近年、メタバースに参入する企業が急増しています。そんななか、スマートフォンの世界シェア26.98%を誇るAppleはメタバースに消極的と言われています。
実際、「Apple メタバース」で検索すると次のような見出しがずらりと並んでいます。
- 「メタバース」という言葉は、米アップルの拒絶で歴史の片隅へ
- アップルが「メタバース」を社内でNGワードにする
- アップル、メタバースを阻害
Appleがメタバースに肯定的な見出しは殆ど見当たりません。それは、なぜなのでしょうか?
そこで当記事では、Appleがメタバースについて否定的な理由は何か、参入する計画はないのか、Appleストアが提供しているメタバースアプリなどについて紹介します。
疑問に思っている方は、ぜひ参考にしてください。
AppleのCEOティム・クック氏メタバースには疑問
2022年10月、欧州諸国を訪問しているAppleのCEOティム・クック氏は、オランダの雑誌「Bright」のインタビューに応じメタバースについて、次のとおりコメントしています。
- ユーザーがモノを理解していることは重要だ
- 一般的な人がメタバースが何か説明できるとは思えない
- 没入感のあるVRは素晴らしいが、ずっとそこにいたい(住みたい)とは思わない
- VRを使用したメタバースは優れたコミュニケーション方法ではない
確かに、ヘッドマウントディスプレイ(ヘッドセット)を使用したメタバースは、没入感がありアトラクション的ではあるものの閉鎖的で、マニアックであることは否定できません。
しかし、このようなコメントをしながらもAppleは、複合現実(MR)や拡張現実(AR)デバイスの可能性に注目し、2015年からヘッドセットなどの開発に着手しています。
実際、2023年下半期には独自のMRヘッドセットを発売する予定だと報じられており、2022年にこのヘッドセット商品名と思われる「Reality」ブランドの商標出願が行われているのです。
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Appleが「メタバース」を社内でNGワードにする理由
Appleは「メタバース」という言葉を発すること自体、社内でNGとしていると言われています。これほどまでに、メタバースに否定的なコンセンサスを取っている理由は何なのか見てみましょう。
アップルがメタバース(VR)と距離を置く三つの理由
ここでは、Metaが巨額の開発費を投じているVRメタバースにAppleが距離を置く理由をまとめました。
- アップルはVRゴーグルを用いたコミュニケーションを閉鎖的と捉えていることがあげられます。むしろリアル世界にデジタル情報を付加するARの方が自由で開放的なので望ましいと位置づけているのです。
しかし、VRも一部にニーズがあると捉え、VRゴーグルの開発・製品化を行っています。
- 同社のAR/VR製品の市場投入が2023年にずれ込んだことから、VRメタバースの普及が加速していることへの牽制の意味です。メタバースは現在のSNS以上にユーザーの動向が把握しやすいため、プライバシー保護の観点から現状のメタバースの仕組みをAppleは懸念しているとみられます。
- 社内的にVRメタバース一色になってしまうと発想が限られてしまい、主力と捉えているAR関連アプリやサービスの開発に支障をきたす可能性を排除したいという思惑があるとみられます。安易な発想で何でもVRメタバースに結びつけてしまうことなく、自由な発想を促すためにVRメタバースをNGワードにしているという訳です
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自前のメタバースは構築しない. しかしデバイスは対応する?
Appleは90年代に独自のオンラインコミュニケーションサービスとして、町のメタファーを用いた「eWorld」を展開した経緯があります。しかし、このサービスは好評を得られず、継続されませんでした。
この経緯から自前で同様のサービスをはじめることはないとみられます。しかし、他社製であっても評価の高いサービスであれば、例えVRゴーグルが利用されるものでも拒む理由はありません。
Appleはその可能性と対応に備え、発売が延期され遅れてはいるもののVRヘッドセットを開発しリリースする準備をしています。
2023年3月現在、Appleが開発中のヘッドセットは以下のとおりです。
- N301:ハイエンドモデル 「Apple Reality Pro」
- N602:「Apple Reality Pro」 の後継(廉価)モデル
- N421:ARグラス、発売は10年後とも
上の画像は2023年の下期に発売予定の「Apple Reality Pro」のイメージ画像です。
※上の画像はVUZIX社製のARグラスです。
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Apple版メタバースを開発中との情報
2022年11月、「AppleがApple版メタバース(のようなもの)を開発中」との報道が流れました。
この報道は、アップルの内部情報に詳しいBloombergのMark Gurman記者が、自らのニュースレター「Power On」で、AR/VRヘッドセット関連情報として伝えられたものです。
そのなかで、Gurman氏は次のように述べています。
- 経済の先行きが不透明な中で、アップルはヘッドセット開発関連の開発チームだけは例外として求人している
- そのなかで、ARとVR向けのコンテンツを作成できるソフトウェアプロデューサーが含まれている
- この求人情報では、「VRで3Dコンテンツを再生できるヘッドセット」向け動画サービスの構築もできる人を求めていると記載されている
- さらに「3D混合現実(AR+VR)の世界でつながる体験を可能にするツールやフレームワーク」の構築に携わるエンジニアも募集している
- これらの求人情報から見て、Appleは「メタバースに似た仮想環境」を開発するようだ
ただ、Appleが「メタバース」という言葉をそのまま使ったものを開発することは、これまでのティム・クックCEOのコメントからしてもあり得ないでしょう。
Appleのヘッドセット「Apple Reality Pro」は3,000USDと大変高額な製品ですから、相当強力なコンテンツが必要なことは確かです。
或いは、医療やロボット産業の専門家Dave Scott氏を再雇用していることから、当初は医療関係などをターゲットにしているのかもしれません。
またAppleは、音楽ライブやスポーツなどの360度動画配信を行う「NextVR」を1億ドルで買収したことや、『アイアンマン』などで知られるジョン・ファブロー氏らをコンテンツ開発に起用したとの情報もあります。
Metaは新型ヘッドセット「Quest Pro」(クエストプロ)を1,500USDで発売するなど、まだ一般ユーザーの手が届かない領域です。商業施設や専門性の高い市場をターゲットに販売し、数年後に普及しやすい価格帯になるのかもしれません。
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Appleのメタバース市場本格参入時期は?
Appleのメタバース市場への本格参入時期は2023年以降で、場合によってはあと数年かかると考えられます。
メタバースの市場規模は、2024年に8,000億ドルに成長するとブルームバーグは報じています。2020年が5000億ドルでしたから、その1.6倍に成長するわけです。
一方、Meta Platforms,Incに社名変更してまでメタバースの市場構築に力を注いでいる旧Facebookは、メタバース関連の年間投資額は100億ドルとも言われています。
Appleとしても、乗り遅れるわけにはいかない筈です。しかし、「アップルがメタバース(VR)と距離を置く三つの理由」でもお伝えしたとおり、閉鎖的なコミュニケーションしかできないVRでは結局継続して利用されない可能性もあります。
これまでAppleのティム・クックCEOやマーケティング担当幹部のコメントを総合すると、以下の考えが浮かび上がってきます。
- VRの場合は、VRゴーグルなどの機器が必要であり、機器を持っている人だけの閉じたもので、機器の重さが頭や首の負担となるので理想的ではない
- Appleが開発しているVRは、ARグラス向けのアプリケーションやアプリを開発するための前段階。N421(ARグラス)を使用した拡張空間が本命と考えている可能性がある
- Appleユーザーを囲い込めるメタバース空間が必要
- ユーザーが「住む」と言えるほど長時間滞在できるための環境構築が不可欠
- メタバースありきではなくユーザーの期待を裏切らないAppleらしい商品開発がしたい
以上の理由からみても、Appleのメタバースへの本格参入にはまだ時間がかかりそうです。
<参考>
・「ARなしの生活はすぐに考えられなくなる」
・アップル、AR/VRヘッドセット向けOSの名称を「xrOS」に変更か
Appleストア内にあるメタバース関連アプリ
2023年3月現在、Appleストア内にあるメタバース関連アプリは、下の表のとおりです。
アプリ名 | 特長 |
Cluster(クラスター) | ユーザー同士の交流がメインのメタバースアプリで世界最大のユーザー数を誇る(参加無料) |
ZEPET(ゼペット) | ファッションを通じて世界中のユーザーと交流できる女性に人気のメタバースアプリ(参加無料) |
Minecraft(マインクラフト) | メタバースの先駆けとしても注目された建物や空間を自由に作れるゲーム(ゲーム購入費用が必要) |
フォートナイト | 様々なモードでゲームを楽しめるバトルロワイヤルゲーム。クリエイティブモードでは自由な街並みを作成しフレンドと一緒に楽しめるメタバース要素がある「米津玄師」氏のライブが開催された(参加無料) |
REV WORLDS(レヴ ワールズ) | 三越伊勢丹ホールディングスがメタバースプラットフォームとして展開(参加無料) |
Roblox(ロブロックス) | オリジナルゲームが開発できるため、様々なゲームがプレイできる。月間利用者2億人(参加無料) |
αU metaverse | KDDIがメタバースプラットフォームとして展開(参加無料) |
METAVERSE COMIC CON | リアルイベント連動、ライブも楽しめるメタバースコミュニケーションアプリ(参加無料) |
Bondee ボンディー | あなたと友だちの「デジタル秘密基地」でシンプルかつ遊び心あふれるコミュニケーションで繋がれる(参加無料) |
メタバースを初めて体験する方におすすめなのは、分かりやすい「Roblox」または「Cluster」です。
一部ご紹介しましょう。
Roblox(ロブロックス)
ロブロックスには、NIKE、GUCCI、ディズニー、LEGOなどのグローバル企業が参入し、メタバース空間内にそれぞれ独自の世界を構築しています。
ロブロックスの詳しい情報は以下の関連記事をご参照ください。
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メタバースゲーム「ロブロックス(Roblox)」| 経済新聞で取り上げられた理由と始め方も解説!
ロブロックスがメタバース広告事業に参入!企業活用事例も紹介
Cluster(クラスター)
自分が作ったアバター(分身)でライブやコンサートなどのイベントに参加したり、友達とお祭りに行ったり、日常的なことから非日常的なことまで楽しめる仮想空間が「cluster」です。
企業や自治体の参加が多く、毎日何か新しいイベントやゲームが誕生するので飽きません。ワールドと呼ばれる空間がいくつも公開されていますので、そこで様々な体験ができます。
例えば、バーチャル渋谷、バーチャル大阪などの都市も公開されており、街を自由に歩き回ることが可能です。
初めてメタバースを体験してみたいという方は、まず「cluster」で体験してみましょう。
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clusterとは?メタバース業界で存在感を増す企業の動きに迫る!
Appleの「マップ」アプリにAR案内機能搭載
Appleの地図アプリ「マップ」で、AR(拡張現実)による徒歩経路の案内機能が、地方都市で利用可能になりました。これまでは、東京、横浜といった一部の都市に限定されていましたが、これまでの7都市に加え、以下の14都市が追加されました。
<追加された都市>
1 | 金沢 |
2 | 川崎 |
3 | さいたま |
4 | 堺市 |
5 | 札幌 |
6 | 神戸 |
7 | 千葉 |
8 | 兵庫 |
9 | 神奈川 |
10 | 新潟 |
11 | 相模原 |
12 | 仙台 |
13 | 静岡 |
14 | 高松 |
<これまで利用できた都市>
15 | 東京 |
16 | 大阪 |
17 | 横浜 |
18 | 名古屋 |
20 | 京都 |
21 | 広島 |
22 | 福岡 |
ARによる徒歩経路は、iPhoneのカメラが認識した風景にARの矢印を表示して進路を示してくれる便利な機能です。機能として、ios 15から導入されています。
Appleは、先述したとおりVR(仮想現実)よりもARに軸足をおいていますので、Appleには「マップ」は重要なデータです。こうした取り組みはApple版メタバースの実現に向けた一要素になるかもしれません。
まとめ
Appleのメタバースについて、「なぜ、メタバースを禁句としているのか」、「本格参入はいつなのか」、「Apple製品で参加できるメタバース」など解説しました。
ティム・クックCEOが指摘するとおり、長時間滞在できるメタバースの本命はVRではないのかもしれません。
既に現在でも、新たなプロモーションや集客の手法として、必要に応じてXR(クロスリアリティ)で対応されているのが主流で、VRでなければ駄目というわけではありません。
Appleの今後の動向に注目しましょう。
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