厚生労働省が発表した7月の実質賃金は、前年同月比で0.4%増加し、2カ月連続のプラスとなりました。
この背景には、春闘による所定内給与の上昇と夏季賞与の増加が大きく影響しています。
しかし、物価高が続く中で、このプラスが持続できるかどうか、今後の経済動向に注目が集まっています。

実質賃金がプラスになった要因:春闘と夏季賞与の影響

7月の実質賃金が前年同月比で0.4%増加した主な要因の一つは、春季労使交渉(春闘)の結果として賃上げが実施されたことです。厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、所定内給与は前年同月比2.7%増の26万5093円となり、この賃上げ率は31年8カ月ぶりの大幅な伸びとなっています。2024年の春闘では、平均で5%を超える賃上げが実現し、これが実質賃金の改善に寄与しています。

さらに、7月の実質賃金を押し上げたもう一つの要因は、夏季賞与の支払いが増加したことです。特別に支払われた給与、つまりボーナスは前年同月比6.2%増の11万8807円に達し、全体の現金給与総額の伸び率を後押ししました。夏季賞与は多くの企業で6月から7月にかけて支払われるため、7月の実質賃金がプラスとなった背景には、この賞与の影響が大きいと考えられます。

また、名目賃金においても7月は前年同月比で3.6%増加し、40万3490円という結果となりました。これは、消費者物価の上昇率(3.2%)を上回っており、物価高の影響を受けつつも、賃金上昇が消費力の維持に一定の貢献を果たしていることがわかります。ただし、この実質賃金のプラス幅は6月から0.7ポイント縮小しており、物価上昇が続く中で今後の推移には注視が必要です。

個人消費の行方:物価高が続く中での消費行動の変化

実質賃金がプラスになったとはいえ、物価高が続く中で、個人消費にどのような影響を与えるかが注目されています。7月の消費者物価指数(持ち家の家賃相当分を除く総合指数)は前年同月比3.2%増と、依然として高い水準にあります。このような物価高は、特にエネルギーや食品など、日常的な消費に大きな影響を与えており、ビジネスパーソンにとっては生活コストの上昇が懸念材料となっています。

その一方で、賃上げや賞与の増加により、消費の底支えが一定程度行われています。特に大企業では、2024年の春闘で平均5%を超えるベースアップが行われており、これが消費意欲の維持に繋がっています。ただし、中小企業や非正規雇用の労働者に対しては、依然として賃金上昇の恩恵が薄く、消費全体を押し上げる力には限界があると考えられます。

また、ボーナスの増加も一時的な消費の増加を促す要因となっていますが、8月以降は賞与の割合が小さくなることが予想されており、個人消費の勢いが鈍化する可能性もあります。実際、7月の実質賃金のプラス幅が6月から縮小していることを踏まえると、賃上げの効果が徐々に薄れていく中で、物価高が消費行動に与える負の影響が再び顕在化するリスクが残されています。

今後の課題:実質賃金の維持と経済の安定

実質賃金が2カ月連続でプラスを記録したことは、賃上げや賞与の増加による一時的な影響が大きいですが、今後もこのプラスを維持できるかどうかは不透明です。厚生労働省の雇用・賃金福祉統計室は、「物価高がこのまま続けば、実質賃金のプラスを維持するのは難しい」と指摘しています。特に、エネルギー価格や食料品価格の上昇が長期化する場合、実質賃金の伸びが鈍化し、再びマイナスに転じる可能性が懸念されます。

また、賃上げが今後も継続されるかどうかも重要なポイントです。2024年の春闘では過去最大の賃上げが実現しましたが、これが来年以降も続く保証はありません。特に、中小企業や非正規労働者に対する賃金引き上げが限定的であるため、経済全体に対する波及効果は依然として限定的です。

さらに、賞与の増加が実質賃金に与える影響は季節的なものであり、8月以降はその効果が薄れることが予想されます。現金給与総額に占める賞与の割合が小さくなると、基本給の増加だけで物価上昇に対抗することは難しくなり、賃金の実質的な価値が再び下がる可能性があります。

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