2024年9月18日、トヨタ自動車など大手自動車メーカー7社は、円高進行や米国での販促費増加により、2025年3月期業績に減速懸念が強まっています。9月末まで現在の相場水準である1ドル=140円前後が続けば、前年同期比での収益押し上げ効果は薄れる見込みです。

さらに、米国市場では供給回復に伴う競争激化で、販売1台あたりの奨励金が前年同期比約50%増の3400ドル(約47万円)に膨らんでいます。加えて、中国市場では比亜迪(BYD)の台頭により、トヨタ、ホンダ、日産の7~8月の販売台数が前年同期比で1~4割減少しています。

このような逆風の中、自動車メーカー各社はどのような戦略で未来を切り開くのでしょうか。本記事では、具体的な数値や事例を交えながら、各社の戦略と今後の展望に迫ります。

円高進行と販促費増加が業績を圧迫

トヨタ自動車など大手7社の2025年3月期業績に、円高の進行と販促費の増加が重くのしかかっています。9月末まで現在の1ドル=140円前後の相場が続くと、前年同期比での収益押し上げ効果が薄れる見込みです。実際、4~6月期の平均レートは1ドル=156円弱でしたが、9月には140円の水準となり、円安効果が減少しています。

また、米国市場では供給回復に伴う競争激化により、販売1台あたりの奨励金が前年同期比約50%増の3400ドル(約47万円)に膨らんでいます。これにより、日産自動車は4~6月期の営業利益が前年同期比99%減の9億円と大幅に減少しました。トヨタやホンダも販促費の増加に直面しており、業績への影響が懸念されています。

販売の「質」が問われる新たな局面

供給回復と競争激化により、単に販売台数を増やすだけでなく、いかに「質」の高い販売を行うかが重要となっています。ホンダは米国でハイブリッド車(HV)の販売が好調で、奨励金を業界平均より1000ドルほど抑制できています。トヨタはさらに奨励金が低く、業界平均の半分以下にとどまっています。

一方、マツダは大型SUVの投入で米国シェアを伸ばしていますが、奨励金も膨らんでいます。今後は奨励金を抑えつつ販売を伸ばす戦略が求められます。スズキはインド市場で圧縮天然ガス(CNG)車を推進し、現地販売の3割をCNG車が占めています。これにより、高採算かつ環境配慮型の販売を実現しています。

円安効果の剥落と減益リスクの高まり

これまで増益要因となっていた円安効果が薄れつつあります。2024年4~6月期の7社合計の営業利益は前年同期比12%増の2兆1000億円強でしたが、為替影響での押し上げは5800億円と増益幅を上回っています。もし現在の円高基調が続けば、7~9月期は9四半期ぶりの減益に転じる可能性があります。

さらに、各社の通期予想ではホンダとマツダを除く5社が営業減益を見込んでいます。株式市場では増益を期待していただけに、減益リスクが高まれば株価の下落圧力となります。実際、トヨタやホンダ、日産の株価は8月初旬の5営業日でそれぞれ約15%、13%、13%下落しています。

米国市場での競争激化と奨励金の増大

米国市場では供給回復に伴い競争が激化し、販売奨励金(インセンティブ)の増加が顕著です。米コックス・オートモーティブの調査によれば、2024年7〜8月の販売1台あたりの奨励金は業界平均で約3,400ドル(約47万円)と、前年同期比で約50%増加しました。この動向は自動車メーカー各社の利益を圧迫しています。

日産自動車は主力SUV「ローグ」のモデル切り替えの遅れにより、販売費が増加。2024年4〜6月期の営業利益は前年同期比99%減の9億円にとどまりました。マツダも大型SUVの投入で米国シェアを伸ばす一方、奨励金の増加が利益を圧迫しています。奨励金を抑制しつつ販売を維持する戦略が各社に求められています。

ホンダはハイブリッド車(HV)の人気により、奨励金を業界平均より約1,000ドル抑制しています。トヨタ自動車も同様に奨励金を業界平均の半分以下に抑えています。HVの販売強化が利益確保の鍵となっており、各社の戦略が注目されています。

中国市場での比亜迪(BYD)の台頭と日本勢の苦戦

中国市場では電気自動車(EV)メーカーの比亜迪(BYD)が台頭し、日本勢は苦戦を強いられています。トヨタ、ホンダ、日産の2024年7〜8月の中国販売台数は、前年同期比で1〜4割減少しました。BYDはEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の販売で急速にシェアを拡大しています。

中国市場の電動車比率は年々高まっており、BYDはその需要を的確に捉えています。一方、日本勢は電動車への対応が遅れ、市場シェアを奪われています。さらに、BYDは東南アジアや中南米など新興市場への進出も加速しており、日本勢の伝統的な強みであった地域でも競争が激化しています。

この状況下で、日本勢は電動化戦略の再構築が急務となっています。技術開発や現地ニーズへの対応を強化しない限り、さらなるシェア喪失のリスクが高まっています。

逆風下での各社の戦略と未来展望

円高や市場競争の激化といった逆風下で、自動車メーカー各社は新たな戦略を模索しています。スズキは主力市場のインドで圧縮天然ガス(CNG)車を推進し、現地販売の3割をCNG車が占めています。環境配慮型の車種で高採算を実現し、シェア7割を維持しています。

トヨタは人への投資を3,800億円、EVなどへの成長投資を3,200億円とし、未来への布石を打っています。ホンダは中国やタイの低稼働工場の合理化を進め、効率化を図っています。マツダは大型SUVの販売戦略を見直し、奨励金の抑制に努めています。

各社は技術開発や市場戦略の再構築を進め、逆風を乗り越えようとしています。電動化や新興市場での展開、人材投資など、多角的なアプローチが未来の成長を左右する鍵となっています。

Reinforz Insight
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