Arm HoldingsがクアルコムのARM関連ライセンスを撤回することを発表した。この決定により、クアルコムの新たなSnapdragon X Eliteデスクトップチップセットや今後のSnapdragon 8 Eliteプラットフォームが市場から撤退する可能性がある。

両社の対立は、クアルコムによるNuviaの買収に端を発しており、法廷での争いが控えている。ライセンス撤回により、Windows on ARMの展開や関連製品のリリースに大きな遅れが生じる恐れがある。

Armとクアルコムの対立の背景

Arm Holdingsとクアルコムの対立は、2021年のクアルコムによるNuviaの買収から始まった。Nuviaはデータセンター向けの高性能チップセットを設計する企業で、ARMアーキテクチャに基づいたカスタムコアの設計ライセンスを保持していた。このライセンスを巡り、Arm Holdingsはその権利が非譲渡であると主張している。すなわち、Nuviaの買収に伴い、ライセンスは再交渉されるべきだという立場だ。

これに対し、クアルコムはNuviaが保持していたライセンスは継続可能であるとし、再交渉の必要性を否定している。この対立は契約違反と商標侵害を含む法的紛争へと発展し、12月に両社は法廷で直接対決する予定である。さらに、クアルコムはOryonという新たなCPUコアを開発しており、このコアがライセンスの有効性に関する議論の中心に位置している。

このOryonコアは単なる技術ではなく、クアルコムにとってPC市場への入り口であるため、特に重要である。今後のライセンス交渉や法廷での結果次第では、クアルコムの市場戦略全体に深刻な影響が及ぶ可能性が高い。

Snapdragon X Eliteへの影響

クアルコムのSnapdragon X Eliteチップセットは、PC市場における大きな注目を集めている。このチップセットはOryon CPUコアを採用しており、Windows on ARMプラットフォームにおける新たな競争力の要となる製品である。特にMicrosoftのAI機能「Copilot+」との連携が強調されており、Windowsデバイスの進化を推進する重要な要素とされている。

しかし、Arm Holdingsがクアルコムのライセンスを撤回することで、この新たなプラットフォームの展開が大きく遅れる可能性が出てきた。もしクアルコムがライセンス撤回に従う場合、Snapdragon X Eliteを利用したPCやデバイスの製造が停止し、市場投入が妨げられる恐れがある。これにより、PCメーカーや消費者が期待していたWindows on ARM製品の提供が一時的に中断されるか、あるいは完全に無効化される可能性も考えられる。

クアルコムにとってこのタイミングでのライセンス撤回は非常に不利であり、投資家やパートナー企業にとっても大きな懸念材料となっている。市場への影響はすでに現れ始めており、同社の株価は5%以上下落した。

クアルコムの戦略的なリスクと投資家の反応

クアルコムが抱える最大のリスクは、Oryonコアを中心に展開する新たなプラットフォーム戦略が失速する可能性である。このOryonコアは、同社がPC市場や高性能デバイス市場への参入を加速するために不可欠な要素となっている。しかし、Arm Holdingsとのライセンス問題が解決しない限り、これらの計画は不確実なままである。

投資家たちは、このライセンス撤回がクアルコムの将来に与える影響を非常に懸念している。特に、同社の株価はライセンス撤回のニュースが報じられた直後に5.13%の急落を見せ、さらに多くのアナリストがクアルコムの目標株価を引き下げた。これにより、クアルコムの成長見通しに対する市場の不安感が一層高まっている。

ライセンス撤回のタイミングは非常に戦略的であり、クアルコムが市場シェアを拡大しようとしている最中に発表された。これにより、投資家やパートナー企業は、今後の動向に注視せざるを得ない状況に追い込まれている。クアルコムにとっては、ライセンス交渉が迅速に進展しなければ、長期的な事業計画に深刻なダメージを与える可能性がある。

今後のWindows on ARMの行方

クアルコムとArm Holdingsの対立がWindows on ARMプラットフォームに与える影響は大きい。特にSnapdragon X Eliteを中心としたPC市場への進出が遅延する可能性が高く、Microsoftにとっても頭の痛い問題となっている。Windows on ARMは、低消費電力で高パフォーマンスを実現する次世代プラットフォームとして期待されており、特にモバイルPC市場でのシェア拡大が目指されている。

もしライセンス撤回が確定し、クアルコムがSnapdragon Eliteシリーズの製造を停止せざるを得ない状況に陥れば、Windows on ARMの普及は大幅に遅れることになる。これにより、他のプロセッサメーカーが台頭する可能性もあるが、クアルコムの技術的優位性を失うことは、業界全体にとって大きな後退となる。

今後の動向次第では、ARMベースのWindowsデバイスの将来は大きく左右されることとなり、Microsoftや他の関連企業がどのように対応するかが注目される。

Source
Arm Holdings to cancel Qualcomm chip design license, source says – Reuters
Arm to Scrap Qualcomm Chip Design License in Feud Escalation – Bloomberg

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