ChatGPTを始めとするジェネレーティブAI技術の進化とともに、海外を中心にプロンプトエンジニアリングという分野が注目を集めています。しかし、日本国内においてはまだ馴染みが薄く、具体的にどのような業務なのか理解しにくいかもしれません。
この記事では、米国や英国で発信されている情報を元に、プロンプトエンジニアリングとは何か、その歴史や発展、そしてどのような業務・スキルが求められるのかなど、徹底的に解説していきます。プロンプトエンジニアリングについて理解を深め、AI技術の最前線を知ることができるでしょう。
プロンプトエンジニアとは?
そもそもプロンプトとは何か
ユーザーとジェネレーティブAIモデル間の主要なコミュニケーション手段を指します。ChatGPTであれば、質問や指示として入力するテキストになります。インターフェースにコマンドを入力することで、モデルに何を実行させるか指示できます。例えば、DALLE-2やStable Diffusionのような画像生成AIモデルにおいては、入力されたテキスト=プロンプトに基づいて画像が自動で生成されます。
GPT-3やChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)では、プロンプトは単純な質問(「ドイツの大統領は誰ですか?」)から、多くの情報が盛り込まれた複雑な内容まで様々です。
プロンプトエンジニアの定義
プロンプトエンジニアとは、AIモデルに対する入力データ(プロンプト)の設計や作成を行う専門家のことです。AIモデルが特定のタスクを実行するために必要なデータを選択し、モデルが理解し適切な回答が得やすい形式に整形します。
広義に捉えると、ChatGPTなどのジェネレーティブAIを利用している人も、プロンプトを入力して回答を得ているという意味においては、プロンプトエンジニアであるとも言えるでしょう。
プロンプトエンジニアの歴史と発展
プロンプトエンジニアリングは、AIの発展とともに進化を続けており、米国や英国では一般的になりつつあります。ChatGPTに搭載されているGPT-2やGPT-3などの言語モデルの登場によって、プロンプトエンジニアリングの需要は高まっています。
近年では、GPT-3やBERTなどの自然言語処理技術の発展により、テキストデータを解析し、質問応答や文章生成などを行うAIアプリケーションが続々と登場しています。これに伴い、その進化を担うプロンプトエンジニアの役割は重要性が高まっています。
プロンプトエンジニアの主な業務内容
プロンプトエンジニアの業務内容は、当然ながらプロジェクトによって異なりますが、ChatGPTに代表されるジェネレーティブAIツールから望む結果を引き出すためのプロンプト(質問/入力内容)の検討・インプットです。
プロンプトエンジニアリングには、AIモデルに対して特定タスクを実行するように訓練するためのプロンプト(入力データ)を設計・作成するプロセスが含まれることもあります。そのために、適切なデータセットを選択し、モデルが理解できるようにデータを整形します。
その場合、プロンプトエンジニアリングの目的は、ChatGPTなどに代表されるAIモデルが有意義で正確な回答を行うことができるように、高品質な訓練データを作成することです。これは、AIシステムの開発と進化において重要なステップになります。
プロンプトエンジニアとAIエンジニアの違い
どちらも「エンジニア」という肩書きが付いていますが、プロンプトエンジニアとAIエンジニアは同じものではありません。AIエンジニアはAIシステムやモデルを構築します。ITへの理解、データサイエンス、機械学習などの分野でのバックグラウンドが必要です。
一方、プロンプトエンジニアは、AIモデルに出力を生成するように指示するために使用されるプロンプトを作成します。技術的なバックグラウンドがなくても、対応可能です。
良いプロンプトとは何か
表現が分かり易く具体的な内容のプロンプトは、回答者であるAIツールがタスクを理解し、関連性のある正確な回答を提供するために不可欠です。正確で信頼性のある情報を収集することが目的の研究や情報収集においては特に重要です。
良いプロンプトを書くためのトレーニング
プロンプトエンジニアが良いプロンプトを書くためのトレーニング方法は以下の通りです。
理解を深める
まず、AIモデルやプロンプトの基本概念を理解し、どのように機能するかを学びましょう。これにより、プロンプトの設計や書き方に関する知識が深まります。
オンライン講座を受講する
学ぶ方法の一つとして、Udemyなどに代表されるオンラインのラーニングコンテンツ受講があります。体系的にプロンプトエンジニアリングを学びたい人にはおすすめです。
例を分析する
既存のプロンプト例を分析し、成功したものと失敗したものを比較してみましょう。これにより、良いプロンプトの特徴や書き方を学ぶことができます。
練習を重ねる
実際にプロンプトを書いて、AIモデルに入力して結果を確認しましょう。練習を重ねることで、どのようなプロンプトが効果的であるかを学び、スキルを向上させることができます。
ユースケースを広げる
異なる目的や分野でプロンプトを書く練習をしましょう。これにより、幅広い状況に対応できる柔軟性を身につけることができます。
フィードバックを受ける
他のプロンプトエンジニアやユーザーからフィードバックを受け取り、それをもとに改善を行いましょう。フィードバックは、自分では気付かない点や改善のヒントを得るために非常に重要です。
継続的な学習
AI技術やプロンプトエンジニアリングの分野は急速に進化しています。新しい手法やアプローチを学び続けることで、プロンプト作成スキルを磨くことができます。
プロンプトエンジニアの教科書「プロンプトエンジニアガイド」
「DAIR.AI」による「プロンプトエンジニアリングガイド」日本語版が無料公開されています。AI性能向上の効果的なプロンプトについて学べる教科書の位置付けです。プロンプトエンジニアのスキルを身に着けたい人は参照すると良いでしょう。
ガイドの中では、プロンプトエンジニアリングは言語モデルの効率的な使用・最適化を目指す新分野とされており、基礎知識や使用アイデア、注意点が記載されています。ギブリー取締役の新田章太さんが翻訳されました。
プロンプトエンジニアの需要と将来展望
ChatGPTが火をつけたジェネレーティブAIのブームにより、海外ではプロンプトエンジニアへの需要が出ててきています。具体的な例として、Googleが出資するAnthropicでは、プロンプトエンジニアを募集する求人を出しています。
【Anthropic社のインディード掲載求人】
しかも年収は17.5万ドルから33.5万ドル。日本円に換算するとおよそ2300万円~4300万円とかなり高額です。AnthropicはOpenAIの競合とされており、巨額の資金調達が噂されています。優秀なプロンプトエンジニア人材を確保する狙いであると考えられます。
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Boston Childrens Hospitalもプロンプトエンジニアを募集しています。
【Boston Childrens Hospitalのインディード掲載求人】
年収は9.5万ドルから12.1万ドルで、Anthropic社ほどではありませんが、それでも日本円換算でおよそ1200万円から1500万円と高額な報酬が設定されています。
日本でのプロンプトエンジニアの求人:年収は?
国内でも、プロンプトエンジニアの求人が募集され始めています。
【株式会社オルツ】
出典:同社ウェブサイト
株式会社オルツは、ユニコーン規模の上場を目指し、アジア市場への拡大を計画しています。そのために、LLMプロンプトエンジニアを募集し、大規模言語モデルの効率的な活用を推進しています。
業務内容は、プロンプトエンジニアリング全般、基礎・応用研究開発、ソフトウェア開発、技術提案、アルゴリズム・ロジックの実装・レビュー・評価、技術調査等です。求められるスキルは、Python/SQL/機械学習の知識・経験、言語モデル学習の経験、大規模言語モデル/自然言語処理に関するバックグラウンド、英語、クラウド利用経験、となっています。
年収は700万円〜1200万円とのことです。
【株式会社BLOCKSMITH&Co.】
出典:Indeed
BLOCKSMITH AI Labでは、ジェネレーティブAIとWeb3テクノロジーを組み合わせることで収益機会を模索しており、その一環としてプロンプトエンジニアを募集しています。年収は「能力に応じて~1000万円」とのことです。
【株式会社Zaim】
出典:Indeed
求人の数はまだ少ないですが、ジェネレーティブAIの急速な普及に応じて直近で求人が増えています。また上記のような募集が今後増えていく可能性はあります。
プロンプトエンジニアリングはビジネスパーソンの標準スキルとなるのか?
プロンプトエンジニアリングは、専門スキルだと主張する人もいれば、AIツールが人間のクエリを解釈する能力が向上するにつれて徐々に専門性が薄れるという意見もあります。過去の例で言えば、90年代にはウェブサイトを作成するためにHTMLの知識が必要でしたが、現在はローコードやノーコードツールが登場しその限りではありません。
一方で、プロンプトエンジニアリングはホワイトカラーの労働者にとって基本的なスキルになり、これらのツールの使用が日常業務に取り入れられるとも考えられます。GPT-4や他のジェネレーティブAIモデルを活用する基本的な能力は、Wordやその他のツールを使いこなす能力が必要なのと同様に、業務を進める上で必要になってくるかも知れません。
プロンプトエンジニアリングにおける「呪文」とは?
プロンプトエンジニアリングにおける呪文とは、AIや機械学習モデルが理解しやすい方法で、意図した結果や回答を出力する確率を高めるプロンプトのことで、入力を与える際に用いられる特定の言語表現やパターンのことを指します。
特に、画像生成系AIのMidjourneyやStable Diffusionで利用される傾向にありますが、ChatGPTでも呪文の活用が有用とされています。
呪文の活用は、プロンプトエンジニアリングの効果を最大限に引き出すための重要な要素です。モデルに対して直接的な質問や指示だけでなく、具体的な文脈や状況を提供することで、より精度の高い結果が得られることが多いです。
呪文の例としては、「説明してください」や「~に基づいて回答してください」など、モデルに対して特定の行動や情報提供を促すフレーズが挙げられます。これらの呪文を使用することで、モデルは質問者のニーズに合わせた回答を生成しやすくなります。
プロンプトエンジニアリングの呪文を生成するためには、以下のポイントに注意しましょう。
- クリアで明確な指示:モデルに対して、具体的で分かりやすい指示を与えることが重要です。
- 文脈の提供:質問の背景や目的を明確にすることで、モデルはより適切な回答を生成できます。
- 試行錯誤:いくつかの異なる呪文やフレーズを試して、最も適切な結果が得られるものを見つけ出すことが大切です。
呪文を適切に活用することで、プロンプトエンジニアリングはAIモデルのパフォーマンスを向上させ、より高品質な回答や解決策を提供することが可能となります。
覚えておきたい:プロンプトインジェクションとは?
関連する用語として、プロンプトインジェクションという概念があります。
プロンプトインジェクションとは、悪意のあるユーザーがChatGPTなどのAIモデルを操作することでセキュリティ上の脆弱性を突く手法です。これによって、モデルが想定しない動作を行うように仕向けられます。この攻撃手法が広がり、2023年にはAIチャットボットに対する攻撃も確認されています。
ビジネス上の注意点として、プロンプトインジェクションの可能性を考慮し、適切なセキュリティ対策を講じた上での開発が重要です。
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まとめ
海外では認知が進んでいるものの、日本ではまだプロンプトエンジニアという職種での採用は限定的ですが、ウェブ上で求人広告が出始めています。一方で、現時点では、プロンプトエンジニアが専門的な職業として広く普及するかは不透明でしょう。
また今後、ChatGPTのようなジェネレーティブAIが普及し、海外であってもプロンプトエンジニアリングの技能が一般的な教育の一部となり多くの人がプロンプト作成の基本を習得するようになる場合、専門家としてのプロンプトエンジニアの需要は減少する可能性があります。
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更に、今後はAIモデルが自動的に最適なプロンプトを生成する技術が発展する可能性もあります。これにより、プロンプトエンジニアの役割は減少するかもしれません。