無料音楽ストリーミングアプリ「Musi」の合法性を巡る論争が、Appleに対する訴訟に発展した。MusiはYouTubeから音楽をストリーミングする方法で人気を集めたが、YouTubeはこの方法が規約違反であると主張している。これにより、AppleはApp Storeから同アプリを削除したが、開発者はこの措置に異議を唱え、法廷で争う構えを見せている。
Musiとは何か?無料ストリーミングアプリの台頭
Musiは、2016年にリリースされた無料の音楽ストリーミングアプリである。このアプリは、主にYouTubeの音源を利用して音楽を提供しており、広告のない音楽体験が可能であったため、特に若年層の間で急速に人気を集めた。Spotifyの無料プランが広告付きであるのに対し、Musiは完全に広告を排除し、ユーザーは無制限に音楽を楽しめたことが、その成功の要因の一つであった。
Musiは、その利便性と機能の充実ぶりから、瞬く間に他の音楽ストリーミングアプリを凌駕するダウンロード数を記録した。実際、2024年初頭のデータによると、Musiのダウンロード数は6600万を超え、Amazon MusicやPandora、Deezerといった競合アプリを上回る規模にまで成長した。アプリ解析会社Pixaleteの報告では、2024年2月には北米におけるiOSアプリの収益ランキングでトップに立ったことが確認されている。
このようにして、Musiは大きな成功を収めたが、同時にそのビジネスモデルの合法性について疑問の声も上がり始めていた。
YouTubeとの対立:著作権とサービス規約の違反問題
Musiのビジネスモデルは、YouTubeから音楽をストリーミングするというものであった。これに対して、YouTubeを運営するGoogleは、Musiがその利用規約に違反していると主張し、両者の間で対立が生じた。Musi側は、あくまでアプリがYouTubeのコンテンツを再生するためのブラウザの一種に過ぎず、法律的には問題がないと反論していた。
しかし、YouTubeはMusiが自社のサービス規約に違反し、著作権を侵害している可能性があると主張。これにより、Musiが提供する音楽ストリーミングの合法性が大きな議論の的となった。独立した法的専門家による見解も分かれており、ある者はMusiが適法に運営されていると支持する一方で、別の者はYouTubeの主張に同意し、違法性があると指摘していた。
最終的に、YouTubeはAppleに対して苦情を申し立て、MusiのサービスがApp Storeから削除される事態にまで発展した。これにより、Musiの開発者とGoogle、そしてAppleの間でさらなる法的紛争が引き起こされることとなった。
AppleのApp Storeからの削除、その背景と開発者の主張
MusiがApp Storeから削除されたのは、YouTubeがAppleに苦情を申し立てたことが原因である。しかし、この削除に至るまでのプロセスには、両者の間での意見の相違が存在する。YouTubeは、Musiが自らの規約に違反し、連絡を怠ったため、Appleが削除を決定したと主張している。一方、Musiの開発者は、実際にはYouTube側が連絡を無視したとし、Appleの対応に異議を唱えている。
Musiの開発者は、Appleが何の証拠も示さないままにアプリを削除したことが「不合理」であり、Appleの開発者契約に違反していると主張している。Appleの規約では、他者の知的財産権を侵害していると「合理的に信じる場合」にのみアプリを削除できるとされているが、MusiはAppleがYouTubeの主張を根拠もなく信じたとして、法的措置に踏み切った。
現在、MusiはAppleを相手に訴訟を起こしており、App Storeからの削除の正当性を争っている。訴訟の結果によっては、Musiの再公開が実現する可能性もあるが、その行方はまだ不透明である。
今後の行方:訴訟が示す音楽ストリーミングアプリの未来
Musiの訴訟は、単なる一アプリの削除にとどまらず、音楽ストリーミングアプリ全体の未来を占うものとなる可能性がある。Musiは、YouTubeから音楽をストリーミングすることで成功を収めたが、同様の手法を採用する他のアプリも存在している。今回の訴訟がMusiに不利な結果となれば、これらのアプリも次々とターゲットにされる可能性がある。
YouTubeとAppleが協力してこの問題に取り組むことで、同様のアプリを取り締まる「モグラ叩き」状態に陥る可能性が高い。Musiのケースがその前例となれば、今後も同様のビジネスモデルを採用するアプリが出現するたびに、訴訟やApp Storeからの削除が繰り返されるだろう。
一方で、もしMusiが勝訴した場合、YouTubeの規約や音楽ストリーミングに関する法的解釈に対する挑戦となり、音楽業界全体に新たなルールが必要となる可能性がある。どちらの結果に転ぶにせよ、この訴訟は音楽ストリーミングアプリのあり方を大きく左右する出来事となるだろう。