Salesforceは、データ管理と保護ソリューションを提供するOwn社を19億ドルの現金で買収した。Ownは、SalesforceのSlack買収以来最大の案件となり、同社のデータ管理体制を強化する狙いがある。データバックアップや災害復旧サービスに強みを持つOwnの技術が、Salesforceの顧客基盤に新たな価値をもたらすと期待されている。
Salesforceの最新の大型買収
Salesforceは、データ管理および保護に強みを持つOwn社を19億ドルで買収した。この取引は、Salesforceが2021年にSlackを277億ドルで買収して以来、最大の買収案件となる。Ownはニュージャージーを拠点とし、主に企業向けにデータバックアップや災害復旧ソリューションを提供している。買収によってSalesforceは、データ保護に対する顧客の要求に応えるための技術をさらに強化しようとしている。
Salesforceはこれまでにも複数の企業を買収しており、データ管理やセキュリティ分野に対する取り組みを進めてきたが、今回のOwn社の買収はその集大成とも言える。Ownは既に7000社以上の顧客を持ち、強力なデータ保護と管理のポートフォリオを誇っている。今回の買収は、Salesforceが顧客のデータ保護ニーズに応えるために必要な技術とサービスを強化する大きな一歩となる。
この買収は、2025年度の第4四半期に完了する予定であり、規制当局の承認が得られ次第、正式にSalesforceの一部となる見込みである。Salesforceは、データ保護がこれまで以上に重要視される時代において、顧客に対してより包括的なソリューションを提供できる体制を整えつつある。
Ownの提供するデータ管理と保護の強み
Own社は2015年に設立され、もともとは「OwnBackup」として知られていた。同社は、SalesforceやAWS、MicrosoftなどのSaaSアプリケーションに対応するデータバックアップや災害復旧サービスを提供している。これにより、企業は重要なデータを安全に保管し、万が一の障害時にも迅速に復旧できる体制を整えることができる。2021年には3.35億ドルの評価を受けており、その後も成長を続けている。
特にSalesforceとの連携が強く、同社のAPIを活用して顧客データを効率的にバックアップする機能が高く評価されている。さらに、Ownはデータアーカイブやセキュリティ分析、データシーディングといった追加機能も提供しており、データ保護だけでなく、データ管理全般に強みを持っていることが特徴である。
こうした技術力と実績が、今回の買収において大きな要因となっている。Salesforceはこの技術を自社のデータ管理システムに統合することで、より包括的なデータ保護と災害復旧ソリューションを顧客に提供し、競争力を高めていく狙いがある。
買収の背景と市場の成長動向
データ保護市場は急速に成長しており、特に企業のデータバックアップや災害復旧のニーズが高まっている。市場調査会社KBVリサーチによると、2023年にはグローバルなデータバックアップおよび復旧市場は129億ドル規模に達し、2017年から2023年にかけて年平均成長率10.9%を記録している。こうした背景には、企業がランサムウェア攻撃やデータセンターの障害といったリスクに直面している現状がある。
例えば、2021年にはフランスのOVHデータセンターで火災が発生し、多くの企業がデータを失う事態が起きた。また、各国でデータ管理に関する規制が強化されており、EUではAI法が施行されるなど、データ保持やトレーサビリティに厳しい要件が求められるようになっている。これにより、企業はデータ管理と保護にますます投資する必要がある状況にある。
Salesforceは、こうした市場の成長に対応するため、データ管理と保護に特化した技術を強化しており、今回のOwn社買収もその一環として行われた。特に、Ownの技術は今後のデータ保護市場において重要な役割を果たすと見込まれている。
今後のデータ保護市場に与える影響
SalesforceとOwnの提携により、データ保護市場における競争が一層激化することが予想される。OwnのCEOであるサム・グットマンは、今回の買収によりSalesforceのデータ保護ツールがさらに充実し、顧客に対してより高い価値を提供できると語っている。特に規制が厳しい産業分野において、データの安全性とコンプライアンスを確保することが重要な課題となっており、Ownの技術がその解決策として大きな役割を果たすことになるだろう。
また、Salesforceはこれまで買収戦略を一時的に控えていたが、今回のOwn社買収により再び大型買収に乗り出す可能性がある。最近では、PredictSpringやTenyxといった小規模なスタートアップの買収を進めており、これらの買収と合わせて、データ管理分野での存在感を強めようとしている。
今後、データ保護市場はますます拡大し、企業にとってデータの保護と管理が競争力を左右する重要な要素となる。SalesforceとOwnの協力により、データ保護分野でのイノベーションが加速し、市場全体に与える影響は計り知れないものとなるだろう。