編集部
脳波センサー技術が2025年に大きな飛躍を迎えようとしています。米国のNeuralinkやSynchronといった企業が先端技術を駆使して、ブレイン・マシン・インターフェース（BMI）の実用化を加速させています。
また、米国主導のBRAIN Initiativeをはじめとする国際的なプロジェクトが、脳波センサー技術の研究開発に莫大な資金を投じ、新たなイノベーションを創出しています。
日本国内でも、LIFESCAPESやBrainRoboticsといった企業が、非侵襲型デバイスを活用した製品開発に取り組み、医療や日常生活における幅広い応用が期待されています。
ブレイン・マシン・インターフェース（BMI）の現状と未来像
脳波センサー技術を活用したブレイン・マシン・インターフェース（BMI）は、2025年に向けて急速に進化しています。BMIは、脳と機械を直接つなげることで、情報を相互にやり取りし、脳の機能を拡張または補完する技術です。侵襲型（脳内にデバイスを埋め込む）と非侵襲型（脳外からデータを取得する）の2つのタイプがあり、それぞれに異なるアプローチと課題があります。
米国を拠点とするNeuralinkは、脳に約1000個の電極を埋め込むことで高精度な脳波データを取得し、機器を直接操作できるシステムを開発中です。Neuralinkのデバイスは、ロボットによる手術でインプラントされ、無線でデータを送信する設計となっています。これにより、麻痺患者が思考のみでパソコンやスマートフォンを操作することが可能になります。
一方で、非侵襲型のアプローチも注目されています。例えば、日本のスタートアップ企業LIFESCAPESは、脳波を読み取るヘッドセットと電動装具を組み合わせたリハビリ訓練装置を開発しています。この技術は、脳の残存神経回路を活性化させ、麻痺患者の機能回復を支援することを目指しています。非侵襲型は手術不要でリスクが低いため、医療以外の分野でも利用が拡大する可能性があります。
2025年には、これらの技術が日常生活やビジネスシーンにどのように応用されるかが重要な焦点となるでしょう。家電やスマートデバイスの操作を思考だけで行う時代が到来することで、デジタルインターフェースが大きく進化することが期待されています。
注目企業NeuralinkとSynchronが進める最新の臨床試験
NeuralinkとSynchronは、侵襲型のブレイン・マシン・インターフェース（BMI）の開発において、先進的な取り組みを進めています。
Neuralinkは、約1000個の電極を持つ糸状センサーを脳内に埋め込むデバイスを開発し、2024年に事故による麻痺患者を対象とした臨床試験を開始しました。イーロン・マスクが率いるこの企業は、脳からデータを無線で送信し、思考を直接デバイスに反映させる技術の開発に注力しています。
Synchronは、2021年にFDAから認可を受け、ALS（筋萎縮性側索硬化症）患者を対象とした臨床試験を実施しています。同社のアプローチは、ステント型の電極をカテーテル手術で脳内に配置し、これを用いてパソコンやスマートフォンに意志を反映させる技術です。
この技術により、患者はキーボードやマウスを使わずにデバイスを操作することが可能となっています。2021年には、Synchronが開発したデバイスを用いた初の「思考によるTwitter投稿」が実現し、業界に衝撃を与えました。
両社の技術が進展すれば、2025年にはこれらのデバイスがFDAの正式な医療機器として認可され、幅広い治療に応用されることが期待されています。NeuralinkとSynchronは、脳波データを活用したインターフェースの最前線で、医療や日常生活に革命を起こそうとしています。
BRAIN Initiativeと国際プロジェクトによる技術革新
米国のBRAIN Initiative（Brain Research Through Advancing Innovative Neurotechnologies）は、脳科学の最前線を切り拓くプロジェクトとして注目されています。
このプロジェクトは、米国国立衛生研究所（NIH）や国防高等研究計画局（DARPA）など、複数の国家機関が主導し、2025年に向けて脳の構造と機能の解明を目指しています。BRAIN Initiativeの目標には、脳の神経回路を可視化するための革新的なツールの開発や、臨床応用に向けた新技術の創出が含まれています。
欧州でも「Human Brain Project」が実施されており、2013年から2023年にかけて6億700万ユーロを投じて脳研究を進めてきました。これにより、脳のデジタル再現を目指す「EBRAINS」プラットフォームが構築され、脳波センサー技術の精度と応用範囲が飛躍的に向上しています。
中国は「China Brain Project」を開始し、最初の5年間で50億元を投じる計画で、脳科学における基礎研究と応用技術の両面で国際競争力を高めています。
これらの国際プロジェクトは、脳波センサー技術の進化を加速させ、医療分野以外にも多様な応用を見据えています。AI技術の進化により、脳データの解析能力が向上し、これまで難解だった脳の神経信号のデコーディングが可能になりつつあります。各国の研究機関や企業の協力が進むことで、脳波センサー技術はさらなるブレークスルーを迎えると考えられます。
日本国内で進化する脳波センサー技術と市場動向
日本国内でも脳波センサー技術の研究と市場拡大が進んでいます。2007年に策定された「イノベーション25」や「革新脳（Brain/MINDS）」プロジェクトは、日本の脳科学研究の基盤となり、多くの成果を挙げてきました。このプロジェクトの一環で、京都大学や慶應義塾大学を中心に、脳機能のデジタル化や非侵襲型BMI（ブレイン・マシン・インターフェース）の開発が進んでいます。
スタートアップ企業もこの分野に参入しており、慶應義塾大学発のLIFESCAPESは、麻痺患者向けのリハビリ装置を開発しました。この装置は、ヘッドセットで脳波を読み取り、電動装具を操作して神経回路を活性化させる仕組みを持ち、医療現場での利用を視野に入れています。
また、BrainRoboticsなどの企業は、筋電位を検知して動作を制御する義手を開発しており、日本市場においても2024年以降の展開が期待されています。
国内市場は医療だけでなく、一般消費者向け製品にも注目が集まっており、スマートデバイスやゲーム、メタバースでの応用が検討されています。大手企業も脳波センサーを活用した新しいデバイスの開発に着手しており、例えばソニーや富士通が次世代ヘッドセットの開発を進めています。これにより、今後の日本市場は新たな成長機会を迎えると考えられます。
非医療分野への応用：メタバースから日常生活までの可能性
脳波センサー技術は、医療分野だけでなく、エンターテインメントや日常生活にも広く応用が期待されています。メタバースや仮想現実（VR）空間において、思考によってアバターを操作する技術は、ゲームやデジタル体験の新たな可能性を広げます。フランスのNextmind社が開発した非侵襲型ヘッドセットは、脳波を用いてコンピューターを直接操作することを実現し、エンターテインメント業界で注目を集めています。
また、OpenBCIが2024年に発売を予定しているデバイス「Galea」は、脳波に加えて心臓、皮膚、筋肉、目の動きを同時に計測することで、ゲームやドローンの操作に活用できるとされています。このような技術は、エンターテインメントの分野において没入感を高めるだけでなく、医療リハビリのトレーニングにも応用される可能性があります。
さらに、米国Meta社は、筋電位を利用して空間コンピューティングを操作するリストバンド型デバイスを開発中であり、数年内の市場投入を目指しています。
Appleもまた、イヤホン型の脳波計測装置の特許を取得し、ウェアラブルデバイスの分野で新たな市場を開拓しようとしています。こうした企業の取り組みは、スマートデバイスと脳波センサーの連携を進化させ、日常生活の利便性を飛躍的に向上させると考えられています。
脳波センサー技術の普及に立ちはだかる倫理的・法的課題（ELSI）
脳波センサー技術が普及するにあたり、倫理的・法的・社会的課題（ELSI）の解決が重要なテーマとなっています。特に、脳データのプライバシー保護や個人の認知の自由の尊重といった問題が注目されています。脳波を通じて得られるデータは極めて個人的であり、悪用されるリスクが高いため、データ管理と使用のガイドライン策定が急務です。
国際的な取り組みとして、米国のBRAIN InitiativeやEUのHuman Brain Projectでは、ELSIに関する専門プログラムが併設されています。これにより、脳波データの取り扱いに関する倫理基準や法的枠組みの整備が進んでおり、将来的な技術の社会実装を円滑に進めるための基盤が整備されています。また、中国でも2023年に脳波センサー技術に関する倫理指針が策定され、データの悪用防止策が進められています。
一方で、日本国内においても、慶應義塾大学や日本医療研究開発機構（AMED）が中心となり、BMI研究に関する倫理ガイドラインの作成が進められています。企業や研究機関だけでなく、一般市民も参加する形での倫理的な議論が求められており、脳波センサー技術の普及には技術的な進展だけでなく、社会全体での理解と合意形成が不可欠です。
ビジネスパーソンが知っておくべき脳波センサー技術の将来展望
脳波センサー技術は、2025年以降にかけて医療だけでなく、多岐にわたるビジネスシーンでの応用が期待されています。特に、AIと組み合わせた脳データ解析技術の進化が、従来の業務プロセスを劇的に変革する可能性を秘めています。
ディープラーニングを用いた脳波のデコーディング技術が進展し、ユーザーの思考パターンや感情を正確に読み取ることで、マーケティングやカスタマーサービスのパーソナライズ化が進むでしょう。
米国の企業では、脳波センサーを搭載したウェアラブルデバイスを用いた従業員のパフォーマンス向上やストレス管理の取り組みが広がっています。例えば、日立製作所はスマートキャップ技術を活用して、作業員の脳波をモニタリングし、疲労や集中力の低下をリアルタイムで検知するシステムを開発しています。これにより、業務効率化と労働環境の改善が図られています。
また、デジタルヘルス分野においても脳波センサーの利用が進んでいます。日本の大手企業であるソニーは、脳波を用いた新しいインターフェース技術の開発に注力しており、ヘッドセットやイヤホンを通じて音楽や映像コンテンツの操作を脳の信号だけで行う技術を進めています。
こうした技術の進展により、エンターテインメント業界だけでなく、ビジネスシーンでも新しいインタラクションの形が生まれることが予想されます。
脳波センサー技術の将来展望は、データのセキュリティや倫理的課題をクリアしつつ、AIとの融合によってさらなる革新を遂げるでしょう。技術の進化が、業務効率化や新しいビジネスモデルの構築を促進し、従来の枠にとらわれない新しい価値を創造する可能性を秘めています。