気候変動を逆転させるという考え方は、科学者たちによって否定されつつある。新たな研究によると、地球の温度がある閾値を超えた後に再び冷却しても、失われた家や海面上昇といった不可逆的な被害を回復することはできないという。

こうした状況は、カーボン除去技術への依存ではなく、化石燃料による汚染の即時削減を求める声を強める。カーボン除去は一時的な解決策に過ぎず、今すぐの行動が取られない限り、さらなる気候災害を招く可能性が高まる。

カーボン除去技術の現状と課題

多くの企業がカーボン除去技術に期待を寄せているが、現実は楽観的ではない。CO2を大気や海洋から直接除去する技術は、実用化に向けた課題が山積している。現在、世界で稼働する施設はわずかに0.01百万トンのCO2しか除去できず、コストは1トンあたり600ドルにも達する。このような技術が大量規模で展開される可能性には、依然として多くの疑問が残る。

特に、MicrosoftやGoogleのような大企業は、自らのカーボンフットプリントを削減する代わりに、カーボン除去を活用する方針を取っている。しかし、データセンターの増加に伴い排出量も増え続けており、再生可能エネルギーの普及が追いついていないのが現状だ。これらの技術が気候変動の解決策として有効かどうか、現時点では明確な証拠が不足している。

気候変動の「不可逆的な影響」とは何か

研究によると、気温がある程度上昇した後に再び低下しても、既に起こった変化を元に戻すことはできない。たとえば、氷河が溶けたことで引き起こされる海面上昇は「数世紀から数千年」にわたって続くとされ、多くの沿岸部住民が住まいを失うことになる。

地域ごとの影響は異なるため、平均気温が下がったとしても災害リスクは一様には低減されない。気候災害の頻発がその証左である。最近のハリケーン「ヘレン」や「ミルトン」によって、短期間でフロリダ州が甚大な被害を受けたように、災害の連鎖が社会や経済に大きな負担を与える。気候変動の影響を受けやすいコミュニティほど、その影響は積み重なり、再建の猶予すら奪われていく。不可逆的な影響への対応には、今から迅速かつ大規模な対策が求められる。

企業と政府が直面する倫理的ジレンマ

カーボン除去に依存する方針には、倫理的な問題がつきまとう。化石燃料の使用を続けながら、後から排出量を削減するという発想は、未来の世代や途上国の人々に不当な負担を押し付ける形となる。研究は、気候変動目標を達成できない場合、その代償を最も脆弱な層が負う可能性を指摘している。

各国が参加するパリ協定は、気温上昇を産業革命以前の1.5℃以内に抑えることを目標としているが、既に世界の平均気温は約1.2℃上昇している。このような状況では、さらなるカーボン除去が求められる可能性があり、企業はそのコストとリスクを慎重に考慮しなければならない。だが、これ以上の温暖化が進んだ場合、それを解決するために必要な除去量は現実的ではなく、カーボン除去だけに頼る姿勢は限界を迎える。

温室効果ガスの削減が持つ最優先の重要性

研究の結論は、今後の政策と行動の優先順位を再考する必要性を示唆している。即時の温室効果ガス削減が最も効果的な気候対策であり、カーボン除去はあくまでも補完的な手段に過ぎない。特に、CO2排出を抑制できる技術や政策を先送りにすることで、さらなる気候災害を招くリスクが高まるという。

CO2除去技術の過度な期待は、化石燃料に依存する社会の構造的な転換を遅らせる恐れがある。今後、企業と政府は短期的な利益よりも、持続可能な未来を見据えた政策を重視する必要がある。「未来に借金を残す形での環境政策は許されない」という認識が求められている。気候危機を真に解決するためには、化石燃料の使用削減と再生可能エネルギーへの移行が不可欠である。

Reinforz Insight
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