Appleの研究チームは、大規模言語モデル(LLM)の限界を浮き彫りにした論文を発表した。この研究では、現在のLLMは本物の論理的推論を行うことができず、訓練データから推論のステップを再現しているに過ぎないと結論づけた。
OpenAIの「o1」も例外ではなく、強力なパフォーマンスを示したものの、無関係な情報が加わるとその能力が30%低下することが明らかになった。この発見は、AIの推論能力に対する期待を再考する必要性を示唆している。
Appleの研究が示すLLMの限界とは?
Appleの研究チームは、近年急速に進化を遂げている大規模言語モデル(LLM)の推論能力に疑問を投げかけた。研究論文「Understanding the Limitations of Mathematical Reasoning in Large Language Models」によれば、現在のLLMは、本来の意味での論理的推論を行っておらず、訓練データから学んだパターンを再現しているに過ぎないという。特に数学的推論において、これまで高い評価を受けてきたモデルでもその限界が浮き彫りになった。
研究では、OpenAIのGPT-4やo1、MetaのLlamaなど複数のモデルが調査対象となり、これらのモデルが学習データに依存したパターン認識に基づく推論を行っていることが確認された。研究チームは、新たに開発したテスト「GSM-Symbolic」を使用してLLMの推論能力を評価したが、従来のテスト手法であるGSM8Kでは、推論能力を正確に測定することができなかったという。
この結果、LLMが「推論している」とされる部分が、実際にはパターンマッチングに過ぎず、情報の整理や問題解決における深い理解が欠如していることが判明した。これは、AI技術が依然として人間のような思考を模倣する段階にとどまっていることを示唆している。
OpenAIの「o1」は本当に推論できるのか?
OpenAIの大規模言語モデル「o1」は、同社が自信を持って「推論ができるモデル」として発表したものである。しかし、Appleの研究チームはこのモデルにも疑問を呈している。o1は、従来のベンチマークテストでは高いパフォーマンスを発揮したが、無関係な情報を含む問題に対しては、その能力が大幅に低下したことが示された。
具体的には、新たに導入されたテスト「GSM-NoOp」において、無関係な情報を追加した質問をo1に与えたところ、推論能力が約30%も低下した。この結果は、o1が本物の推論を行っているのではなく、単にデータ内のパターンを再現しているに過ぎないことを示唆している。
推論とは、与えられた情報から論理的に結論を導き出す過程であるが、o1のようなモデルは、それを単純なパターン認識の一部として処理しているに過ぎない可能性が高い。このことは、LLMが実際に推論を行っているのか、それとも単に複雑なデータ処理をしているだけなのかという議論を再燃させるものとなっている。
推論と計算を混同する誤解
Appleの研究は、推論と計算の違いを明確にしない点が批判の的となっている。特に、計算タスクと推論タスクの境界線が曖昧であり、LLMが行っているのは計算に過ぎないとする批判も存在する。AI研究者のパラス・チョプラは、「推論とは問題解決のためのアルゴリズムを知っていることだが、それをすべて頭の中で解決することではない」と述べている。
多くの研究者が、LLMが問題を解決するためのアプローチを知っていることが、推論能力の証拠であると主張している。たとえ最終的な答えが間違っていたとしても、そのアプローチが正しければ、それは推論をしていると見なすべきだという意見もある。
このように、LLMが「推論できるかどうか」の評価は、単なる計算能力と混同されがちである。推論とは、問題に対して論理的な筋道を立てて解決策を見つけるプロセスであり、単純な計算とは異なる。この誤解は、LLMの真の能力を見誤る原因となっている。
AI業界におけるLLMの未来への期待と懐疑
AI業界では、大規模言語モデル(LLM)の未来に対する期待と懐疑が入り混じっている。OpenAIの「o1」や「GPT-4」は、推論能力を持つとされるが、Appleの研究はその限界を強調した。一方で、推論が不可能だと結論づけるのは時期尚早であるとする意見も根強い。
多くの専門家は、LLMが今後も進化し続け、最終的には人間のような推論能力を獲得する可能性があると期待している。しかし、Gary Marcusのような批判者は、LLMは高度なパターンマッチングの域を出ず、汎用人工知能(AGI)に至る道のりはまだ遠いと指摘する。
一方で、推論に対する基準や評価方法そのものに疑問を投げかける声もある。AIは人間と同様の思考をする必要があるのか、それとも異なる形の知性を目指すべきなのか。この問いが、今後のAI開発における重要な論点となるだろう。