日本国内での移動を容易にする交通系ICカードは、その利便性から多くの利用者に支持されてきた。しかし、最近では熊本県の複数のバス会社が高額な更新費用を理由にICカードの導入を取りやめる方針を発表した。この動きが他地域にも波及し、ICカードの普及に大きな影響を与える可能性がある。
交通系ICカードの仕組みと普及状況
日本の交通系ICカードは、地下鉄やバスなどの公共交通機関の利用を簡単にする電子システムとして始まった。現在、日本全国で約50種類のICカードが存在し、それぞれが特定の地域で利用されている。これらのカードはすべてソニー株式会社が開発したFeliCa ICチップを搭載している。
日本の交通システムは公私の鉄道やバスが入り混じった複雑なネットワークであるため、これらのカードとシステムの相互運用性はほぼ必須である。このため、10種類のカードは「全国相互利用エリア」に属し、全国どこでも利用できるようになっている。例えば、東京で購入したSuicaカードを大阪の地下鉄で使用できる。
ICカードは交通手段の利用だけでなく、電子マネーとしても多くの人々に利用されている。2024年6月現在、日本全国の226万の事業所で10種類の主要ICカードが支払い手段として受け入れられている。
熊本の交通会社がICカード導入を断念した理由
熊本市の5つの交通会社は、ICカードシステムの更新費用が高額であることを理由に、2024年12月からICカードの導入を断念すると発表した。その契約が来年で終了するため、900台のICカード端末を更新する必要があり、その費用は総額12億円に達する。これに対し、QRコードリーダーやクレジットカードタッチ決済に対応する端末への切り替えは、約6億7千万円と半額で済むことが判明した。
この動きは、交通会社が経済的に厳しい状況にあることを示している。世界的な健康危機は、彼らに約39億円の損失をもたらした。また、熊本は観光地として人気が高まり、台湾の半導体製造会社であるTSMCの工場が立地しているため、外国人労働者も増加している。
多くの観光客や外国人居住者は、クレジットカードでの支払いを期待しているが、現状ではそれができないことに不満を持っている。これが、ICカードからクレジットカードやQRコード決済への移行を促進する要因となっている。
他地域への影響と今後の展望
熊本の交通会社がICカードの導入を断念する決定は、他の地域にも影響を与える可能性がある。ICカードのサポートには高額な費用がかかり、多くの地方交通会社が経済的な圧力にさらされている。これにより、他の地域でも同様の動きが広がる可能性がある。
しかし、日本政府や経済産業省はキャッシュレス決済の普及を推進しており、2023年にはキャッシュレス取引の割合が40%に達した。特にバーコードやQRコード決済アプリの利用が急増しており、2018年には0.2%だった利用率が2023年には8.6%に上昇している。このような背景から、ICカードから他のキャッシュレス決済手段への移行が進む可能性がある。
今後、ICカードシステムが維持されるか、他のキャッシュレス決済手段に置き換えられるかは注目されるポイントである。特に、観光地や外国人労働者の多い地域では、クレジットカードやQRコード決済の需要が高まっているため、その動向が注目される。
クレジットカードやQRコード決済への移行の可能性
物理的なICカードには魅力があり、多くの鉄道会社は特定のテーマで限定版のカードを発行し、コレクターズアイテムとなっている。しかし、シリコンチップの供給不足や印刷費用の増加により、多くの鉄道会社は物理的なカードの発行を減らしている。
例えば、「匿名」SuicaやPASMOカードはもはや入手できない。JR東日本は、観光客向けにスマートフォンで利用できる「Welcome Suica」カードのアプリ版を導入する予定である。また、福岡市では市営地下鉄3路線すべてでクレジットカードタッチ決済をサポートしている。
一部の専門家は、ICカードの大規模な廃止はまだ見られないと述べているが、全国ネットワークとの契約が更新される際に、クレジットカードやQRコードシステムを選択する企業が増える可能性がある。これにより、日本全国どこでも利用できる統一的な決済システムへの移行が進む可能性がある。