AI関連銘柄の急騰が続く中、米ナスダック上場企業SoundHound AIの株価が1カ月で155%上昇し、年初来では713%に達した。この異例の上昇は、第3四半期の業績好調とともに、ショートスクイーズの可能性や事業拡大の具体化が背景にある。
第3四半期の売上は前年同期比89%増の2,510万ドルを記録し、予想を上回った。インド市場での音声AI「Hey Kia」の導入や、Torchy’s TacosでのAI音声注文の全店舗展開が評価され、生産性向上の事例も追い風となった。しかし、アナリスト平均目標株価は現在水準から52.1%下落を示唆しており、赤字継続や株式の希薄化も不安要素だ。
急成長の可能性を秘める一方で、現時点の株価は売上高の62倍に達し、過大評価の声も少なくない。投資家には短期の投機と長期的成長期待の見極めが求められている。
SoundHoundの急成長を支える実績と市場拡大の動き
SoundHound AIは第3四半期において、前年同期比89%増の売上2,510万ドルを達成し、予想の2,300万ドルを上回った。この好調な業績は、AI音声技術の需要拡大が裏付けとなっている。特にApivia CourtageがコールセンターにSoundHoundの音声AIを導入し、生産性が20%向上した事例や、インド市場における「Hey Kia」音声AIの発表は具体的な成功事例として注目される。
こうした事例が示すのは、AI音声技術の導入効果が企業のオペレーション効率を大幅に改善し得るという現実だ。飲食業界では、Torchy’s Tacosが電話注文に音声AIを全店舗で採用し、人件費の削減と顧客体験の向上を同時に実現している。AIソリューションのこうした具体的な効果は、SoundHoundが市場におけるプレゼンスを急速に高めている要因である。
一方で、同社の事業基盤はまだ成長途上にある。第3四半期の売上は堅調ながらも、営業損失が前年同期比132%増という赤字継続の課題も浮き彫りになった。事実としてSoundHoundの業績は大きく成長しているが、その実態は利益よりも事業拡大と市場獲得に注力したものと見るべきである。
株価急騰の裏に潜むショートスクイーズの可能性
SoundHoundの株価急騰を理解する上で無視できないのが「ショートスクイーズ」の存在だ。同社の空売り比率は依然として約25%と高水準にあり、急な株価上昇によって空売り投資家の損失回避が連鎖的な買戻しを誘発する構図が見られる。このメカニズムが、株価を短期間で急激に押し上げた可能性は高い。
特に第3四半期の業績発表直後には一時的に株価が下落したものの、Apivia Courtageの導入事例やTorchy’s Tacosの全店舗採用が報じられた翌週には回復し、その後も株価は加速的に上昇した。投資家心理において、AI音声技術という成長テーマと具体的な導入事例が株価の支えとなった点は否定できないが、その急激な上昇には投機的な動きも見え隠れする。
SoundHoundの株価が過熱気味と指摘されるのは、この「期待の先行」と「ショートスクイーズ」が複雑に絡み合っているためだ。現にウォール街のアナリストは平均目標株価を8.1ドルと設定しており、現在の水準から50%以上の下落を示唆している。株価の急激な変動は、投資家にとってリスクの高い状況であることを意味する。
飲食業界の自動化が示す成長ポテンシャルとSoundHoundの展望
飲食業界はSoundHoundにとって重要な成長市場である。同社は音声AI技術の導入により、オーダー処理やカスタマーサービスの自動化を実現しており、実際にTorchy’s Tacosの全店舗展開の事例は市場拡大の可能性を示唆するものだ。さらに、同社が飲食業界の自動化市場で占めるシェアはわずか0.1%に過ぎず、今後の成長余地は非常に大きい。
SoundHoundの技術は飲食業界にとどまらず、コールセンターや自動車業界にも展開されている。インド市場での「Hey Kia」の発表は、グローバル展開が進んでいる証左でもあり、特に新興市場におけるAI音声技術の普及は業績を押し上げる要因となり得る。
しかし、その成長ポテンシャルとは裏腹に、現時点での株価評価は売上高の62倍、簿価の17倍と割高であることは事実だ。加えて、発行済株式数の増加による株式の希薄化も懸念されている。こうした点を考慮すれば、SoundHoundの展望は魅力的ながらも、持続的な成長を実現するためには収益構造の改善が不可欠だろう。