電通グループでは昨年12月、メタバースに関する「認知・理解・興味・関心」について、15~59歳の2000人を対象に意識調査を実施。前年比4倍の70%を超える人が認知していることが判明したとしています。
課金サービス年間総利用額も前年比約3倍という結果で、メタバース時代の本格的な到来を示す結果です。
ただ、メタバースにはゲーム、ライブ、コミュニティ、ショッピングなど様々なジャンルがあり、意識調査の対象者はどのジャンルを認知しているのでしょうか?
電通グループはメタバースにどのように取り組んでいるのか、広告の現状はどうなのかなど疑問をもつかもしれません。
本記事では、電通グループのメタバースへの取り組みと広告の現状と課題などについて探ってみましたので、参考にして頂けましたら幸いです。
電通、博報堂メタバース広告にディストピアの懸念
電通や博報堂など大手広告代理店グループは、メタバース内における広告表示の取り組みを進めています。
しかし、2022年11月に博報堂が公表したレポートには、次のように記されています。
「広告がビジネスとして拡張を続けていくと、生活者のプライベートな空間を過剰に浸食するようにもなっていきます。とくにインターネットでは、広告によってサイトの美観や体験の質が下がる場面も生まれるようになりました」
広告を生業とする同社がこのようなレポートを公表した理由を探ってみましょう。
Facebook、メタバース広告での失敗
メタバースとは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)技術を駆使して作られた「限りなく現実に近い仮想空間」のことです。人気オンラインゲーム「マインクラフト」や「フォートナイト」などの空間なども含めて定義されることもあります。
そんなメタバース内の広告をめぐって、Meta(旧Facebook)で次の問題が発生しました。
2021年に同社が提供するVRゲームコンテンツ内において、「広告表示のテストをする」と発表するとそのコンテンツページで批判コメントが殺到。コンテンツ提供元が参加を見送る事態となったのです。
皮肉にも「広告」は、単にコンテンツを楽しみたいユーザーにとって、嫌われ者であることを証明する結果となってしまいました。メタバースの旗振り的存在で、世界的な大企業ですらメタバースへの広告導入は一筋縄ではいかないことを世界の広告業界に見せつけた形です。
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メタバース広告の利点と課題
メタバースでの広告は、リアル世界の広告制作物に比べ、低コストで簡単に作れるという利点があります。しかし、Metaの事象からみても、過剰と感じさせる広告やモニタリングなどは、かえってユーザ―から嫌われる逆宣伝になりかねません。
広告がユーザーの体験として価値あるものになっているか、邪魔するものになってしまっているか、消費者と企業を適切に繋げられているかなど、さまざまな視点から練り込む必要があると博報堂の自虐的とも取れるレポートには込められているのです。
Metaの事象を含めメタバース内での広告は、取り組み方によってはディストピアになりかねないと指摘しています。
ロブロックスでゲーム内の広告枠を販売
博報堂傘下のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムでは、2022年5月より日本企業向けに、米国のオンラインゲーム「Roblox(ロブロックス)」内での広告枠の販売を開始しました。
一方、電通グループは「Roblox(ロブロックス)」上で遊べるゲームを開発するロフォーコ社への出資を発表しています。そのなかで、「ゲーム領域での開発力の向上を目的としているが、将来的にはロブロックス内でのマーケティングなども想定している」(電通ベンチャーズ笹本康太郎氏)とコメントしました。
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看板だけでは広告効果が低い理由
電通は2022年9月に開催された「東京ゲームショウ2022」でバーチャル会場の企画・運営を担いました。出展社は、ゲーム関連企業以外にプロモーション協賛企業やアパレル協賛企業も参加。また、東京ゲームショウ2021では、NTTと共同でメタバースの広告モデル実証実験も行いました。
これらの取り組みから得られた結果は、メタバース内で「単純に看板を出すだけではユーザーの行動変容を促す効果は低い」というデータだったとしています。
また、電通グループのメタバースを活用して企業の成長支援を行う横断組織「XRX STUDIO」は次のようにコメントしています。
「メタバースでは、視野角や解像度、焦点距離の調整などの問題から、特に注目したいもの以外には意識が向きにくいという特性がある。そのため看板広告のような周辺視野を活かした広告の認知が現実よりも弱い」(XRX STUDIO 金林真氏)
グラフィック、ゲーム性でクオリティの高いものを作るなど、中心視野で楽しめるものを企画・制作する能力は重要です。電通のメタバースがバーチャルライブ中心になっているのもそうした試みからでしょう。ライブであれば、視覚以外にも伝えられる方法があります。
いずれにしても企業側でメタバースの特徴と自社サービスの関係性を理解する必要があることは確かです。
ネット広告の次は何なのかを見据えた競争
電通が2022年2月に発表した広告費の調査レポートによると、2021年にインターネット広告が、初めてマスコミ4媒体(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の広告費を上回ったと言います。
先述のXRX STUDIOの金林氏は、メタバースに注力する理由は「まだそれほど注目されていないが、次に来るメディアだと考えている」とのコメントです。
広告業界の主軸媒体が変わる大きな変化のなかで、電通や博報堂のメタバースへの取り組みは、インターネット広告の次を見据えた競争と言えるでしょう。
電通メタバースグループ
電通でメタバースを推進するグループ企業とその役割を見てみましょう。
電通ジャパンネットワーク(DJN)
企業のメタバース活用を統合的に支援し、市場の創造・拡大に貢献することを目的とした電通メタバース事業の中核組織です。
DJNは、純粋持株会社である株式会社電通グループの社内カンパニーであり、グループ約160社で構成されるネットワークそのものを指します。
メタバース事業は、DJNのR&D組織「電通イノベーションイニシアティブ」及び「XRX STUDIO」を組成し、企業に対し「インテグレーテッド メタバース ソリューション」の提供を2022年5月より開始しました。(詳細は後述)
電通イノベーションイニシアティブ(DII)
グローバルで有望なスタートアップ・テクノロジー企業への投資・事業開発を推進し、未来の事業基盤の創造に取り組むR&D組織です。メタバース事業では、バーチャルライブアプリの開発会社VARK社や「Roblox(ロブロックス)」上で遊べるゲーム開発会社ロフォーコ社、ambr社への出資を担当しました。
XRX STUDIO
2021年2月に発足。XRテクノロジー(VR・AR・MRなど、架空と現実を融合させる技術の総称)を活用し、ビジネスやライフスタイルをつくり変えていく「XRトランスフォーメーション」の推進に取り組んでいる国内電通グループの横断組織です。
事業構想からマーケティングソリューション開発、UI/UX開発、運用、PDCAまでをワンストップで統合的に提供し企業の事業成長を支援すると言われています。メタバース作成支援、共有ツール「XRX STUDIO」の提供をはじめ、さまざまなソリューション開発と支援ツールの提供を行って「XRトランスフォーメーション」に取り組むとしています。
VARK
バーチャル空間でさまざまなエンターテイメントコンテンツを楽しめるアプリケーション「VARK」を提供している電通関連企業です。VARKの特徴は、例えばバーチャルライブでアーティスト達を超至近距離で見るなど生のパフォーマンスを楽しめる点にあります。
VRデバイスでライブに参加すると迫力があり臨場感を感じられますが、VRデバイスがなくてもスマホやPCで参加可能です。
ambr
VRプラットフォーム「仮想世界ambr(アンバー)」を提供し、VRクリエイティブスタジオ事業を展開する電通の関連会社。
ambr(アンバー)は、ユーザーが繰り返し訪れたくなる、新しいユーザーを招き入れたくなるVRプラットフォームで、ユーザーやコミュニティと共に発展していく仮想世界の構築を得意としていると言われています。
電通グループのメタバースへの取り組み
インテグレーテッド メタバース ソリューションの提供
インテグレーテッド メタバース ソリューションでは、以下のサービスを提供しています。
- 事業開発支援:
リアルを超えるライブエンターテイメント事業の企画・実施、B to Bイベントやカンファレンスの企画・実施など。
- オウンドメディア支援:
ユーザーやファンのエンゲージメントを高めるオウンドメディアのUIUX設計から運用支援
- 店舗開発支援:
新たなショッピング体験を実現するためのメタバース空間に最適化した店舗設計、Eコマースや販売チャンネルの強化、リアル店舗との連携 - 統合プロモーション支援:
メタバース空間上の屋外広告や商品発表・展示会、ARを活用したリアルとの連携、リアル店舗への送客、プロモーションの最適化
ライブエンターテイメントを中心として、オウンドメディアの運用、ショッピング、プロモーションまでメタバース事業に必要なソリューションは整っているようです。
フェス会場「VARK ARENA」の提供開始
VARK ARENAは、VTuberやバーチャルアーティストのみならず、現実のアーティストもライブイベントを開催できるところが特徴です。また、ライブやフェスの開催企業はイベント企画に応じ、ステージデザインの変更やオリジナルオブジェクトの設置、3Dオブジェクトを活用してインタラクティブで拡張性の高い広告の掲出ができるツールです。
VARK ARENAは、テレ東バーチャル音楽祭で採用されています。
XRX STUDIO
VR(仮想現実)空間内で集めた画像や動画を3D空間に自由に配置、閲覧、整理することができる支援・共有ツールです。画像検索や最新ニュース閲覧、VR空間内で作成したシートのPDFへのアウトプットもできます。
東宝スタジオ内でメタバースプロダクション
電通クリエイティブキューブでは、電通クリエイティブX、東北新社、ヒビノと4社共同で、「メタバース プロダクション」を東宝スタジオ内に2カ月間限定で設営しました。
この際、「studio PX SEIJO」内には、大型LED(全幅 12m×高さ 4.5m)が常設されており、3DCG (背景)アセットを9種類提供しています。
大型のバーチャルイベントを制作するための仮想空間とオブジェクトを制作する環境を整えていたようです。こうした取り組みから、今後メタバースのキラーコンテンツが生まれてくるのでしょう。
まとめ
電通グループのメタバース推進のグループ企業や具体的な取り組みについて、現状を解説しました。
メタバースは「看板だけでは広告効果が低い理由」でも述べられていたとおり、メタバースの特徴をよく掴んだうえで自社サービスとの関係性をよく練り込む必要があります。
リインフォース株式会社では、メタバースの成功例や失敗例を取材し分析したうえで、お客様に適切にアドバイスを行っております。お気軽にご相談ください。
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