編集部
2025年が迫る中、日本のIT業界は大きな転換点を迎えています。経済産業省の報告書によれば、基幹システムの老朽化が進行し、「2025年の壁」と呼ばれる大きな課題に直面することになります。
2023年には国内ITサービス市場が前年比6%増の6兆4608億円に達し、さらに28年には8兆円規模に拡大する見通しです。しかし、老朽システムの刷新が進まなければ、企業は年間最大12兆円もの経済損失を被る恐れがあります。
こうした状況に対応するため、各企業はシステムのモダナイゼーションやDX推進に向けた戦略を練り直す必要があります。本記事では、2025年の壁を乗り越えるための課題と戦略を深掘りし、ビジネスパーソンに求められる今後のアクションを考察します。
「2025年の壁」とは？DXを阻む見えない障壁
2025年の壁とは、経済産業省の「DXレポート」によって提唱された、老朽化した基幹システムが企業のDX（デジタルトランスフォーメーション）を阻む課題を指します。特に、企業が使用する基幹システムの多くが21年以上稼働しているという現状が深刻です。経済産業省の調査によれば、2025年時点で基幹システムの約60%が21年以上稼働する見込みであり、これらのシステムの維持費や不具合の増加が、企業のIT予算を圧迫しています。
さらに、この問題は年間最大12兆円の経済損失を引き起こす可能性があるとされています。これにより、多くの企業は新たなデジタル技術の導入が遅れ、競争力の低下に直面するリスクが高まります。経済産業省は、レガシーシステムの維持がDX推進の大きな障害となっており、システム刷新の必要性を強調しています。
システム刷新の遅れは、サイバーセキュリティの脅威も高めます。老朽化したシステムは新しい脅威に対応できず、企業にとって重大なリスクとなります。これに対し、企業はただ新しいシステムを導入するだけでなく、既存システムの問題を見極め、段階的なモダナイゼーション（近代化）を進める必要があります。これこそが、2025年の壁を乗り越えるための鍵となるのです。
IT業界の好況とシステム改修需要の急増—2025年の壁が引き起こす変革
IT業界は今、2025年の壁を背景に活況を呈しています。2023年の国内ITサービス市場は前年比6%増の6兆4608億円に達し、成長率が5%を超えたのは2010年以降で初めてのことです。さらに、2028年には市場規模が8兆円にまで拡大する見通しです。この成長を支えているのが、老朽化した基幹システムの改修需要の急増です。特に金融機関の勘定系システムやメーカーの生産管理システムなど、企業の中核を支えるシステムが中心となって改修が進められています。
大手IT企業7社（NTTデータグループ、野村総合研究所、伊藤忠テクノソリューションズ、TIS、SCSK、BIPROGY、日鉄ソリューションズ）は、2023年6月末時点で約8兆1400億円の受注残高を抱えており、前年同期比で25%増加しました。これらの企業は、メインフレームと呼ばれる老朽化した大型コンピューターの改修や、COBOLからJavaなど現代のプログラミング言語への置き換えサービスを展開しています。
富士通は、2025年度までにモダナイゼーション事業の売上を23年度比9割増の3000億円に引き上げる計画を進めており、TISも正確な言語変換技術を武器に市場シェアを拡大中です。これらの動きは、企業がDXを実現するための重要なステップとなっており、IT業界全体が「2025年の壁」をビジネスチャンスとして捉え、次なる成長へとつなげています。
老朽化する基幹システムと人材不足—企業が直面する課題とは
「2025年の壁」を前に、企業が直面する最大の課題は老朽化した基幹システムの刷新と、それに対応するIT人材の不足です。特に、1950年代に開発されたCOBOLなどの古いプログラミング言語で動作するメインフレームの更新は喫緊の課題です。しかし、COBOLに習熟した技術者は年々減少しており、技術対応が困難になっています。このような状況では、新システムへの移行が遅れ、企業のデジタル競争力が低下するリスクが高まります。
さらに、経済産業省の試算では、2025年以降も基幹システムの刷新需要が続き、2030年にはIT人材が最大で79万人不足するとされています。IT業界はシステム刷新に必要な人材の育成に苦慮しており、特に中途採用市場での人材争奪戦が激化しています。また、国内の労働人口の減少や、海外大手テック企業への人材流出も課題です。日本のITエンジニアの平均年収は3万6061ドルで、他の先進国に比べ待遇が劣っているため、優秀な人材が海外に流出し続けています。
政府はこうした課題に対応するため、省庁横断の「レガシーシステム脱却・システムモダン化協議会（仮称）」を設立し、ITサービス企業と協力してクラウド活用やエンジニア育成のための施策を検討しています。しかし、これらの施策が実を結ぶには時間がかかるため、企業は早急に独自の人材育成プランを策定し、システム刷新を推進する必要があります。
「モダナイゼーション」の新潮流—システム刷新がDX成功の鍵に
モダナイゼーションとは、老朽化したシステムを現代の技術に合わせて刷新することを指し、DXを成功に導くための重要なステップです。特に日本では、メインフレームやCOBOLといった旧来のシステムが多く残っており、これらを新しいプラットフォームへと移行させる動きが加速しています。富士通は2025年度までに「モダナイゼーション」事業の売上を23年度比9割増の3000億円に引き上げる計画を進めており、主力サービスとしてCOBOLからJavaへの自動変換を行うソリューションを展開しています。
また、TISは「Xenlon〜神龍 モダナイゼーションサービス」を提供し、言語変換の正確性を武器に市場でのシェアを拡大しています。TISの岡本安史社長は、変換率99%以上の精度を誇る事例が増加していることを強調しており、これが金融機関や大手企業からの受注増につながっています。これらのサービスは、個別対応からパターン化された検証作業に進化しており、導入までの期間とコストを大幅に削減することに成功しています。
システム刷新は単なる技術の置き換えではなく、業務プロセス全体の見直しにもつながり、企業の競争力向上をもたらします。特に金融や製造業界では、基幹システムの刷新が業務効率の改善と新たなデータ活用の機会を生み出し、DX推進の大きな柱となります。モダナイゼーションを進めることで、企業は古いシステムの負債から解放され、未来に向けた成長戦略を実現できるのです。
2025年以降の展望とDX推進の戦略—ビジネスパーソンが今すべきこと
2025年以降、DXの推進が企業の成長を左右する重要な要素となります。経済産業省のレポートによれば、企業が老朽化したシステムを刷新しない場合、年間最大12兆円の経済損失が発生すると予測されています。これに対応するため、企業は単なるシステム置き換えにとどまらず、ビジネス全体をデジタル化するための戦略を練り直す必要があります。これには、クラウド活用の拡大や新しい技術への対応が含まれ、迅速かつ柔軟なビジネス環境の構築が求められます。
また、人材不足がDX推進の大きな障害となっている中で、企業はエンジニアの育成と確保に力を入れなければなりません。経済産業省は、IT人材が2030年までに最大79万人不足するとの試算を示しており、この課題に対応するためには企業ごとに長期的な人材育成プログラムを設けることが急務です。デジタル庁も、省庁横断の「レガシーシステム脱却・システムモダン化協議会」を立ち上げ、ITサービス企業とともにDX推進を支援する計画を進めています。
一方で、DX推進のための投資とリソースの最適化も重要です。システム刷新には多額のコストがかかるため、不要な機能の削減や優先順位を明確にしたプロジェクト管理が求められます。企業は今後の市場変化に対応できる柔軟なシステムを持つことが、競争優位を保つための必須条件となります。2025年の壁を越えるための戦略をいち早く策定し、実行に移すことが、ビジネスの成功につながるのです。
DXを推進し、「2025年の壁」に備えましょう
企業が「2025年の壁」を乗り越えるためには、DX推進の加速が不可欠です。老朽化したシステムに依存する企業は、新たなデジタル技術の導入や業務プロセスの最適化を妨げられ、競争力を失うリスクにさらされています。特に、SAPが旧式ソフトの標準サポートを2027年末で終了すると発表したことで、ERP（統合基幹業務システム）の刷新需要が急増しています。これにより、既存システムの見直しが避けられない状況となり、多くの企業が新たなシステムへの移行を迫られています。
企業はシステム刷新を通じて、DX推進を支える基盤を整備する必要があります。富士通やTISといった大手IT企業は、基幹システムのモダナイゼーションを支援するサービスを強化し、顧客企業ごとの個別ニーズに応じた柔軟な対応を進めています。これにより、従来のシステム刷新が抱えていたコストと時間の課題を克服し、効率的なDXの実現が可能となっています。
また、システム刷新の成否を左右するのが、IT人材の確保と育成です。国内最大手のNTTデータは、独立系システム開発企業ジャステックを約340億円で買収し、エンジニアの体制強化を図るなど、業界全体で人材不足に対応する動きが活発化しています。DXの推進には、単なる技術の導入だけでなく、企業文化や業務プロセスの変革も必要です。2025年の壁を越え、持続的な成長を実現するためには、今こそDX推進に向けた具体的な行動が求められています。