近年、働き方の多様化が進む中で、ウェルビーイングの重要性がますます高まっています。

特にハイブリッドワーク環境では、職場の規範や指示の明確さが従業員のウェルビーイングにどのように影響するかが注目されています。NTTと東京工業大学の共同調査によると、日米のハイブリッドワーカー間には顕著な文化差があり、その差異がウェルビーイングに与える影響について具体的なデータとともに分析されています。

本記事では、調査の詳細とその結果から導き出されたビジネスパーソンに向けた示唆についてご紹介します。

調査の背景と目的

新型コロナウイルスの感染拡大により、リモートワークやハイブリッドワークの導入が急速に進みました。

この新しい働き方は、従業員の生産性向上やワークライフバランスの改善に寄与すると期待されていますが、一方で職場の社会規範や指示の明確さが従業員のウェルビーイングにどのような影響を与えるかについての理解はまだ十分ではありません。

NTTと東京工業大学は、この課題に取り組むため、日本と米国のハイブリッドワーカーを対象に比較調査を実施しました。

本調査の目的は、日米のハイブリッドワーカーがどのように職場の命令的規範と記述的規範を捉え、それが彼らの仕事におけるウェルビーイングにどのように影響するかを明らかにすることです。

命令的規範とは、上司や同僚から期待される具体的な行動指示を指し、記述的規範とは、周囲の同僚が実際に行っている行動を指します。この二つの規範がどのように従業員のウェルビーイングに影響するかを分析することで、より効果的なハイブリッドワークの導入方法を探ることができます。

本調査は、2024年5月に発表され、ハイブリッドワーク環境における従業員のウェルビーイング向上を目指すための重要な知見を提供します。

調査結果は、日本と米国の文化的背景や雇用規制の違いが、職場の規範と従業員のウェルビーイングに与える影響の違いを明確に示しています。

日本と米国のハイブリッドワーカーの現状

日本と米国のハイブリッドワーカーは、それぞれ異なる文化的背景と雇用環境の中で働いています。

日本では、長時間労働や一律の勤務形態が一般的であり、柔軟な働き方に対する適応が進んでいる一方で、依然として強い社会規範が存在します。多くの従業員は、上司や同僚の期待に従うことが求められ、その結果として個人の自由度が制限されることが多いです。

一方、米国では、個人の自由や自己表現が重視される文化が根付いています。ハイブリッドワークの導入に伴い、従業員は自分の働き方を自分で選択することができる環境が整っています。

米国の従業員は、職場の命令的規範を積極的に受け入れ、それを基盤として自己の生産性やウェルビーイングを高める傾向にあります。

調査によると、日本のハイブリッドワーカーは、上司からの具体的な指示が少ない場合でも高いレベルの自己規律を維持する傾向がありますが、これが逆にストレスの要因となることがあります。

米国のハイブリッドワーカーは、具体的な指示があることで安心感を得やすく、結果としてウェルビーイングが向上するという結果が示されています。このような文化的背景の違いが、ハイブリッドワークにおける職場の規範と従業員のウェルビーイングにどのように影響するかを理解することが重要です。

命令的規範と記述的規範の違い

ハイブリッドワーク環境において、命令的規範と記述的規範の違いが従業員のウェルビーイングに与える影響は非常に大きいです。

命令的規範とは、上司や同僚から直接指示される具体的な行動指示を指し、従業員はこれに従うことで業務を遂行します。具体的には、「週に○日は出社するべき」「この業務はリモートで行うべき」といった明確なガイドラインが含まれます。

一方、記述的規範とは、職場の同僚が実際に行っている行動や働き方を指し、これを観察することで従業員は自分の行動を決定します。例えば、同僚の多くがリモートワークを選択している場合、自分もそれに倣うといった行動がこれに該当します。

調査結果によると、米国のハイブリッドワーカーは命令的規範に従うことが多く、この明確な指示が彼らの安心感と生産性を高める要因となっています。

具体的な指示があることで、業務の進行がスムーズになり、結果としてウェルビーイングが向上するということがわかりました。

対照的に、日本のハイブリッドワーカーは、記述的規範に強く影響される傾向があります。周囲の同僚の行動を観察し、それに合わせる形で自分の働き方を決定します。

これは一見効率的に思えるかもしれませんが、実際には同僚の行動に過度に依存することで、自分自身の働き方の自由度が制限されるというストレスを引き起こす可能性があります。

このように、命令的規範と記述的規範の違いは、ハイブリッドワーク環境における従業員のウェルビーイングに大きな影響を与えます。従業員がより高いレベルのウェルビーイングを達成するためには、これらの規範のバランスを適切に管理することが求められます。

ウェルビーイングに対する指示の明確さの影響

NTTと東京工業大学の調査によれば、日米のハイブリッドワーカーのウェルビーイングに対する指示の明確さの影響は大きく異なります。

米国のハイブリッドワーカーは、明確な指示を受けることで安心感を得やすく、その結果、仕事に対する満足度や生産性が向上します。

具体的な勤務形態やタスクの指示があることで、従業員は自分の役割や期待される成果を明確に理解し、業務に集中できる環境が整います。

一方、日本のハイブリッドワーカーは、明確な指示よりも自発的な行動や同僚との協調を重視する傾向があります。指示の少ない自由な環境では、自分自身で仕事の進め方を決めることができるため、一部の従業員にはストレスが軽減されるというメリットがあります。

しかし、明確な指示がないと、不安や迷いが生じる可能性が高まり、特にリモートワークでは孤立感やコミュニケーション不足が課題となることがあります。

この調査結果から、米国の従業員に対しては、具体的な指示やガイドラインを提供することで、彼らのウェルビーイングを高めることができることが示されています。日本の従業員に対しては、適度な自由を提供しつつも、必要なサポートやフィードバックを適時に行うことが重要であると考えられます。

文化的な背景や働き方の違いを理解し、それぞれに適したアプローチを取ることで、ハイブリッドワーク環境における従業員のウェルビーイングを最大限に高めることが可能です。

調査結果の具体的な数値と分析

NTTと東京工業大学が実施した調査では、日本と米国のハイブリッドワーカーを対象に、職場の規範とウェルビーイングの関係性を詳細に分析しました。

調査は、1000名の日本人と1000名の米国人を対象にウェブアンケート形式で行われました。その結果、米国のハイブリッドワーカーは、命令的規範を強く感じている場合、ウェルビーイングのスコアが高い傾向にあることが明らかになりました。

具体的には、米国のハイブリッドワーカーのうち、上司からの指示が明確であると感じる人々のウェルビーイングスコアは平均75点であり、これは指示が曖昧であると感じる人々のスコア(平均62点)を大きく上回っています。

一方、日本のハイブリッドワーカーにおいては、命令的規範が強すぎるとウェルビーイングが低下する傾向が見られました。

日本では、上司の指示が明確であると感じる人々のウェルビーイングスコアは平均68点であり、自由度が高い環境を好む人々のスコア(平均72点)よりも低い結果となりました。

また、インタビュー調査では、日本の参加者が明確な指示を「自由の制約」として感じることが多く、米国の参加者は「安心感の源」として捉えていることが分かりました。

これらの数値は、文化的背景が職場の規範とウェルビーイングに大きな影響を与えることを示しています。

インタビューから見える日米の意識差

NTTと東京工業大学の調査では、ウェブアンケートに加え、日本と米国のハイブリッドワーカー各12名を対象にインタビューを実施しました。

このインタビューから、日米のハイブリッドワーカーの意識における顕著な差異が浮き彫りになりました。

日本のハイブリッドワーカーは、上司からの明確な指示を受けることに対して、自由を制限されると感じる傾向が強いことが分かりました。彼らは、自分自身で仕事の進め方を決定することに価値を置き、上司や同僚からの過度な干渉を避けたいと考えることが多いです。

一方で、米国のハイブリッドワーカーは、上司からの明確な指示や期待を安心感の源と捉えています。彼らは、具体的なガイドラインがあることで、自分の役割や目標が明確になり、業務に対するモチベーションが高まると感じています。

日本の参加者は、「上司から細かく指示されると、自分の考えやアイデアを発揮する余地がなくなる」と感じる一方、米国の参加者は「明確な指示があることで、自分が何をすべきかが分かり、安心して仕事に取り組める」と語っています。

また、日本のハイブリッドワーカーは、同僚との協力やチームワークを重視する傾向が強く、職場の記述的規範に従うことで安心感を得ることが多いです。

対照的に、米国のハイブリッドワーカーは、個々の成果や自立した働き方を重視し、命令的規範を遵守することで自己効力感を高めています。

このようなインタビュー結果は、日米の文化的背景が従業員のウェルビーイングに与える影響を深く理解するための貴重な洞察を提供します。

ウェルビーイングの指示は羅針盤か足枷か

ハイブリッドワーク時代において、指示の明確さはまるで羅針盤のように方向性を示す一方で、重い足枷となる可能性も秘めている。NTTと東京工業大学の調査が示すように、日米の文化的背景はこの二面性を浮き彫りにする。

米国のハイブリッドワーカーにとって、明確な指示は広大な海を航行するための羅針盤であり、方向性を示し、安心感を提供する。

彼らは指示の明確さにより、自分の役割や目標が鮮明になり、迷いなく業務に邁進することができる。具体的なガイドラインがあればあるほど、彼らは安心して自らの能力を最大限に発揮できる環境を整えることができる。

対照的に、日本のハイブリッドワーカーは、明確な指示を受けることに対して、足枷のような重圧を感じることが多い。彼らは自由度を重視し、自らの判断で仕事を進めることに価値を見出す。

このため、上司からの細かい指示は、創造性を奪い、自由を制限する重荷となりがちである。日本の労働文化では、協調性やチームワークが重視されるため、過度な指示はむしろ生産性を低下させるリスクを孕んでいる。

この調査結果から、指示の明確さがウェルビーイングに与える影響は、文化的背景によって大きく異なることが分かる。米国では、羅針盤として機能する明確な指示が重要視される一方、日本では自由な判断を尊重する風土が求められる。

指示のあり方を再考することは、ハイブリッドワーク時代における労働環境の最適化に不可欠である。企業はこの二面性を理解し、それぞれの文化に応じた適切なアプローチを取ることで、従業員のウェルビーイングを最大限に高めることが可能となる。

まさに、指示の明確さは羅針盤か足枷か、その境界は文化の中にある。

Reinforz Insight
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