先端技術を駆使したバーチャルリアリティ(VR)、オーグメンテッドリアリティ(AR)、ミックスドリアリティ(MR)のヘッドセットを開発し、世界の大企業に提供するフィンランドのVarjo。
人間の目に匹敵するという高解像度のデバイスを擁する同社は、豪華なマネジメントチームを有し、スタートアップながら業界をリードする存在として注目を集めています。
本記事では、Varjoの事業内容、製品ラインナップ、創業メンバー、経営状況、普及に必要な要素、Varjoが実現しうる世界について解説していきます。
Varjoの事業内容:高性能なVR/AR/MRヘッドセットを開発
フィンランドのVarjo Technologies Oy(通称Varjo)は、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)および複合現実(MR)ヘッドセットの製造業者です。同社は、2016年に元ノキアおよびマイクロソフトの幹部によって設立されました。Varjoは、人間の目と同等の鮮明さを提供する高解像度デバイスの開発を専門としています。
同社の最初のヘッドマウントディスプレイであるVarjo VR-1は、2019年2月に発売され、2019年10月にはVarjo VR-2およびVR-2 Proモデルが続きました。Varjoの最初の複合現実デバイスであるVarjo XR-1 Developer Editionは、2019年12月に市場にリリース、第3世代の製品であるVarjo XR-3およびVR-3は、2020年12月に発売。第4世代の消費者向け製品であるVarjo Aeroは、2021年に市場にリリースされています。
Varjoの製品ラインナップ:プロフェッショナルに向けた最先端VR/AR/MRヘッドセット
Varjoの製品は「Varjo XR-3」「Varjo VR-3」「Varjo Aero」の3タイプがあり、以下でそれぞれについて解説します。「Varjo XR-3」「Varjo VR-3」がプロフェッショナルや業務用途向け、「Varjo Aero」がハイエンド製品を求めるユーザーも含めターゲットとしています。
Varjo XR-3
世界で唯一の人間の目の解像度(70 PPD以上)を持つ、最も広い視野角(115度)のMRヘッドセットです。あらゆる製品の中で、最も自然な没入体験を保証しています。精密にキャリブレーションされた色合いにより、Varjo XR-3は革新的な体験の実現を目指しています。
【製品スペック】
- フルフレームバイオニックディスプレイ:業界最高の解像度(70ppd以上)と広い視野角(115°)で、現実感と視界を向上させる。視界最適化のためのフォービエイテッドレンダリング。
- デプス認識:LiDARとステレオRGBビデオパススルーを使用して、リアルタイムオクルージョン、現実感のある照明、反射、影を実現。
- 統合されたアイ&ハンドトラッキング:200Hzで最速かつ最も正確な統合アイトラッキング。Ultraleapハンドトラッキングで自然なインタラクションが可能。
- インサイドアウトトラッキング(ベータ):基地局が不要で、柔軟性が向上。
Varjo VR-3
フルフレームのバイオニックディスプレイにより、業界で最も広い視野角(115度)にわたる最高の解像度を誇ります。視野の中心部で70ピクセル以上の解像度を実現し、仮想現実において細かいディテールを高いクリアリティで見ることが可能。また、sRGBカラースペースと一致する99%の色の精度を持つため、現実世界に近似する映像を実現します。
【製品スペック】
- フルフレームバイオニックディスプレイ:業界最高の解像度(70ppd以上)と広い視野角(115°)で、現実感を向上。視界最適化のためのフォービエイテッドレンダリング。
- 統合されたアイ&ハンドトラッキング:最速かつ最も正確な200Hzフレームレートの統合アイトラッキング。Ultraleapハンドトラッキング搭載。
- 快適さ:3点精密フィットヘッドバンド、アクティブ冷却、超広角光学設計で、長時間のVRセッションでも快適に使用可能。
- ソフトウェア互換性:Unity、Unreal Engine、幅広い産業用3Dソフトウェアに対応。
Varjo Aero
Varjo Aeroは、プロフェッショナルと最先端のVRユーザーの両方にとって、視覚的な精度において世代を超越した進化を提供します。未来を見据えた光学設計と美しいデュアルミニLEDディスプレイを搭載しています。
【製品スペック】
- Varjo Aeroは、業務用VR/XRヘッドセットのポートフォリオに新たに加わったバーチャルリアリティヘッドセット。要求の厳しいVRユーザー向けの初めてのVarjo製品。
- 先進的なビジュアル品質とパフォーマンス:端から端までクリアな35 PPDの解像度と、水平視野角が115°。
- 高度な人間工学に基づく設計、軽量化、アクティブ冷却により、長時間の没入体験
Varjo製品の価格
- Varjo XR-3:€6495(加えて、年間€1495のサブスク料金支払いが必要)
- Varjo VR-3:€3645(加えて、年間€795のサブスク料金支払いが必要)
- Aero:€1990(サブスク料金は無し)
プロフェッショナル向け、ハイエンド向けだけあり、VR/ARヘッドセットの中でも高額な価格帯になっています。
Varjo製品の導入事例
Varjoの公表情報によれば、フォーチュン100社の25%がVarjoのXR/VRハードウェアおよびソフトウェアを利用しているとのことです。Volvo Cars、Lockheed Martin、Boeing、Aston Martin、Kiaなどの世界に冠たる企業が導入し、効果を創出していると謳っています。
また、米国および欧州の各政府部門でも導入が進んでいるとのこと。業界をリードするプロフェッショナル向けVR/XR企業として、同社は最も先進的なハードウェアおよびサービスの開発を続けることに力を入れていおり、今後も大企業を中心に導入が進む可能性があります。
Varjo製品が今後更に普及するための条件
Varjoが提供するプロダクトが普及するためには、以下の要素が重要となります。
価格の低減
現在、Varjoのプロダクトは高品質である一方で、価格が高く設定されています。また製品ブランディングをどうするか、に大きく依存しますが、もし価格の大幅な低減を実現した場合、スペックと併せて一般消費者にとっても手に入れやすい価格にすることで、普及が促進されるでしょう。
ソフトウェアの充実
高品質なハードウェアを活かすためには、それに見合ったソフトウェアが必要です。Varjoのデバイスをサポートするアプリケーションやソフトウェアが増えることで、より多くの人々にとって魅力的なプロダクトとなります。
ユーザーフレンドリーな設計
使いやすさや快適さは、プロダクトの普及において重要な要素です。Varjoは、デバイスの装着感や操作性を改善し、一般の消費者にも受け入れられるデザインを目指すべきです。現状は、サイズや重量の低減も重要になります。
広報・マーケティング活動の強化
Varjoのプロダクトの魅力や利点を広く伝えるために、広報やマーケティング活動が重要です。メディアへの露出やデモイベントの開催、パートナーシップの拡大などを通じて、認知度を高めることが普及につながります。
産業・教育機関との連携
Varjoの技術は、産業や教育分野での活用が期待されています。企業や教育機関と連携し、実証実験や導入事例を増やすことで、プロダクトの価値がより広く認識され、普及が促進されるでしょう。
これらの要素が整うことで、Varjoのプロダクトは広く普及し、多くの人々にとってより身近な存在となるでしょう。
Varjoが秘める世界変革の可能性:仮想旅行、リモートワークの高度化、教育やエンターメイントの進化
VarjoのVR/AR/XRプロダクトは、人間の目に匹敵する高解像度VR・AR・MR技術を持っているとされており、今後の「デジタル・アナログの境界が曖昧になる」世界が到来した時に、重要な役割を果たすかもしれません。例えば、以下の実現が考えられるでしょう。
仮想旅行の新時代
Varjoの高解像度技術を活用することで、仮想旅行がますます現実感に溢れるものになります。これにより、遠方の観光地や歴史的な場所を訪れることが難しい人々にも、現地にいるかのような体験が提供されることでしょう。
リモートワークの最適化
Varjoの技術は、リモートワークの環境を飛躍的に向上させる可能性があります。高解像度でのコラボレーションが可能になることで、遠隔地でのチームワークがさらにスムーズになり、コミュニケーションの質も向上するでしょう。
進化する教育分野
Varjoのデバイスを教育分野で活用することで、従来の教材や授業にはない、新たな次元の学びが可能になります。例えば、歴史の授業で古代の都市を歩き回ったり、科学の授業で微生物の世界を探検したりすることができるでしょう。
エンターテインメントの進化
映画やゲーム、アートなどのエンターテインメント分野でも、Varjoの技術が新たな表現方法を生み出す可能性があります。現実に違わない映像、また没入感が向上することで、より感情移入しやすくなり、物語やアート作品の鑑賞がより深いものになるでしょう。
これらの見解からも、Varjoのプロダクトは私たちの生活や働き方、学び方、そして楽しみ方に大きな変化をもたらす可能性を秘めていると言えます。
Varjoの創業メンバー
Varjoは、2016年にフィンランド南部ヘルシンキで4名によって設立されました。以下でVarjoの創設者たちを紹介します。
ニコ・アイデン(Niko Eiden)
Varjoの共同創設者兼取締役です。以前はCEOでしたが現在はボードメンバーになっています。また、光学を専門とするコンピュータおよび電子製品製造会社PixierayのCEOを務めています。
LinkeIn;https://www.linkedin.com/in/eiden/?originalSubdomain=fi
クラウス・メラカリ(Klaus Melakari)
共同創設者兼CTOです。彼は20年間の研究開発、システム設計の経験を持っています。以前はMicrosoft MobileのComputational Vision Systemsの責任者、NokiaのDistinguished Architectを務めていました。クラウスは、オウル大学で電気・電子工学の修士号を取得しています。
ルーペ・ライニスト(Roope Rainisto)
共同創設者兼チーフデザインオフィサーです。彼は15年間のコンセプト開発およびUXデザインの経験を持っています。以前はMicrosoftとNokiaの主任デザイナー、Microsoft MobileのComputational Vision UXの責任者を務めていました。また、40以上の特許の発明者でもあります。彼は技術、情報ネットワークの修士号を持っています。
ウルホ・コントトリ(Urho Konttori)
Varjoの創設者です。彼は、マイクロソフトとノキアで大規模なハードウェアおよびソフトウェアプロジェクトにて、システム設計、エンジニアリングなど15年以上の経験を持つプログラムマネージャーです。
彼は、カメラ、透過タッチスクリーン指紋、VRヘッドセット技術など、高い消費者価値を持つ技術を探求、評価、定義し、10以上の特許が成果として生まれました。また、彼はLinuxベースのNokia N9およびN900 OSを含む複数のオペレーティングシステムの開発をリードしました。ウルホは、アルゴリズムの学士号を取得しています。
Varjoの資金調達状況
Varjoはこれまでに合計1億6,250万ドルの資金を9ラウンドで調達しています。最新の資金調達は2022年9月6日のシリーズDラウンドで行われました。
Varjoに投資したのは、Foxconn、EQT Ventures、Volvo、Atomico、Mirabaud、Tesi、Lifeline Ventures、European Bank、Nordic Fundなどです。Varjoの顧客には、Aston Martin、Boeing、Lockheed Martin、Audi、Volvo Cars、Siemensなどの業界リーダーが含まれています。
Varjoが考える今後の方針:資金調達によりクラウドサービス開発拡大へ
Varjoは、調達した資金を研究開発 (R&D) クラウドサービスの強化に充てる予定です。特に、2022年4月に発表されたVarjoのXRストリーミングプラットフォーム「Varjo Reality Cloud」の開発に力を入れる方針を打ち出しています。
資金調達のプレスリリース時、VarjoのCEOであるTimo Toikkanenは、「当社が過去数年間で見せてきた驚異的な成長を受け、新たな資金調達が実現しました。プロフェッショナル向けのリアルなメタバースのビジョンはすでに現実のものとなっており、世界最大かつ最も象徴的な企業に、人間の目と同等の解像度を持つ仮想現実と複合現実技術を提供する唯一の企業であることを誇りに思います」と述べています。
資金調達の発表とともに、Patrick Wyatt氏が新たにChief Product Officerに任命され、Varjoのソフトウェアおよびクラウド開発イニシアチブの主要責任者となりました。Patrick氏は、Zoe、Deliveroo、Criteoなどの欧州および英国企業での製品責任者やリーダーシップ経験を持つ人物です。
新たな資金およびマネジメントチームの元で、同社はデザイン・製造、エンジニアリング、教育、医療などの新しいエンタープライズ業界において、同社のソフトウェアおよびハードウェアの提供を拡大する施策を強化する方針です。
まとめ
本記事では、フィンランドのVarjoについて解説しました。Varjoは、人間の目に匹敵する構成のなVR/AR/MRヘッドセットを展開し、世界中の企業や業界で活用され始めています。創業メンバーは、豊富な経験と専門知識を持ち、さまざまな分野で著名な企業から支持されています。
今後も更なるプロダクトの進化、新たな技術開発や製品展開に期待されています。Varjoは、高解像度VR・AR・MR技術を持って業界をリードし、プロフェッショナル領域のメタバースを進化させる可能性を秘めています。
今後、デジタルとアナログの境界があいまいになる世界を実現し、重要な役割を担うかも知れません。