編集部
2025年は船舶業界にとって、エネルギー効率化の大きな転換点となります。国際規制がさらに強化され、環境負荷を低減する取り組みが不可欠です。この転換期を迎えるにあたり、船舶業界が取り組む最新技術や革新の動向を見ていきましょう。
なぜ2025年が船舶エネルギー効率化の転換点なのか？
2025年は、船舶業界にとってエネルギー効率化が大きく進展する年として注目されています。背景には、国際的な環境規制の強化と、それに伴う船舶のエネルギー効率改善への圧力があるのです。特に、国際海事機関（IMO）の「エネルギー効率設計指標（EEDI）」や、燃費実績格付け制度（CII）などの規制が、従来のエネルギー消費モデルに革命を起こすことが期待されています。
船舶業界は、これまで石油ベースの燃料を主要なエネルギー源としてきましたが、地球温暖化に伴う気候変動のリスクが顕在化する中、2025年はエネルギー転換が加速する時期です。新しい規制は、二酸化炭素（CO2）排出削減だけでなく、効率的な運航方法や新たな燃料技術の採用を促進します。これにより、持続可能な海運が現実のものとなり、各国や船舶オペレーターにとっては大きなチャンスであり、同時に課題でもあります。
特に注目されているのは、船舶の新技術やデジタル化を活用した効率化です。具体的には、リアルタイムでの航行データ分析や、人工知能（AI）を用いた燃費改善の取り組みが進展しています。これらの技術は、運航コストを削減するだけでなく、環境負荷の低減にもつながります。
2025年は、エネルギー効率の高い船舶を運航するための基準が一段と厳しくなり、業界全体に大きな変革をもたらします。各国政府や規制当局は、新たなエネルギー基準を満たすことが、競争力を維持するために必要不可欠であると強調しています。
国際規制の強化：MARPOLとEEDIの影響
国際的な環境規制の強化は、船舶エネルギー効率化を進める上で大きな要因となっています。特に「MARPOL条約附属書VI」と呼ばれる国際海事機関（IMO）の取り組みは、船舶からの温室効果ガス（GHG）排出を削減するための重要な枠組みです。これに基づき、エネルギー効率設計指標（EEDI）という規制が、全ての新造船に適用されています。
EEDIは、船舶が輸送する貨物1トンあたりのCO2排出量を評価する指標で、2025年にはさらに厳しい基準が適用される予定です。この規制により、船舶の設計段階からエネルギー効率を向上させることが義務化され、低排出型の船舶が主流になることが期待されています。具体的には、エンジンの改良、船体の設計変更、さらには新たな推進技術の導入などが進んでいます。
また、MARPOL条約附属書VIでは、燃料の硫黄分含有量の制限も強化されています。これは、船舶による大気汚染を抑制するための措置で、重油の代替としてLNG（液化天然ガス）やアンモニアといったクリーン燃料の使用が増加しています。これにより、海運業界全体での燃料転換が急速に進んでおり、燃料供給インフラの整備も急務となっています。
国際規制の強化は、単に環境対策にとどまらず、船舶業界全体の技術革新を加速させています。エネルギー効率化に向けた投資は、将来的に企業の競争力を左右する要素となりつつあり、船主やオペレーターは新たな規制に迅速に対応する必要があるのです。
エネルギー効率設計指標（EEDI）の進化と新造船への影響
エネルギー効率設計指標（EEDI）は、船舶の設計段階からエネルギー効率を向上させるために導入された国際規制です。この指標は、船舶が1トンの貨物を1海里輸送する際に排出されるCO2量を評価します。EEDIの厳格化は、船舶業界に革新的な技術導入を促す一方、業界全体に大きな変革をもたらしています。
2025年から適用されるEEDIの第3フェーズでは、新造船に対してさらに高いエネルギー効率が求められます。具体的には、貨物船やタンカーなどの大型船舶において、CO2排出量を20%以上削減することが義務化されています。このような新基準に対応するため、多くの造船会社は、新型のエンジンや燃料効率の高い船体デザインの開発に注力しています。
また、EEDIの進化により、従来の燃料に代わる代替燃料の採用が進んでいます。例えば、液化天然ガス（LNG）や水素燃料、さらにはアンモニアなどが新造船において採用されるケースが増えています。これにより、船舶のエネルギー効率が大幅に向上し、CO2排出量の削減が期待されています。
さらに、デジタル技術の進化もEEDI基準の達成に寄与しています。AIを活用した航行データのリアルタイム分析や、燃料消費の最適化技術が導入されることで、船舶の運航効率が劇的に向上しています。このように、EEDIの進化は、船舶の設計から運用に至るまで、さまざまな革新をもたらしているのです。
燃費実績格付け制度（CII）とは？新基準で求められる船舶の変化
2023年に導入された燃費実績格付け制度（CII）は、船舶の燃料効率を評価する新しい基準です。この制度は、各船舶が年間に使用する燃料量をもとに、AからEまでの5段階で格付けされます。CIIは、IMO（国際海事機関）の温室効果ガス（GHG）排出削減戦略の一環として策定されており、船舶のエネルギー効率向上を目的としています。
CIIの導入により、船舶オペレーターは燃費改善に向けた具体的な対策を講じる必要があります。例えば、燃料消費量のモニタリングを強化し、航路や運航速度の最適化を図ることで、燃費効率の向上が求められています。特に、低評価を受けた船舶は、次年度までに改善計画を提出し、実行する義務が生じるため、業界全体での燃費管理が厳格化されることになります。
また、CIIは、船舶の燃料選択にも大きな影響を与えています。従来の重油に代わり、LNGやバイオ燃料、アンモニアなどの代替燃料が注目を集めており、これらのクリーン燃料への転換が燃費実績の向上に直結しています。これに伴い、燃料供給インフラの整備も急速に進んでいます。
さらに、CIIは船舶のライフサイクル全体に影響を及ぼします。エネルギー効率の低い古い船舶は淘汰され、新たに建造される船舶には、最新の燃費管理技術や環境対応燃料の採用が不可欠となっています。このように、CIIの導入は、船舶業界における燃料選択や運航効率の向上を大きく促進しているのです。
脱炭素燃料の台頭：LNG、アンモニア、水素の役割
2025年に向けた船舶のエネルギー効率化には、脱炭素燃料の導入が不可欠です。従来の重油に代わり、液化天然ガス（LNG）、アンモニア、水素といった新たな燃料が注目されています。これらのクリーン燃料は、二酸化炭素（CO2）や硫黄酸化物（SOx）などの排出量を大幅に削減し、持続可能な船舶運航の鍵を握っています。
LNGは、既に多くの商船に採用されている燃料であり、重油に比べてCO2排出量が25%少ないのが特徴です。また、SOxや窒素酸化物（NOx）などの汚染物質の排出も抑制できるため、環境負荷の軽減に寄与しています。さらに、LNGは既存の燃料インフラを利用できる点でもメリットがあり、急速に普及しています。
アンモニアは、CO2を排出しない完全なゼロエミッション燃料として期待されています。燃焼時にCO2が発生しないため、将来的には完全脱炭素社会の実現に向けた重要な役割を果たすとされています。ただし、アンモニアは取り扱いが難しいため、専用の燃焼技術や供給インフラの整備が必要とされています。
水素は、さらに次世代の船舶燃料として注目されています。燃焼時に水しか排出せず、温室効果ガスを一切排出しないため、理想的なクリーンエネルギーとされています。水素エンジンの技術開発は進行中であり、2025年以降は実用化が見込まれていますが、燃料の貯蔵や輸送における課題が残っています。
これらの脱炭素燃料の台頭により、船舶業界はエネルギー効率の向上と環境負荷の削減を両立させる新たな時代を迎えようとしています。LNGやアンモニア、水素のいずれも、今後の海運業界のエネルギー戦略において重要な位置を占めることになるでしょう。
実際の改善事例：日本の主要船会社の取り組み
日本の主要船会社は、2025年に向けたエネルギー効率化の取り組みを積極的に進めています。日本郵船、川崎汽船、商船三井などの大手企業は、国際規制に対応するために次世代技術やクリーン燃料を積極的に採用し、船舶のエネルギー効率を向上させています。これらの取り組みは、企業の競争力を維持するためだけでなく、グローバルな脱炭素目標を達成するためにも重要です。
日本郵船は、LNG燃料船の導入を進める一方で、デジタル技術を活用した運航効率の最適化にも力を入れています。AIを用いた燃料消費量のリアルタイム監視システムを導入し、航路や速度を最適化することで、燃料消費を抑えながら効率的な運航を実現しています。また、将来的にはアンモニアや水素燃料の実用化にも取り組む姿勢を示しています。
川崎汽船は、既存船のエネルギー効率向上にも積極的です。船舶の改修により、燃費改善や排出ガスの削減を図る一方、新造船には最新の燃費管理システムを導入しています。これにより、国際規制を遵守しつつ、環境負荷を最小限に抑えた運航が可能となっています。
商船三井も、エネルギー効率の向上に向けて大規模な投資を行っています。LNG燃料船や太陽光発電、風力発電を活用したハイブリッド船の導入を進め、環境に配慮した運航を実現しています。これにより、CO2排出量を大幅に削減し、持続可能な海運の実現を目指しています。
これらの企業の取り組みは、エネルギー効率の向上だけでなく、環境問題に対応した持続可能なビジネスモデルの構築にもつながっています。
エネルギー効率向上がもたらす船舶業界の未来展望
2025年を境に、船舶業界はエネルギー効率の向上を核とした新たなステージに突入します。国際海事機関（IMO）の厳格な規制に対応するため、多くの企業は技術革新や燃料転換に力を入れ、持続可能な運航を目指しています。この変革は単に環境保護の側面にとどまらず、コスト削減や運航効率の向上といったビジネスチャンスをも生み出しています。
エネルギー効率向上は、特に燃料コストの削減に直結しています。燃料費は船舶運航コストの大部分を占めるため、燃費改善は企業の利益率に大きな影響を与えます。新しい省エネ技術や代替燃料の採用によって、運航コストが大幅に削減され、企業の競争力が向上するでしょう。これにより、業界全体がコスト削減と環境負荷低減の両立を実現できる見込みです。
また、エネルギー効率化は運航スケジュールや航路計画の最適化をもたらします。AIやIoT技術の活用によって、船舶の運航データがリアルタイムで管理され、最も効率的な航路や速度を選択することが可能になります。これにより、無駄な燃料消費を抑えるだけでなく、運航の安全性も高まります。こうしたデジタル技術の進展は、今後の船舶業界の標準となるでしょう。
さらに、エネルギー効率の向上は、環境規制に適応するだけでなく、新しいビジネスモデルを創出する可能性も秘めています。例えば、ゼロエミッション船の導入や、クリーン燃料を積極的に採用することで、持続可能性を重視する荷主や企業との提携が強化されるでしょう。持続可能な海運は、ビジネスにおいても競争優位を築くための重要な要素となりつつあります。
このように、エネルギー効率向上は船舶業界にとって単なる技術革新にとどまらず、業界全体の未来を見据えた戦略的な取り組みとなっています。
まとめ
2025年は、船舶業界にとってエネルギー効率化の重要な節目となり、国際規制の強化と技術革新が求められる時期です。各国の船舶オペレーターや造船会社は、燃料の転換やAIを活用した運航最適化により、持続可能な海運業界の実現に向けた大きな進展を見せています。
特に、LNG、アンモニア、水素といった脱炭素燃料の台頭は、今後のエネルギー戦略に大きな影響を与えるでしょう。これにより、船舶業界は環境負荷の低減とコスト削減を両立させる未来を切り開こうとしています。エネルギー効率の向上は、規制対応にとどまらず、企業の競争力を高めるための重要な要素です。
今後、さらなるエネルギー効率化が進むことで、持続可能な海運業界の実現が期待されています。