メタバースに関するサービスなどが国内企業でもいくつか発表されるようになり、覇権争いが熾烈さを増しています。なかでも、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの総称であるXRに関する事業展開に力を入れているのがNTTドコモです。

NTTは2022年10月にXR事業を扱う新会社を設立し、メタバースに関連する積極的な投資・事業展開を進めています。

本記事では、NTTのメタバース展開を徹底解説。3つの主力プラットフォームや最新技術についてまとめました。

NTTTのメタバース戦略について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

NTTはメタバース事業を運営するため新会社を設立

NTTドコモは2022年9月28日、「株式会社NTTコノキュー(QONOQ)」の設立を発表しました。新会社設立により、NTTで扱っていたXR事業などを同社に集約し、メタバース事業を本格的に進めていくことが狙いのようです。

NTTコノキューでは、メタバースを含む3つの主力事業を抱え、デジタル空間が自然と溶け込むリアルな世界・空間の実現に向けたサービスやソリューションを提供。

なお、コノキュー(QONOQ)の由来は、以下3つのコンセプトからきています。

  • Quest Over Network(高度なネットワークによるXRの世界を探求)
  • ネットワークを軸に「仮想と現実」を行き交う
  • XR新時代のはじまりの合図としての「キュー」

NTTコノキューの会社概要は下表のとおりです。

商号(会社名)株式会社NTTコノキュー
事業開始2022年10月1日
代表取締役丸山 誠治
事業内容・XRに関わるソフトウェアやハードウェアの技術開発
・メタバース、デジタルツイン領域のサービス
・ソリューション提供・XRデバイスの企画開発
従業員数約200名(2022年10月時点)
出資比率株式会社NTTドコモ 100%

世界的にメタバース市場の拡大が期待されるなか、新会社を設立し、事業として成功するか今後の動向に注目が寄せられます。

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NTTが構想する3つのメタバース事業展開とは?

NTTコノキューでは、以下3つの事業を主力に展開すると発表しています。

  • メタバース事業
  • デジタルツイン事業
  • XRデバイス事業

メタバース事業

メタバース事業では、バーチャル空間でのアバターを介した、さまざまな体験やコミュニケーションの提供を予定。XR関連のサービスをまとめた事業領域で、中心となるサービスが後述する「XR World」です。

XR Worldでは、音楽をはじめとするXRと相性のよいコンテンツを充実させ、利用者の拡大とコミュニティ形成を目指しています。ほかにも、バーチャルライブ配信システムである「Matrix Stream」を提供。配信だけでなく、コンサート会場の演出やVR・メタバース上でリアルタイムに連動して楽しめます。

さらに、オリジナルのバーチャルシンガーである「Tacitly」など、幅広い事業を展開。仮想空間ならではの表現や一体感を楽しめる機会の創出を目指しているようです。

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デジタルツイン事業

デジタルツイン事業では、XRを活用した、リアル世界とデジタルの仮想空間を行き来することによる新たな価値の提供を目指しています。

そもそもデジタルツインとは、仮想空間に現実世界を再現する技術の総称です。NTTコノキューにおけるデジタルツイン事業の中心は、後述する「XR City」。特定のエリアにおいてXR Cityを起動してスマホをかざすと、ARコンテンツが現実世界に立ち現れます。

現在、利用できるエリアに限りがあるものの、自治体や商業施設などと連携し、エリアやコンテンツを拡充している状況です。

自治体などと連携してXR Cityの利用者を増加させることで、そのエリアや商業施設への送客を実現。宣伝効果と魅力の発信という2つの側面があることも見逃せません。

XRデバイス事業

XRデバイス事業では、既存のヘッドマウントディスプレイではなく、自社で開発したデバイスを提供し、サービスと一体で価値や体験を届ける狙いがあります。

パートナー企業と連携してウェアラブルデバイスの開発を進める模様で、デバイスがメタバースやデジタルツインと一体になり、顧客への新たな体験を提供したいと考えているようです。

2023年3月時点において、スマートグラスデバイスは3型展開されています(うち1型は販売終了)。倉庫物流や遠隔医療といった現場作業で利用し、遠隔からの作業支援を通じて作業効率の改善が期待されています。

スマートグラス・ARグラスはAppleやGoogle、Metaでも開発が予定されており、デバイスの開発に関する今後の展開にも注目しておきましょう。

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NTTの新会社コノキューが展開する主力プラットフォーム3選

NTTコノキューが展開する事業において、とくに以下3つのプラットフォームが主力になっています。

  • XR Word
  • XR City
  • DOOR

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XR Word

「XR World」は、2022年3月31日に提供を開始した、マルチデバイス型のメタバースです。バーチャル空間上でコミュニケーションなどができ、音楽、アニメ、ダンスといった幅広いジャンルのコンテンツを楽しめます。

専用のヘッドマウントディスプレイは不要で、お手持ちのスマートフォンやPC・タブレット端末から利用可能。一部コンテンツを除き無料で、人気アニメや有名アーティストとコラボしたWORLD(メタバース空間)やイベントを楽しめます。

AKB48のメンバーとアバターがコラボしたユニットも登場し、XR World限定のメタバースライブなども提供。

2023年3月時点ではエンターテインメント領域のサービスが中心ですが、今後、利用シーンのさらなる拡大が期待できます。

XR City

「XR City」は、2022年7月に提供を開始した、さまざまなARコンテンツを利用できる新感覚の街遊びプラットフォームです。

そもそもAR(Augmented Reality)とは拡張現実の略で、現実世界を仮想的に拡張する技術を指します。デジタルと現実世界が融合することで、新しい体験価値を創造するのがARのおもな活用事例です。

XR Cityでは、サービスの提供エリアでアプリをダウンロードしたスマホをかざすと、そのエリアに合ったARコンテンツが表示されます。

  • SNS映えする写真や動画を撮影できるフィルターコンテンツ
  • リアル脱出ゲームで人気のSCRAP社とコラボした謎解きコンテンツ
  • 商業施設などのコラボレーションした期間限定コンテンツ

上記などを展開し、ARコンテンツにより街の新たな魅力づくりや外出の新たな楽しみ方を提案しています。

DOOR

DOOR」は個人でも簡単に利用できる仮想空間プラットフォームで、2020年11月に日本初の3D空間型オウンドメディアとして提供が開始されました。利用者は100万人を超え、バーチャル空間を5分で作成できるのが最大の魅力。

個人利用はもちろん、企業イベントやバーチャルショップなど、法人向けサービスにも対応しています。また、専用のアプリをインストールする必要はなく、PCなどからブラウザベースでアクセスできるのも特徴的です。

3D空間のテンプレートを利用して簡単に自分だけのマイルームを作成でき、発行された専用URLを共有すれば、特定の人だけが集まれるコミュニティも構築可能。

セミナーや講演会、デジタルミュージアムなど利用シーンはさまざまで、興味のある方は手軽に試してみましょう。

展示会イベントで「MetaMe」に新機能を試験実装したことを発表

MetaMe」は、NTTドコモが取り組む新規事業共創プログラムで生まれたサービス。メタコミュニケーションの構成要素である以下の3点に関する取り組みをおこない、Web3.0時代の新たなコミュニケーションを形成できる世界を創造するものです。

  • 超多人数接続を実現するネットワーク
  • 価値観を理解するAIエンジン
  • 新たな経済圏創出

2023年2月に開催された「docomo Open House’23」において展示・発表されたMetaMeでは、「人のデジタルツイン化を実現するための技術」を試験的に実装し、ベータ版が先行提供されるようです。

今回の試験実装により、他者や社会とのつながりづくりを支援するための技術開発を進め、後述する感性コミュニケーション技術やAnother Me技術を活用した新たなコミュニケーション基盤の社会実装を目指しています。

人のデジタルツイン化を実現するための技術

そもそもMetaMeには、AIによって利用者の行動に共通する動機を理解する「価値観理解技術」、理解された価値観を解析し、精度の高いマッチングやレコメンドを行う「行動変容技術」を備えています。

そして、人のデジタルツイン化を実現するためには、以下2つが重要であるとして開発が進められています。

  • 感性コミュニケーション
  • Another Me

感性コミュニケーションとは、「気持ちそのものを伝える技術」を指し、Another Meとは、「実在する人間と同等の知性や人格が感じられる分身」のことです。

今回MetaMeに試験実装されたのは、感性コミュニケーションとAnother Meを実現するための技術です。実現させるための具体的な技術は次の章で解説します。

Meta Meの根底を支える3つの技術とは?

MetaMeで重視される「感性コミュニケーション」「Another Me」を実現するために試験実装されたのは、以下3つの技術です。

  • 脳内表象可知覚化技術
  • 個人性抽出技術
  • 個人性再現対話技術

脳内表象可知覚化技術

「脳内表象可知覚化技術」とは、人間の感情や認知を直接理解できるようにするための技術です。

脳波を読み取り、データを7次元に圧縮してパラメータに変換し、幾何学的図形として描画することで、脳の状態をリアルタイムに観測できるというもの。

心の動きを生み出した際の脳内反応をモデル化し、見える化するという技術で、言語だけでは伝達しきれない感情を脳から読み取ります。

実装実験において、脳波はMetaMe内のアバターが「オーラ」をまとう形で可視化されます。感情がリアルタイムで変化する様子を確認でき、相互理解の向上が見込めるようです。

個人性抽出技術

「個人性抽出技術」とは、個人の価値観や性格などのパーソナリティを抽出するための技術です。

個人の行動履歴・ログを参照し、行動に影響を及ぼす性格や価値観などの情報を埋め込んだベクトルを通じてAnother Meが学習し、本人の価値観に合った行動を再現できるというもの。

行動が再現できることで、価値観の類似性を比較できたり、価値観が近い人同士を見つけたりすることが可能になります。

個人性再現対話技術

「個人性再現対話技術」とは、発言内容に一貫したパーソナリティ・人格性を持たせる技術です。

同技術により、特定の人格性を持たせた対話型AIの実現が可能で、プロフィールや趣味などを指定すると、指定内容に合わせた発言ができるようになるというもの。

個人性再現対話技術は、人のデジタルツインを実現するための基本的な技術と言われています。

展示会で発表された実装実験では、ペット型Another Meが登場。「個人性抽出技術」と「個人性再現対話技術」のプロトタイプとして、本人と似た個性を持ち合わせます。

ペット型Another Meが価値観の近いユーザーを見つけ、共通の話題を提供するなど、新しいコミュニケーションが体験できるようです。

NTTのメタバースビジネスを取り巻く課題感とは?

XRを用いたNTTのメタバースビジネスに関して、最大の課題は利用者層をどれだけ拡大できるかです。

世間一般のイメージとしては、「メタバース=VRゴーグルが必要で、一部のコアなユーザーが楽しむ」というもの。つまり、イノベーターやアーリーアダプター層が利用者の中心であることが拭いきれません。

NTTコノキューが展開するXR Worldはスマホからでもアクセス可能で、XR CityやDOORに関しても、アプリやブラウザから手軽に利用できます。

専用デバイスは不要で、利用ハードルを下げる取り組みをしているものの、メタバースの利用が広く普及するには相当程度の時間がかかると言えるでしょう。

メタバースを取り巻く課題感の解決に求められる2つのこと

メタバースの利用者層を拡大させるには、以下の2つが重要です。

  • 魅力あるコンテンツの提供
  • ユーザー自身が魅力的なコンテンツを生み出せる環境構築

ブラウザからアクセスできたとしても、継続的な利用につながるわけではありません。一時的な利用で終わらせないためにも、サービス自体の魅力を高める努力は必要不可欠

また、サービスに作り込み要素がある、サービス利用によるユーザーのメリットを明確にするなど、ユーザー自身が魅力的なコンテンツを生み出せる環境を用意するのも重要です。

2023年3月時点において、手軽に楽しめるエンタメコンテンツは飽和状態と言っても過言ではありません。こうした状況で、メタバースがユーザーの可処分時間を獲得できるような魅力をいかに打ち出せるかがポイントになるでしょう。

通信インフラ事業者最大手であるNTTのさらなるメタバース展開に期待

NTTは通信インフラ事業者として確固たる地位を築いており、抱えている顧客数は相当数にのぼります。

XRを軸にしたメタバース事業が軌道に乗れば、豊富な顧客基盤へのアプローチも比較的容易で、国内のメタバース市場を席巻する可能性も十分あるでしょう。

しかし、エンタメコンテンツとしてメタバースが選ばれるような魅力を打ち出せない限り、広く普及するのはしばらく時間がかかるものと見込まれます。

人のデジタルツイン化を目指すなど、さまざまな取り組みをしているNTTの今後に期待しましょう。

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