アメリカ合衆国対グーグルの独占禁止法裁判の判決が公開された。判決書は286ページにわたり、事実認定や法的結論が詳細に記されている。この中で特に注目すべきは、グーグルがアップルに巨額の資金を提供してデフォルトの検索エンジンとしての地位を維持している点である。裁判所は、グーグルが市場での唯一の選択肢である現実を指摘し、競争がないことを強調している。
グーグルとアップルの巨額契約の内幕
グーグルはアップルに対し、サファリのデフォルト検索エンジンとしての地位を維持するために毎年数十億ドルを支払っている。この契約により、グーグルはiOSデバイスでの圧倒的な検索シェアを確保し続けている。2022年には、グーグルがアップルに支払った金額は200億ドルに達し、これは2020年の17.5%の営業利益を超える金額である。
この契約は2016年に現在の形で締結され、2021年に延長された。契約の一部には、両社が規制当局の行動に対してこの合意を防衛する義務が含まれている。さらに、アップルが単独で契約を2年間延長できる条項もあり、双方の合意があれば2031年まで延長可能である。これにより、グーグルは他の検索エンジンがアップル製品に食い込むのを防ぎ、独占的地位を強固にしている。
この契約の詳細は、法廷での証言や内部文書から明らかになった。例えば、アップルの上級副社長エディ・キューは、マイクロソフトがいくらオファーしてもビングをデフォルトにすることはないと述べた。これにより、グーグルは自社がデフォルトの地位を「稼いだ」と主張する一方で、アップルとの契約がいかに重要かを示している。このようにして、グーグルは競争の少ない市場環境を維持している。
マイクロソフトのビングが抱える課題
アップルがグーグルを選び続ける理由の一つには、ビングの品質問題がある。法廷での証言によれば、ビングの検索品質はデスクトップではグーグルに匹敵するものの、モバイルでは遅れをとっている。このため、アップルはビングをデフォルト検索エンジンとして採用することに消極的である。
また、マイクロソフトはビングをアップルに無料で提供することさえ提案したが、それでもアップルは拒否した。エディ・キューは「マイクロソフトが世界中のどんな価格を提示しても意味がない」と述べ、ビングの品質や競争力の不足を強調した。この発言は、ビングがいかに厳しい競争環境に置かれているかを如実に示している。
ビングが抱えるもう一つの課題は、グーグルとの契約の存在である。グーグルがアップルに巨額の資金を提供することで、ビングや他の検索エンジンがデフォルトの地位を獲得するのを事実上妨げている。このような状況では、ビングがアップルのデバイスでシェアを拡大するのは非常に困難である。これにより、グーグルの市場支配が一層強固になるという問題が浮き彫りになっている。
一般検索エンジン(GSE)と専門的検索提供者(SVP)の違い
一般検索エンジン(GSE)は、グーグルやビング、ダックダックゴーのようにウェブ全体を対象に検索を提供する。一方、専門的検索提供者(SVP)は、特定の分野に特化した検索を提供する。例えば、AmazonやBooking.comは特定の製品やサービスに特化した検索エンジンであるが、GSEとは異なる。
法廷では、GSEとSVPの違いが重要視された。GSEは幅広い情報を提供するのに対し、SVPは特定のニーズに応じた結果を提供する。裁判所は、これらの違いが競争のダイナミクスに影響を与えると指摘した。特に、GSEは幅広いユーザー層を持ち、多様な検索クエリに対応できるが、SVPはその分野に特化した深い情報を提供する。
また、ソーシャルメディアプラットフォームもSVPの一種と見なされることがある。例えば、TikTokやFacebookの検索機能は、ユーザーが特定のコンテンツを見つけるのに役立つが、GSEと同じ役割を果たすわけではない。これにより、GSEとSVPの違いが再確認され、検索市場における競争の複雑さが浮き彫りになった。
AI検索の未来と現状
AI検索は将来的に検索エンジンの在り方を大きく変える可能性がある。しかし、現時点ではその影響は限定的である。裁判所の意見によれば、AIはまだウェブクロール、インデックス作成、ランキングといった検索の基本的な要素を代替できていない。
また、生成AIは現在のところユーザーデータを必要としないが、それでも質の高い検索結果を提供するためには従来のシステムが必要である。グーグルの検索担当副社長パンドゥ・ナヤックは、ランキングシステムを理解するためのインフラが依然として重要であると述べている。これにより、AIが完全に検索エンジンを代替するにはまだ時間がかかることが示されている。
さらに、グーグルは検索の質を意図的に下げても収益に大きな影響がないことを確認している。これは独占企業だけが成し得ることであり、競争がないために可能である。競争があることで消費者にとって良い結果がもたらされるという独占禁止法の基本理念が、ここでも確認された。将来的にはAIが検索の未来を担うかもしれないが、現時点ではまだその時期には達していない。