日本を代表する企業のひとつであるトヨタ自動車も、メタバースのビジネス活用に関する取り組みをスタートさせました。メタバースイベントの開催を皮切りに、今後もメタバースを活用した新たなビジネスモデルを創出するかもしれません。
本記事では、トヨタにおけるメタバースの特徴的な活用事例や、自動車産業とメタバースの相性がよい理由を解説しています。
自動車業界の今後が気になる方や、大企業におけるメタバースの活用事例を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
トヨタ自動車は2023年1月にclusterでメタバースイベントを開催
トヨタ自動車は、2023年1月、千葉県の幕張メッセで開催されたカーイベント「東京オートサロン2023」の出展に合わせて、メタバースイベントを開催しました。
このイベントが、トヨタにとって初めてのメタバースイベント。開催にあたって、国内最大級のメタバースプラットフォームである「Cluster」を使用し、『バーチャルガレージ by TGR/LEXUS』という名称でワールドが構築されました。
イベント期間は3日間で、ワールドへの入場は無料。イベント期間中には、東京オートサロン2023に展示した車両の一部の外観や内部構造、映像などを展示しています。
また、「モータースポーツ未来会議」と題して、トヨタ所属のドライバーが出演し、モータースポーツの振り返りなどを行うトークセッションも開催しました。
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東京オートサロン2023の出展に伴う新しいユーザー体験の提供
そもそも東京オートサロンは、1983年にスタートした、カスタムカー文化を広めるためのショーイベント。各種パーツの展示販売や、レーシングマシンのデモラン、豪華アーティストの出演など、規模を年々拡大させています。
トヨタからは「TOYOTA GAZOO Racing(TGR)」「レクサス」が出展しており、「トヨタはクルマ好きを誰ひとり置いて行かない」をテーマに車両やパーツを展示しました。
車両やパーツ展示のコンセプトには、以下3つのコンセプトが掲げられています。
- 愛車を守るカーボンニュートラル
- モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり
- 愛車と楽しむ多様なライフスタイル
2023年で41回目となる東京オートサロンにおける新たな取り組みとして、メタバースイベントの実施と、後述する「NFTデジタルスタンプラリー」が実施されました。
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リアル開催されたイベントブースではNFTデジタルスタンプラリーを実施
東京オートサロンの現地参加者に向けた新たな取り組みとして、「NFTデジタルスタンプラリー」を開催。
TGRや協賛企業の8ブースに設置した専用QRコードを読み取ると、各社オリジナルのNFTスタンプを入手でき、すべてのNFTスタンプを集めた人限定で、特典NFTもプレゼントされました。
なお、特典のNFTには実店舗にて受け取りできるサービスも付帯。期間中にGR Garageに来店して特典NFTを提示すると、特製のマフラータオルがプレゼントされました。
なお、NFTスタンプラリーの開催にあたっては、「Opn」「和らしべ」が開発するツールが利用されています。
トヨタカローラの新CMもメタバースが舞台に
トヨタ自動車が展開する定番モデル「カローラ」シリーズの新CMも、メタバースが舞台になっています。2022年10月3日から放送されたCMでは、近未来都市をイメージしたメタバース空間を、5台のカローラシリーズが疾走。
カローラシリーズは「人と時代にあわせて進化し続ける」がブランドのコア。CM制作担当の山根祥平氏は、今回のCMに関して以下のコメントを残しています。
『2022年も新たに商品の進化を遂げ、時代の先駆け・多様性の象徴であるメタバース空間を5台のカローラが疾走するテレビCMを制作しました。車両だけでなくメタバースの街並みもすべてフルCGで、細かい部分までこだわって制作しました。』
1966年に誕生したカローラシリーズ。2005年には世界の累計販売台数は3000万台を突破してギネス記録にも認定されました。定番車であるがゆえ、古いなどのイメージを抱かれがちなところを、メタバースと融合させて新しさを彷彿させる狙いが感じ取れます。
トヨタ社内の一部ではバーチャルワークスペースを活用
販売やマーケティング戦略としてメタバースを活用するというものではありませんが、トヨタ社内の一部では、バーチャルワークスペースを導入しています。
「oVice(オヴィス)」というバーチャルオフィス提供サービスを利用しているようで、同サービスの利用者は1日70,000人ほど。利用企業は2,300社以上にのぼります。
バーチャルな環境ながら、互いの出社状況はもちろん、会議中や作業中の業務状態も可視化でき、リアルタイムの音声会話で情報共有などをスムーズに行えます。
トヨタの一部の部署や子会社、本社の技術開発や人事などの部署でも導入されているようです。
「メタバース会議のメリットデメリット3選とおすすめサービス7選を徹底解説」では、バーチャルオフィスサービスなどを詳しくまとめています。興味のある方はこちらもご覧ください。
自動車産業とメタバースの相性がよいとされる5つの理由
自動車産業は、とくに「産業用メタバース」との相性がよいとされています。その理由は以下の5つです。
- メタバース空間で高度な自動車設計が可能になる
- 仮想空間で製造ラインの最適化をシミュレーションできる
- 仮想空間で自動運転技術の機械学習を進められる
- オンラインで試乗体験するなどの新たな販売戦略として活用できる
- メタバース車両の開発による新たなユーザー体験を提供できる
メタバース空間で高度な自動車設計が可能になる
メタバースを活用することで、従来の物理的なシミュレーション以上に高度な自動車設計が可能になります。
リアル世界を仮想世界で忠実に再現するデジタルツインを活用し、自動車の完成図を3Dモデルとして構築するというもの。
デジタルツインを活用した産業用メタバースには、アメリカの大手半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)が開発した「Omniverse(オムニバース)」が有名です。
OmniverseではUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンや、Blenderなどの3DCGアニメーションツールがシームレスに接続可能。各ソフトで制作した図面をOmniverseに取り込めば、高精度なシミュレーションをメタバースで実現できます。
物理的なシミュレーションよりも低コストかつ、複数回実施できる点も大きなメリットです。
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仮想空間で製造ラインの最適化をシミュレーションできる
産業用メタバースを活用すれば、自動車設計に限らず、製造ラインの最適化に向けたシミュレーションもできます。
実際、BMWでは先ほどのOmniverseを基盤とする、生産ラインのシミュレーション・合成データ生成ツールである「Issac Slim」を活用した仮説検証を実施しています。
生産現場を仮想環境で忠実に再現し、AIロボットの開発やテストを行うというものです。AIが自動学習しながら動きを覚え、実働開始の時点で高い生産性を発揮できます。
自動車メーカーで実際に導入されており、同様の事例はほかのメーカーでも見られるようになるでしょう。
仮想空間で自動運転技術の機械学習を進められる
さらに、産業用メタバースで自動運転技術の機械学習を進められるという点も見逃せません。
自動運転における機械学習は、パターンが数えきれないほどあり、気象条件や路面状況など、パラメータは無限大と言っても過言ではありません。
そこで、デジタルツインを活用してあらゆる状況を再現し、仮想空間上でAIの機械学習を進めるのです。大規模かつ複雑なシミュレーションほど現実世界で実現させるのは困難ですが、メタバース空間なら、安全に機械学習を進められます。
NVIDIAのOmniverseではこうした活用事例があり、自動車業界のさらなる技術革新を支える基盤とも言えるのです。
「エヌビディアの産業向けメタバースプラットフォームを深掘りして紹介」では、NVIDIAのメタバース活用事例を詳しく解説しています。興味のある方はご覧ください。
オンラインで試乗体験するなどの新たな販売戦略として活用できる
メタバース空間で試乗体験するなど、今までできなかった新たな販売戦略として活用することも可能です。
自動車の購入を検討するにあたり、ブログやECサイトなどの画像、YouTubeなどの動画で車両情報のリサーチをするのが通常でした。
車両を見るには販売店に行く以外に方法がなかったところ、メタバースが普及すれば、試乗したりデザインや内装を確認したりすることもできるようになります。
新たなプロモーションの一環として、メタバースを活用する事例も増えていくでしょう。
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メタバースはビジネスチャンスの宝庫?活用事例やメリット・デメリットを紹介
メタバース車両の開発による新たなユーザー体験を提供できる
最後に紹介するのが、「メタバース車両」の開発です。メタバース車両とは、車内にディスプレイを張り巡らせ、埋め込み型のスピーカーやセンサーを介してメタバース空間にするというもの。
自動運転が実現した未来における車内の過ごし方のひとつに、メタバースで遊ぶという選択肢が増えるかもしれません。
みずほ銀行産業調査部が2022年に発表した報告書では、2040年頃にメタバース車両が開発され、2050年には7.5%ほどの普及率に到達すると予測しています。
報告書の詳細を含めて「みずほ銀行が見据えるメタバースとは?2050年の大胆予測や最新情報を解説」にまとめているので、興味のある方はこちらもご覧ください。
トヨタだけじゃない!日産自動車のメタバース活用事例3選
日産自動車もメタバースを積極的に活用する自動車メーカーです。日産自動車におけるメタバースの特徴的な活用事例は以下の3つです。
- 「日産サクラ」の試乗会をメタバース上で開催
- メタバースを活用した新しいドライブ体験の提供
- メタバース上の仮想店舗「NISSAN HYPE LAB」の実証実験を開始
「日産サクラ」の試乗会をメタバース上で開催
2022年5月、電気自動車の「日産サクラ」がリアルとメタバース上で発表。「NISSAN SAKURA Driving Island」というバーチャル試乗ワールドをオープンし、VRゴーグルがあればいつでもメタバース上で試乗会ができます。
メタバース上の試乗会は免許証が不要で、実店舗への来店とまではいかないライトなユーザーでも、気軽に試せるというメリットがあります。
日産は2021年11月にも、銀座にある店舗をメタバース上に再現した「バーチャルギャラリー NISSAN CROSSING」をオープン。バーチャルイベントを継続的に開催しており、メタバースに関する取り組みをトヨタよりも前から行っています。
なお、これらのワールドはVRChat上にオープンされています。
メタバースを活用した新しいドライブ体験の提供
2019年1月に開催された世界最大のテクノロジーの祭典である「CES2019」では、「Invisible-to-Visible (I2V)」という技術を発表しました。
I2Vとは、リアルとバーチャルの世界を融合することでドライバーに見えないものを可視化し、コネクテッドカー体験を生み出すというもの。先ほど紹介した「メタバース車両」を実現させる技術のひとつで、2030年代の実用化を目指し、研究開発を進めているようです。
I2Vにより、車の周囲の状況把握や前方の状況予測など、通常は見られない路面状況をドライバーの視野に投影できるようになります。
ほかにも、離れた場所にいる家族や友人などが3DのARアバターとして車室内に現れ、一緒にドライブしたり運転をサポートしたりすることが可能になるようです。
メタバース上の仮想店舗「NISSAN HYPE LAB」の実証実験を開始
2023年3月8日、「NISSAN HYPE LAB」というメタバース空間による実証実験を開始し、車の検討から購入の契約までをメタバースで行えるようになりました。
オフラインを中心に行われていたそれぞれのやりとりに関して、リアルとバーチャルを融合した新たな体験価値として提供できるか検証します。
期間は同日から6月30日までの約3ヶ月間で、LABには24時間いつでもアクセス可能。11時から20時まではスタッフが常駐し、案内などを受けられるようです。
車両のグレードやカラーリングはその場で変更でき、3Dでシミュレーションできます。
メタバース活用による自動車産業の未来に注目!
日本を代表するトヨタ自動車もメタバースをビジネス活用し、顧客への新たな体験価値の提供などを模索しています。
「メタバース=エンターテインメント」というイメージの方も多いかもしれません。しかし産業用メタバースとして、デジタルツインによる高精度のシミュレーションは自動車業界と相性がよく、生産ラインの改善にメタバースが活用されています。
記事執筆時点では、トヨタにおいてメタバースの具体的で実用的な活用事例は少ないものの、今後の技術革新にメタバースは切っても切れない存在になるでしょう。
自動運転技術やメタバース車両など、自動車産業の未来に目が離せません。
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