのような状況になったのか、そして今後の展望はどうなるのかを詳しく探ることで、リーガルテックの未来を予測します。
リーガルテック資金調達の現状
近年、リーガルテックの分野は急速な成長を遂げてきました。特にスタートアップ企業へのベンチャー資金調達は、その成長の象徴とも言える動きを見せていました。しかし、2023年のデータを見ると、その勢いは一旦鈍化していることが確認できます。
Crunchbaseのデータによれば、リーガルテックスタートアップへの資金調達は、今年約7億2500万ドルに達する見込みです。これは、過去2年間で毎年約20億ドルだった資金調達額から大きく減少しています。さらに、全体のベンチャーキャピタルが減少傾向にある中、リーガルテックへの資金調達の減少率は約65%という驚異的な数字を記録しています。
このような背景の中、リーガルテックの採用が遅れている原因や、今後の市場の動向について考察することが、ビジネスパーソンにとって非常に重要となります。
過去2年間の資金調達の動向
過去2年間を振り返ると、リーガルテックへの資金調達は非常に活発でした。特に、2021年と2022年は、それぞれの年で約20億ドルの資金がこの分野に投じられています。これは、全体のベンチャーキャピタルが減少している中でも、リーガルテック分野が注目されていたことを示しています。
例えば、2022年には、サンフランシスコを拠点とするIroncladが1億5000万ドルのシリーズE資金調達を実施するなど、9桁の資金調達を行う取引が7件も報告されています。しかし、2023年に入ると、そのような大型の取引は一つも報告されていません。
さらに、2023年には、3千万ドル以上の資金調達を行った取引がわずか3件しかないことが確認されています。これは、前年の12件と比較すると大きな減少となっており、リーガルテック分野の資金調達の動向が大きく変わってきていることを示唆しています。
リーガルテックの採用の遅れの原因
リーガルテックの採用が遅れている背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、法的産業は新しい技術の採用に慎重であり、これにはさまざまな理由があります。規制の問題はその一つで、新しい技術の導入に関連する法的な制約や規定が存在します。
COVID-19の影響で、クラウドや他の新しい技術ツールの導入が進められていました。これには、書類の提出やコミュニケーションに関連するツールの導入が含まれます。しかし、その興味は冷めてきており、資金調達の減少とともに、取引の数も減少しています。
また、リーガルテックの取引の規模も小さくなってきています。例えば、2022年には1億ドル以上の取引が7件もありましたが、2023年にはそのような大型の取引は一つも報告されていません。
2023年の主要な取引の概要
2023年のリーガルテックの資金調達の動向を詳しく見ると、いくつかの注目すべき取引があります。サンフランシスコを拠点とするEvenUpは、個人傷害法律事務所が一部のワークフローを自動化することを可能にする技術を提供しており、4月に5千万ドル以上のシリーズB資金調達を実施し、同社の評価額は3億2500万ドルに達しました。
また、ニューヨークを拠点とするMasttroは、高級家族向けの資産情報プラットフォームを提供しており、3月に4300万ドルのシリーズA資金調達を実施しました。イスラエルを拠点とするDarrowは、公に利用可能な文書を取り込み、弁護士のための集団訴訟の可能性を検索するAIベースのデータエンジンを使用しており、最近3500万ドルのシリーズB資金調達を実施しました。
これらの取引は、リーガルテック分野における2023年の主要な動向を示しており、今後の市場の方向性を予測する上で非常に有用です。
AIとリーガルテックの交差点
AI技術の進化は、多くの産業に変革をもたらしていますが、リーガルテックの分野もその例外ではありません。公に利用可能な文書を解析し、弁護士のための集団訴訟の可能性を検索するDarrowのようなスタートアップは、AIを活用してリーガルテックの新しい可能性を開拓しています。
「法的AIには現在非常に多くの注目が集まっている」と、EmergenceのジェネラルパートナーであるJake Saperは、サンフランシスコでのAIカンファレンスで述べました。彼の言葉からも、AIがリーガルテックに与える影響の大きさが伺えます。
AIの能力は、高価な仕事の一部を自動化することにあります。この能力は、リーガルテックの分野においても、業界が新しい技術を受け入れるのが非常に遅いにもかかわらず、大きな変革をもたらす可能性があります。
法的AIスタートアップの最新の動向
近年、法的AIスタートアップの資金調達活動が活発化しています。Darrowはその一例であり、他にもPortlandを拠点とするPaxton AIやDallasを拠点とするLegalyze.aiなど、最近資金を調達した法的AIスタートアップがいくつか存在します。
Paxton AIは、規制の洞察を見つけるために生成的AIを使用しています。一方、Legalyze.aiは、法的文書を生成するための技術を使用しています。これらのスタートアップの存在は、AI技術がリーガルテックの分野においてどれほどの影響を持つかを示しています。
Saper氏は、顧客がそれを要求しているため、弁護士たちも新しい技術、特にAIに適応しなければならないと述べています。そして、技術がどのように販売されているかにも変化が見られます。多くのスタートアップが直接法律事務所に販売しようとしていましたが、現在は、生産性が強く推進されている企業の内部法務チームに販売することが多くなっています。
技術の採用を促進する新しいアプローチ
リーガルテックの採用に関して、新しいアプローチが見られるようになってきました。以前、多くのスタートアップは直接法律事務所に技術を販売しようとしていましたが、これは多くの場合、非効果的でした。なぜなら、弁護士はクライアントに請求できるタスクを自動化するインセンティブが少なく、規制上の懸念もあったからです。
しかし、最近の動向として、多くの企業が直接法律事務所ではなく、生産性を強く推進している企業の内部法務チームに技術を販売するアプローチを取っています。この変化は、リーガルテックの採用を促進するための新しい方向性を示しており、今後の市場の動向に大きな影響を与える可能性があります。
リーガルテックの障壁とは？
リーガルテックの採用には、いくつかの障壁が存在します。その中でも、特に注目すべきは、アメリカ弁護士協会のルール5.4です。このルールは、法律事務所を所有できるのは弁護士のみであり、外部の投資は許されていないと定めています。また、法的サービスの提供も弁護士のみに制限されています。
このルールの存在は、新しい技術の投資や採用を難しくしています。例えば、Texasを拠点とするLegal Karmaの創業者であるKory Kellyは、新しいツールを弁護士に販売することが困難であったため、方針を変更して、信用組合や銀行に遺産計画ツールを販売するようになったと述べています。
このような障壁が存在する中で、リーガルテックの未来はどのように形成されるのか、その方向性を予測することは非常に重要です。
アメリカ弁護士協会のルール5.4の影響
アメリカ弁護士協会のルール5.4は、リーガルテックの採用と発展に大きな影響を与えています。このルールは、法律事務所の所有や法的サービスの提供を弁護士のみに制限しており、外部の投資家や非弁護士による法律サービスの提供を禁止しています。
この制約のため、多くのリーガルテックスタートアップは、新しい技術やサービスを市場に導入する際に困難を経験しています。特に、新しい技術を法律事務所に導入しようとする際、ルール5.4の制約により、投資やパートナーシップの機会が制限されています。
このルールの存在は、リーガルテックの採用を遅らせるだけでなく、革新的なサービスやツールの開発を妨げる可能性もあります。しかし、一部の州では、このルールの緩和や変更を検討しているとの報告もあります。
リーガルテックの未来の展望
リーガルテックの未来は、多くの要因によって形成されるでしょう。現在の資金調達の減少やルール5.4の制約など、多くの障壁が存在する一方で、リーガルテックの可能性は無限大です。
AI技術の進化やクラウド技術の普及により、法的サービスの提供方法や弁護士の業務の効率化が期待されています。また、新しい技術の採用を促進するための新しいアプローチや戦略も見られるようになってきました。
リーガルテックの未来を考える上で、最も重要なのは、技術の進化と法的産業のニーズとのバランスを取ることです。このバランスを取ることで、リーガルテックはさらなる発展を遂げ、多くの企業や個人にとっての価値を高めることができるでしょう。
2023年のリーガルテックの展望：変化と未来への期待
2023年のリーガルテックの分野は、資金調達の減少や新しい技術の採用の遅れなど、さまざまな変化に直面しています。しかし、これらの変化の背後には、リーガルテックの未来に対する大きな期待があります。AI技術の進化や新しいアプローチの導入は、法的サービスの提供方法を変革し、業界全体の効率化を促進する可能性を秘めています。
アメリカ弁護士協会のルール5.4などの制約も存在しますが、一部の地域ではこれらの制約の緩和を検討しているとの報告もあります。これにより、リーガルテックの採用や革新的なサービスの開発がさらに進むことが期待されます。
最終的に、リーガルテックの未来は、技術の進化と法的産業のニーズとのバランスにかかっています。このバランスを適切に取ることで、リーガルテックは次のステージへと進化し、多くの企業や個人にとっての価値をさらに高めることができるでしょう。