時計大手のセイコーグループが、新たな成長事業としてシステムソリューション事業を創出し、ビジネス界で注目を集めています。同社は2024年3月期の営業利益率でカシオを13年ぶりに抜き、株価は年初来で約50%も上昇しました。
この成功の背景には、多角化戦略やM&Aによる事業拡大、そしてストックビジネスへの転換があります。では、セイコーはどのようにしてこの新たな成長事業を築き上げたのでしょうか。
時計事業からシステムソリューション事業への多角化戦略
セイコーグループは、時計事業で培った技術と経験を活かし、システムソリューション事業への多角化を進めています。2012年に専門子会社としてセイコーソリューションズ株式会社を設立し、ITシステム性能管理やネットワーク機器、IoT組み込みモジュールなど幅広い分野で事業を展開しています。
この多角化戦略により、時計事業以外にも収益の柱を育て、2024年3月期の営業利益率は5.3%と、カシオ計算機を13年ぶりに上回りました。特にシステムソリューション事業は、2024年4〜6月期の営業利益が前年同期比8%増の11億円となり、33四半期連続で増収増益を達成しています。
セイコーは、環境変化に強い事業構造を築くため、多角化によるリスク分散と安定的な成長を実現しています。
M&Aを活用した事業拡大と成長
セイコーソリューションズは、M&Aを積極的に活用し、事業領域の拡大と成長を図っています。2017年には、性能管理ソフトウェアを展開する株式会社アイ・アイ・エムを子会社化し、ハードウェアからアプリケーションまで幅広いビジネス展開を可能にしました。2020年には、ソフト・ハードの受託開発で実績豊富な株式会社コスモ(現:株式会社CSMソリューション)を子会社化し、IoTサービス事業を強化しました。
さらに、2021年には1,500社を超える顧客基盤を持つ株式会社トータルシステムエンジニアリングをグループに迎え入れ、2022年には株式会社インストラクションや株式会社BackStore、株式会社プレスティージを子会社化しました。これらのM&Aにより、多角化戦略を推進し、環境変化に強い事業構造を構築しています。
ストックビジネスで安定した収益基盤を構築
セイコーソリューションズは、売り切り型ではなく継続的に収入を得られるストックビジネスの拡大に注力しています。売上高全体に占めるストックビジネスの割合は年々増加し、安定した業績に貢献しています。実際、2015年からの5年間で営業利益は10倍に増加し、2024年4〜6月期には33四半期連続で増収増益を達成しました。
具体的な事例として、東京のタクシー会社多数が採用するメーター連動型マルチ決済端末があります。また、保安業界向けにIoTセンサーを活用したソリューションを提供するなど、多岐にわたる分野でストックビジネスを展開しています。これにより、景気に左右されにくい安定した収益基盤を構築し、持続的な成長を実現しています。
今後の展望と課題:さらなる成長への道筋
セイコーソリューションズは、今後も「選択と集中」をせず、多角化戦略を徹底することで環境変化に強い事業構造を目指しています。その一環として、スモールビジネスの立ち上げやM&Aによる事業領域の拡大を推進し、AIを中核に置いたストックビジネスの構築を進めています。
しかし、課題も存在します。時計事業の高級品シフトや電子部品の市況悪化により、近年は在庫が溜まりやすくなっています。2024年3月期の棚卸資産回転日数は111日と、過去10年で延びる傾向にあります。在庫回転が上がらないと投下資本利益率(ROIC)の上昇を抑える要因となり得るため、全社を挙げて在庫回転率の向上に取り組んでいます。
たゆまぬ体質改革と新たな事業機会の創出により、セイコーはさらなる成長への道筋を描いています。