新型コロナウイルスの流行をきっかけに、国内外を問わず旅行を控える動きが広がっています。その中で生活様式の変化とともに、旅行業界でもメタバース旅行の事例が増えています。
「旅行会社がメタバースを使ってどのようなことをしているのか知りたい」「メタバースを使った旅行や体験に興味がある」という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、メタバース旅行・VR観光の特徴を詳しく解説します。国内外のメタバース旅行についての事例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
メタバース旅行・VR観光とは?
メタバース旅行とは、オンライン上に構築されたメタバース(仮想空間)で、VR(バーチャルリアリティ)技術を活用して旅行をすることです。VR観光やVR旅行とも呼ばれます。
メタバースではアバターと呼ばれる分身を介して仮想空間に入り、他者とコミュニケーションを取るなど現実と同じように時間を過ごせます。
仮想空間をより現実に近い形で体験するための技術がVRで、ゴーグル型ディスプレイなど専用のデバイスを用いて360度の視界を覆うように映像を映すのが特徴です。
現在は、国や地方自治体をはじめ多くの企業がメタバースとVRを掛け合わせた取り組みを行っており、メタバース旅行は一層注目を集めています。
▼関連記事▼
【具体例つき】メタバースとは?メリット・デメリットもわかりやすく解説
メタバース旅行・VR観光のメリット・体験できること
メタバース旅行の主なメリットを詳しく説明します。
- 絶景スポットに入り込める
- いつでもどこにいても旅行ができる
- 実際に旅行するよりもコストを抑えられる
- 実在しない世界の観光もできる
オンラインでありながら、より現実に近い体験ができるのがメタバース旅行の特徴です。
絶景スポットに入り込める
絶景スポットに「入り込む」感覚を味わえるのは、メタバース旅行ならではのメリットです。
通常のオンラインツアーの多くは一定方向からの視点で映像を見るのが主流ですが、メタバース旅行では、VR機器を使って360度の視界全体に景色が広がります。
頭の向きを変えるだけで見える景色が変わるため、まるで景色の中へ入り込むような感覚で絶景スポットを堪能できます。
VR機器を使ったメタバース旅行では、絶景スポットを360度見渡せるだけでなく、本来その場に居なければ味わえない実物のスケールで体感できるのが魅力です。
いつでもどこにいても旅行ができる
メタバース旅行における最大の特徴は、時間や場所に関係なくいつでも自由に旅行が楽しめることです。
インターネット環境さえあれば、従来の旅行のように事前の計画や準備の必要がありません。行き先がたとえ海外の観光地であっても、時間とお金をかけずに誰でも気軽にアクセスが可能です。
また、コロナ禍に代表される社会情勢などの影響を受けず、一人旅はもちろん家族や友人とも一緒に旅行ができます。
メタバース旅行は自由なスタイルで体験できるのが特徴です。さまざまな理由で旅行に行きたくても行けない方や、事前の下見をしておきたい方などメタバース旅行はあらゆるニーズを満たすでしょう。
実際に旅行するよりもコストを抑えられる
メタバース旅行では、従来の旅行と比べてコストを抑えられるメリットがあります。無料で楽しめるツアーの開催が多く、たとえ有料であっても比較的安価でツアーが提供されているため、格安で旅行を楽しむことが可能です。
従来の旅行では、ツアー料金だけでなく現地へ向かう交通費や宿泊費なども発生します。一方、最近では物理的かつ時間的なハードルが低く、コストメリットも感じやすいメタバース旅行を好む方も増えています。
実在しない世界の観光もできる
実在しない世界の観光もメタバース旅行で体験できることのひとつです。
メタバース上では、現実の世界を忠実に再現している空間と異次元世界の空間があります。映画やアニメの世界などを舞台にしたものもあり、現実の世界では体験できないような非日常を味わうことができると人気です。
このようにメタバース上でしか存在しない異次元世界に触れられることは、メタバース旅行の醍醐味と言えるでしょう。
メタバース旅行・VR観光のデメリット
メタバース旅行のデメリットとして次の3点が挙げられます。
- 五感全てで楽しむことはできない
- 現地の人との交流や出会いは得られない
- 機器が必要になる場合がある
発展途上にある現状のメタバース旅行では、従来の旅行と比べて、体感できることが限られてしまう側面があります。
五感全てで楽しむことはできない
現状のメタバース旅行では、五感全てを使って観光を楽しむことはできません。視覚や聴覚にリアリティを与える今のVR技術では、匂いや触り心地を体験するのは難しく、旅行の楽しみが限られると感じる方もいるでしょう。
メタバースやVR技術は比較的新しい分野です。今後さらなる技術開発が進めば、五感を使ったメタバース旅行も実現する可能性はあります。
現地の人との交流や出会いは得られない
メタバース旅行では、従来の旅行で得られるような現地の人との出会いは期待できないと言われています。ツアーの案内人や参加者同士の交流を通じてメタバース上での出会いはあっても、必ずしも現地の人がいるとは限りません。
そのため、旅行先で現地の人とコミュニケーションを楽しみたい方にとっては、メタバース旅行は物足りなく感じる場合も。
今後メタバースを使う人口が増えていくと、現地の人と交流することもできるかもしれません。
機器が必要な場合も
従来の旅行と比べて気軽さが特徴のメタバース旅行ですが、VR機器が必要になる場合があります。パソコンやスマートフォンがあれば参加できるメタバース旅行もありますが、より仮想空間の世界に入り込みたい場合にはVR機器が必須です。
ゴーグル型ディスプレイをはじめとするVR機器は、使いづらくハードルが高い印象が否めません。
今後の技術発展次第で使いやすい形状に進化していくことが予想できますが、現状はすぐには手が出しにくいと言えるでしょう。
メタバース旅行・VR観光に必要なもの
メタバース旅行に必要なものは、決して多くありません。次の2つがあれば、誰でも気軽に始められます。
- スマートフォンやVR機器
- インターネット環境
スマートフォンやVR機器
メタバース旅行は、専用ゴーグルなどのVR機器を使用するものから、スマートフォンで簡単にアクセスできるものまでさまざまな形で楽しめます。
パソコンやスマートフォン単体で楽しめるメタバース旅行もありますが、没入感や臨場感を味わうにはVR機器の使用がおすすめです。
今ではスマートフォン用のVR機器も用意されており、比較的安価で購入できます。必要な時にだけ使用したい方や購入前に一度試してみたい方は、レンタルサービスを利用するのもおすすめです。
インターネット環境
メタバース旅行といったオンライン空間を楽しむためにインターネット環境は不可欠です。
メタバース旅行のコンテンツは、一度に多くの通信量を消費するものが多く、通信状況が悪い場合には、音質や画質の低下や音声や画像が途切れる可能性も考えられます。参加前に通信環境を確認しておくと安心です。
メタバース旅行・VR観光の事例7選
観光分野におけるメタバース活用について、以下の7つの事例をご紹介します。
- バ―チャルOKINAWA(あしびかんぱにー)
- ANA NEO(ANA)
- 横浜みなとみらいエリアのメタバース(国土交通省)
- バーチャル大阪(大阪府)
- メタバースバスツアー(琴平バス)
- HIS トラベルワールド(HIS)
- ZENメタバース体験ツアー(パソナグループ)
バ―チャルOKINAWA(あしびかんぱにー)
「バーチャルOKINAWA」は沖縄発のエンターテインメントコンテンツの企画・開発会社あしびかんぱにーが運営するメタバースです。離れた場所でも、沖縄県の観光スポット「国際通り」や世界遺産「首里城」の観光を楽しむことができます。
沖縄の美しい海や伝統芸能エイサーを見たり、アバターに沖縄の伝統衣装を着せてバーチャル居酒屋でお酒を飲んだり、沖縄旅行へ行っている気分を楽しめます。
沖縄観光に限らず、さまざまなイベントを仕掛けるなど「メタバースを活用した地域活性化」を掲げた取り組みが注目されています。
ANA NEO(ANA)
ANAホールディングス株式会社は、2021年にバーチャルトラベルプラットフォームを開発・運営するANA NEO株式会社を設立。新たな旅の体験サービス「SKY WHALE」のリリース計画を発表しました。
「SKY WHALE」を構成する「Skyパーク」では、3D CGによって描かれた世界各国の都市や絶景スポットを楽しめる新たな旅行体験を提供します。
好みの旅行スタイルを設定したり、最大8人まで同時に参加できる旅行体験を楽しんだりと、旅を専門とするメタバースプラットフォームの誕生は世界の注目を集めています。
▼関連記事▼
ANAが手がけるメタバース『GranWhale』とは?提供する3つのサービスなどを解説
横浜みなとみらいエリアのメタバース(国土交通省)
国土交通省は観光庁と連携して横浜・みなとみらいエリアのメタバースを構築し、2021年12月から2022年1月の期間限定でXR/AR観光バスツアーを提供しました。
XR(クロスリアリティ)とは、現実世界と仮想世界を融合することで現実にはないものを知覚できる技術のこと。
ツアー参加者はヘッドセットを装着してオープントップバスに乗り、リアルとバーチャルが融合したみなとみらいの景色を観光しました。実証実験として実施されたツアーの予約率は9割近くにのぼり、注目度の高さがうかがえます。
▼関連記事▼
xR メタバース(クロスリアリティメタバース) | VR・AR・MR・SR メタバースとの違いはあるの?
バーチャル大阪(大阪府)
大阪府は大阪市と連携しKDDI株式会社、株式会社博報堂、吉本興業ホールディングスと共同で「バーチャル大阪」を運営しています。
道頓堀や海遊館など大阪の人気観光地をメタバース上に構築し、2025年の関西万博に向けて大阪の魅力を国内外に発信するためのPR活動を行っています。
専用アプリ「cluster」から無料で参加でき、アバターを使ってメタバース空間の回遊や写真撮影、ビルの外壁を登るアトラクション、参加者同士の交流が可能です。
イベント開催や新エリアの拡張も計画され、地方自治体によるメタバースへの取り組みの先駆けとして期待されています。
▼関連記事▼
clusterとは?メタバース業界で存在感を増す企業の動きに迫る!
メタバースバスツアー(琴平バス)
以前よりオンラインバスツアーを積極的に行ってきた香川を拠点とする琴平バス株式会社は、メタバース時代のバス旅行として「メタバス」を開始しました。
2021年には、一般社団法⼈⽇中ツーリズムビジネス協会による「地域観光デジタルChallenge大賞」を受賞しています。
没入型メタバースバスツアーは、現地の話を聞くだけでなく、他の参加者たちとコミュニケーションが取れるスタイルが特徴です。主に、ライブ中継動画で旅行気分を楽しみ、ご当地グルメを自宅で味わうサービスを提供しています。
HIS トラベルワールド(HIS)
株式会社エイチ・アイ・エスは、2022年6月から7月の期間限定で開設されたスマートフォン向けメタバース内で「HIS トラベルワールド」を設立。パンプレットに「入り込む」体験をコンセプトとしたバーチャル支店と位置付けられ、国内外から130万人を超える来場者数を記録しました。
旅行先として人気のフォトスポットが再現されたメタバース空間で、アプリ内のアバターを利用してバーチャル旅行を体験し、撮影した写真をSNSに投稿して楽しみます。
QRコードやリンクから旅行予約ができるなど、メタバース上から現実の旅行へと訴求する仕組みが特徴です。
▼関連記事▼
JTBが実施しているメタバース事業とは?他の観光業の事例と合わせて解説
ZENメタバース体験ツアー(パソナグループ)
株式会社パソナグループがメタバース空間で再現したのは、兵庫県淡路市にある座禅リトリート施設「禅坊 靖寧」です。2022年9月から、オンライン上でアクティビティを体験できる「ZENメタバース体験ツアー」を開催しました。
参加者はアバターを使ってメタバース空間に入り、インストラクターによる指導のもと座禅リトリートを体験できます。
参加費無料で各回参加対象者と人数を限定して開催され、外国人向けに英語のツアーも行われました。現在は、ツアー以外でも、メタバースで施設の魅力を体験できます。
メタバース旅行で海外へも行けるように
メタバース旅行は国内にとどまらず、海外でも積極的に取り組みが行われています。海外でのメタバース活用事例を3つ紹介します。
1つ目は、韓国・全州市が構築を目指す伝統文化を体験できるプラットフォームです。
有名な観光スポット「全州韓屋村 」をはじめ、特化図書館などを旅行する仮想空間を具現化するとしています。位置情報を活用した観光情報の提供や買い物機能の搭載など、より現実に近い観光ができると期待されています。
2つ目は、アメリカ現地日系旅行代理店が開催するメタバース旅行です。パワースポットのセドナ、大自然が広がるグランドキャニオン、カジノで有名なラスベガスへのツアーを開催しています。
いずれも所要60分で料金は約2,000円と手軽にアメリカ旅行を楽しめます。
3つ目は、最も有名な世界遺産のひとつインドのタージマハルです。
高解像度の空撮に特化した撮影技術を用いて、タージマハルのリアルな魅力が感じられると評判のバーチャル旅行です。360度あらゆる角度から白い大理石で造られた霊廟の美しいデザインを堪能できます。
▼関連記事▼
日本と海外のメタバース企業一覧|参入の価値は十分あり?将来性も解説
メタバース旅行は今後も増えて行く
メタバース旅行は今後も市場の拡大が見込まれている分野です。旅行が好きな方に限らず、さまざまな理由で旅行に行くことが難しい方など、より多くの方に旅行を提供できる点でも注目を集めています。
メタバースやVR技術は世界中の企業が積極的に開発を進めており、メタバース旅行で体験できることは今後ますます増えていくでしょう。興味のある方は、一度メタバース旅行を体験してみてはいかがですか。
▼関連記事▼
あのディズニーもメタバースへ参入!本腰を入れ始めた理由や動きを紹介
メタバースに参入した日本企業の業種別一覧!ブームの背景や将来性も解説