銀などの貴金属の市場価値が急上昇する中、日本では歯科用の銀クラウンが新たな収益源として注目を集めている。過去5年間で中古の銀クラウンの買取価格は倍増し、個人や歯科医院からの売却が相次いでいる。この現象の背景には、世界的な貴金属価格の上昇や経済回復、地政学的リスクへの避難需要がある。

銀クラウンの需要急増

日本では、銀クラウンの需要が急増している。兵庫県に拠点を置く貴金属買い取り会社「シカキン」では、過去1年間で銀クラウンの購入量が50%から100%増加しているという。5月には1日で10キログラムの銀クラウンを購入することもあったとされ、これまで無価値と思われていた銀クラウンが急速に注目されるようになった。

シカキンの運営会社SRCの社長である新崎哲夫は、「最近では個人からの売却も増えている」と語っている。以前は、歯科医院が患者の代わりに銀クラウンを廃棄することが多かったが、今では多くの個人が直接売却を申し出ている。銀クラウンが貴金属市場で高値で取引されるようになり、その価値が再評価されているためである。

銀クラウンは金、銀、パラジウムの合金で作られており、その約50%が銀である。政府のデータによれば、鋳造用の金銀パラジウム合金の1グラムの価格は2,909円であり、これは5年前の2倍の価値である。シカキンは銀クラウンを1グラムあたり約2,000円で購入しており、これも5年前の2倍の価格である。

銀クラウンの価値上昇の背景

銀クラウンの価値が上昇している背景には、いくつかの要因がある。まず、世界的な貴金属と非鉄金属の価値が上昇していることが挙げられる。特に、銀の価格は急激に上昇しており、昨年の平均価格は1トロイオンスあたり23.50ドルで、2019年から45%増加している。この価格上昇は、パンデミック後の経済回復、新興国からの需要、および地政学的リスクによる避難需要によって引き起こされている。

銀は、金よりも手頃な価格であることから、投資家にとって魅力的な選択肢となっている。ニューヨーク市場では、先月最も取引された銀先物が12年ぶりの高値である32.80ドルに達した。このような高値の背景には、世界的な金属の需要増加がある。特に、新興国の経済成長や技術革新に伴う需要が、銀の市場価格を押し上げている。

また、再生市場の活況も価値上昇の一因となっている。銀クラウンは、再生可能な貴金属としてリサイクル市場で高い需要があり、その結果、買取価格が上昇している。このような市場の動きが、銀クラウンの価値を一層引き上げているのである。

銀価格の高騰と金属盗難の増加

銀価格の高騰に伴い、日本では金属盗難が増加している。特に、銀クラウンやその他の貴金属が盗まれる事件が多発している。西日本の大学病院に勤務する男性が10年間にわたり銀クラウンを盗み続けていたとして逮捕された。このような事件は、貴金属市場の高騰がもたらす負の側面を如実に示している。

警察庁のデータによれば、昨年の金属盗難件数は16,276件で、これは2020年の約3倍にあたる。特に、鉄板や銅ケーブル、マンホールの蓋が盗まれるケースが多い。これらの金属は、市場価格の高騰に伴い、盗難のターゲットとなっている。楽天証券経済研究所のコモディティアナリスト、吉田悟は、「金属価格が上昇するたびに、盗難事件が発生している」と指摘している。

高価な金属は再生市場で高値で取引されるため、盗難のリスクが増加している。このような状況に対処するため、監視カメラの設置や警備体制の強化が求められている。金属盗難の増加は、貴金属市場の高騰がもたらす一方的な利益だけでなく、社会的な問題も引き起こしているのである。

将来の展望と課題

銀クラウンの需要と価値が上昇する中で、今後の展望と課題について考察する必要がある。まず、銀の価格が今後も上昇を続けるかどうかが注目される。市場の専門家によれば、パンデミック後の経済回復が進む中で、新興国からの需要が引き続き銀の価格を押し上げる可能性が高い。また、技術革新による新たな需要も期待されている。

しかし、一方で課題も存在する。銀価格の高騰が続けば、金属盗難のリスクが高まることは避けられない。また、銀クラウンの再利用が増えることで、供給不足のリスクもある。これに対応するためには、リサイクル技術の向上や新たな資源の確保が求められる。

さらに、社会的な視点からも、金属価格の高騰がもたらす影響を考慮する必要がある。例えば、金属盗難が増加することで、インフラの安全性が脅かされる可能性がある。これに対処するためには、法的規制の強化や社会全体での防犯意識の向上が重要である。銀クラウン市場の成長が持続可能であるためには、これらの課題に対する包括的なアプローチが必要となる。

Reinforz Insight
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