次期大統領のトランプ氏は、連邦準備制度理事会(FRB)議長のジェローム・パウエル氏を解任する予定はないと明言した。パウエル氏の任期は2026年5月までとなっているが、NBCの「Meet the Press」でトランプ氏は「考えていない」と発言し、現体制を維持する姿勢を示した。

一方で、トランプ氏は主要貿易相手国であるカナダやメキシコ、中国への輸入関税を再び提案し、アメリカ経済の利益を強調した。しかし、専門家は関税が消費者価格の上昇を招くと指摘する中、トランプ氏は「関税はアメリカ人に何の負担もかけない」と述べた。

移民政策でも厳格な姿勢を崩さず、大規模な強制送還計画を再確認した。混合家族については「家族全体で送還するしかない」と述べ、国内外での波紋が広がる可能性がある。

トランプ氏の関税戦略とその影響力の評価

トランプ氏は関税を「美しい言葉」と称賛し、米国経済を豊かにする手段と主張している。特にカナダに対しては年間1,000億ドル以上、メキシコには3,000億ドル近くの補助を行っていると強調し、関税の導入でこれらの損失を取り戻す構えを見せる。しかし、この関税戦略は一見すると単純だが、その実際の影響は複雑であり、米国企業や消費者の負担増加という側面も無視できない。

前回のトランプ政権時代、関税措置によって米国消費者は約800億ドルもの追加コストを支払ったとされる。WalmartやAutoZoneといった大手企業は、輸入コストの増加分を価格転嫁する方針を明確にし、家計への打撃が避けられなかった。トランプ氏は「消費者の負担はない」と主張するものの、実際には企業のコスト増加が最終的に商品価格を押し上げる現実がある。

一方で、関税は外交手段としても機能する。カナダのジャスティン・トルドー首相はトランプ氏のフロリダでの訪問時、経済への悪影響を訴えたが、トランプ氏は譲歩する姿勢を見せなかった。メキシコのシェインバウム大統領も対抗措置として関税引き上げを検討しており、貿易戦争の激化が懸念される。トランプ氏の狙いは経済的な利益のみならず、移民問題を含めた交渉カードとして関税を利用することにあると言えるだろう。

パウエルFRB議長の去就と経済政策の展望

トランプ氏がパウエルFRB議長の解任を否定した背景には、経済の安定を重視する意図が伺える。FRBは米国経済の舵取りを担う重要機関であり、指導者の交代が市場に与える影響は計り知れない。パウエル氏は任期満了の2026年5月まで職務を遂行する姿勢を崩さず、政策の継続性を保つことで金融市場の安定を維持している。

ただし、トランプ氏が以前からFRBの利上げ政策を批判してきた事実は無視できない。低金利政策への回帰を求める姿勢が鮮明であり、大統領就任後にFRBへ圧力をかける可能性は残されている。特にトランプ氏は輸出促進と内需強化のため、金利を引き下げて経済成長を加速させる政策に傾倒するだろう。しかし、その影響としてインフレの再燃が予測され、経済の不安定化を招くリスクも考慮しなければならない。

さらに、トランプ氏の経済政策は矛盾を含んでいる。社会保障費削減を否定しつつも、連邦予算の2兆ドル削減を掲げるマスク氏やラマスワミ氏との考えには距離がある。トランプ氏の「効率化」という表現には具体性が欠けており、財政健全化と経済成長の両立が達成できるかは依然として不透明だ。パウエル氏の現職維持が短期的には市場の安心材料となるものの、長期的な経済政策の方向性は依然として未知数である。

移民政策の強硬姿勢とその社会的影響

トランプ氏の移民政策は、前回政権時代と同様に厳格な姿勢を貫いている。特に不法入国者に対する大規模な強制送還計画は、米国内で大きな議論を引き起こしている。トランプ氏は犯罪歴のある者から優先的に送還を行い、次に合法的な滞在資格を持たない者へと対象を拡大する方針を明らかにした。

しかし、この政策が「混合家族」と呼ばれる、合法的な市民と非合法滞在者が同居する世帯にどのような影響を与えるかは深刻だ。トランプ氏は「家族を引き裂くことは望まない」と述べ、家族全体を送還することで一貫性を保つと主張したが、これは社会的不安を高める結果を招く可能性がある。

米国における移民労働者は多くの産業で不可欠な役割を果たしており、農業や製造業、サービス業はその影響を直接受けるだろう。専門家は強制送還が進むことで労働力不足が深刻化し、生産性の低下やコスト増加が予想されると警鐘を鳴らす。また、送還による家庭崩壊や社会不安が拡大すれば、米国経済の回復を阻害する要因ともなり得る。

トランプ氏の強硬な移民政策は短期的には支持者へのアピールとなるが、長期的には米国社会全体に複雑な影響を及ぼすことが予測される。

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