日本の半導体産業は再興を掲げつつも、依然として大きな課題に直面しています。AIやデジタル産業の急成長により、米国や中国では需要が生まれる一方、日本では需要創出が不足し、「買い手不在」の状況が続いています。

ラピダスなど最先端技術を担う企業もありますが、国内市場での顧客拡大が遅れています。グローバル競争の中で日本が半導体産業を再興させるためには、政策支援と需要創出に向けた具体的な施策が求められています。

この状況に対し、日本のビジネスリーダーたちはどのような道筋を描くべきか、注目が集まっています。

日本の半導体需要の課題と現状

日本の半導体産業は再興を掲げているものの、需要創出において大きな課題を抱えています。米国や中国ではAIの急成長が半導体需要を引き上げている一方、日本国内では「買い手不在」という問題が顕著です。最先端半導体の製造技術は進んでいるものの、それを利用するデジタルサービスやソフトウェア産業の発展が追いついていません。例えば、ラピダスは最先端ロジック半導体の製造に取り組んでいますが、国内での顧客は少なく、米国GAFAMのような巨大企業を狙って国外展開を図っています。

日本では、過去の産業政策がものづくりに偏重した結果、半導体需要の牽引役となるデジタルサービス産業が育っていないのが現実です。米国では、AIや自動運転技術、スマートフォンの普及により、半導体の需要が急速に拡大しました。これに対し、日本ではデジタル赤字が2023年度には5兆円を超え、産業構造の転換が急務となっています。

このように、技術力があっても市場が存在しなければ投資も進まず、半導体産業の持続的成長は望めません。ラピダスが2024年に計画している北海道千歳市の工場建設に向けた1兆円の資金調達も、国内市場の停滞が影響を及ぼしています。

ラピダスと国内産業の成長戦略

ラピダスは日本の半導体産業再興の要となる企業ですが、その成長戦略は多くの課題に直面しています。2024年5月に米スタートアップ、エスペラント・テクノロジーズと協業し、AI向け半導体の設計開発に着手したラピダスは、AI産業の成長に伴う半導体需要を取り込む狙いです。しかし、国内市場における半導体需要は依然として低迷しており、ラピダスが顧客として公表している企業はわずか2社に留まっています。

国内での需要を喚起するためには、半導体の「製造」だけでなく、その「用途」となる産業の育成が求められています。日本は過去数十年にわたり、ものづくり産業を中心とした政策を推進してきましたが、デジタル産業の発展は進んでいません。これが、国内での半導体需要不足の一因となっているのです。AIや量子コンピューターといった新技術に対する政策支援が不足している現状では、ラピダスのような先進的な企業が国内で活躍する場は限られます。

一方、ラピダスは米西海岸に営業拠点を設置し、GAFAMなどの巨大テック企業を顧客に据えるグローバル戦略を進めています。これにより、日本国内での需要不足を補い、将来的な成長を目指していますが、国内の産業構造改革が進まない限り、半導体業界全体の成長は限定的なものとなるでしょう。

グローバル市場との競争とAI需要

日本の半導体産業が抱える大きな課題の一つが、グローバル市場における競争力の低下です。特にAI需要の急速な拡大に伴い、米国や中国では半導体市場が活況を呈しています。米国ではエヌビディアやクアルコムといった巨大企業がAI向け半導体の需要を牽引しており、AI産業と半導体産業の成長が好循環を生んでいます。エヌビディアは2023年だけで500億ドル以上の売上を記録し、そのほとんどがAI向け半導体によるものです。

一方、中国もAI産業の成長を国家戦略として推進しています。中国政府は2020年代末までに世界トップのAI産業を育成する方針を掲げ、半導体の国産化を急ピッチで進めています。華為技術(ファーウェイ)や中芯国際(SMIC)といった企業が、中国国内での半導体供給網を構築し、米国の輸出規制に対抗する姿勢を強めています。

これに対して、日本は依然としてAI産業やデジタルサービス分野での需要創出が遅れています。AIは今後、金融や医療、自動運転といった分野で爆発的な需要が見込まれ、高性能プロセッサーの需要が急増しますが、日本国内の企業がその波に乗れるかは不透明です。ラピダスがグローバル市場に打って出るためには、国内産業の強化と、AI向け半導体の需要を掘り起こす政策が必要です。

デジタル赤字を埋めるために必要なもの

日本の半導体産業の未来を語る上で避けて通れない問題が、2023年度に5兆円を超えた「デジタル赤字」です。これは、巨大なデジタルサービスやソフトウェアを米国のGAFAMに依存していることが主な原因です。日本国内のソフトウェア産業やデジタルサービスの不足が、この赤字をさらに悪化させています。

ソフトウェアは現代の経済の中心的な要素であり、それを動かすためには高性能な半導体が不可欠です。米国では、強力なソフトウェア企業とそれを支える半導体産業の相互作用が成り立っています。例えば、クアルコムはスマートフォン向け半導体で世界をリードし、エヌビディアはAI向け半導体で急成長しています。このようなサイクルが日本には欠けているため、ラピダスのような先端企業が国内での市場を拡大できないのです。

日本のデジタル赤字を埋めるためには、まずソフトウェアやデジタルサービス産業の育成が急務です。それによって、国内で半導体の需要が喚起され、ラピダスをはじめとする企業の成長が促進されます。具体的な施策としては、AIや量子コンピューターといった次世代技術の利用促進、そしてそれを支えるソフトウェア開発企業への支援が必要です。

政府の役割と次期リーダーへの期待

2024年に予定されている自民党総裁選では、次期リーダーの指導力が日本の半導体産業再興にとって鍵を握っています。ラピダスのような先端企業の成長を支えるためには、政府の政策支援が不可欠です。これまで、政府は半導体産業への巨額投資を進めてきましたが、さらなる持続的な支援が必要です。特に、電力供給や人材育成などの社会インフラの整備が急務となっています。

例えば、半導体工場が24時間365日稼働するためには、莫大な電力が必要です。日本国内の電力コストは、米国や台湾、韓国の半分以下であり、この点で日本は大きな不利を抱えています。泊原子力発電所の再稼働が議論される背景には、半導体産業を支えるための安定した電力供給が求められているからです。

また、半導体産業の持続的な成長には、人材の育成も不可欠です。電子情報技術産業協会(JEITA)の試算によれば、今後10年間で4万人超の人材が不足するとされています。次期リーダーには、これらの課題に正面から取り組み、日本の半導体産業を支える社会インフラの整備を実現することが求められています。

Reinforz Insight
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