ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが支援するNu Holdingsが、アフリカとアジアで急成長中のデジタル銀行Tyme Groupに1億5000万ドルを投資し、同社株式の10%を取得した。Tymeは南アフリカやフィリピンで展開するハイブリッド型デジタル銀行モデルで注目され、すでに1500万人以上のユーザーを獲得している。
今回の出資は、評価額15億ドルとされるシリーズDラウンドの一環であり、Tymeの事業拡大に向けた資金調達となる。同社は2025年にインドネシアとベトナムへ進出を予定し、さらに2028年には米国でのIPOを目指す計画だ。
Nu HoldingsのCEOは「Tymeとの提携で得られる知見を活かし、数億人規模への拡大を視野に入れる」と述べている。
Nu Holdingsの戦略的出資が示すデジタル銀行市場の成長ポテンシャル
Nu HoldingsによるTyme Groupへの1億5000万ドルの出資は、デジタル銀行市場の拡大を見据えた長期的な戦略といえる。Tymeが採用するハイブリッド型デジタル銀行モデルは、南アフリカとフィリピンという異なる経済環境に適応し、物理的店舗とデジタルの融合によって迅速な顧客獲得を実現している。特に新興市場では、伝統的な銀行サービスへのアクセスが限られていることから、柔軟かつ低コストなサービス提供が競争優位につながっている。
Nu Holdingsにとって、この出資は単なる資金提供にとどまらない。Tymeとの提携を通じて、新興市場で培われたビジネスモデルや顧客獲得のノウハウを学び、自社が進出するメキシコやコロンビアなどの市場に応用する可能性が高い。さらに、南アフリカやフィリピンでの成功事例は、今後のインドネシアやベトナムといった東南アジア市場での拡大戦略にも活用できるだろう。
Nu HoldingsのCEOデイビッド・ヴェレス氏が述べた「数億人規模へのスケールアップ」という言葉は、その戦略の明確な方向性を示唆している。TechCrunchや公式発表が報じる通り、Tymeは2028年にIPOを予定しており、成長途上にあるデジタル銀行業界への投資の魅力が浮き彫りとなる。
アフリカとアジアの新興市場がデジタル銀行の成長を支える要因
Tyme Groupが急成長を遂げる背景には、アフリカとアジアの新興市場特有の経済・社会環境が影響している。南アフリカやフィリピンでは、銀行口座を保有しない「アンバンクト層」の割合が依然として高い。こうした層にとって、ハイブリッド型デジタル銀行は、アクセスしやすく、低コストで金融サービスを利用できる有力な選択肢となっている。
また、モバイルインターネットの普及がデジタル銀行業界を後押ししている点も見逃せない。特にフィリピンや東南アジアでは、スマートフォンの普及率が急激に高まっており、これがオンライン金融サービスの成長を支えている。Tymeが提供する「デビットカード」「後払いサービス(Buy Now Pay Later)」は、日常生活に密着したサービスとして高い需要がある。
Nu HoldingsがTyme Groupへ投資する理由もここにある。ブラジル発のNubankは、自国やメキシコで同様の課題に対応して成長しており、同じ戦略を新興市場で展開することが現実的だからだ。一方で、物理的な拠点を維持しながらの運営には一定のコストが伴うため、今後の利益率向上が成長のカギとなるだろう。
バフェットとNu Holdingsの投資が示すデジタル金融の未来
ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイは、2021年にNubankへ5億ドルを投資し、現在も10億ドル相当の株式を保有している。バフェットがデジタル銀行業界に強い関心を示す背景には、成長余地が大きい新興市場の存在と、従来の金融機関とは異なる革新的なビジネスモデルがある。
Tyme Groupが注力する南アフリカやフィリピン、今後展開予定のインドネシアやベトナムといった地域は、伝統的な銀行システムが脆弱な反面、テクノロジーによる金融革命の舞台として期待されている。Nu Holdingsがこうした市場に参画することで、デジタル銀行業界全体の競争が激化し、さらなるサービス革新が促進される可能性も高い。
また、アナリスト評価でもNu Holdingsの株価が軒並み引き上げられた点は注目すべきだ。ゴールドマン・サックスやキー・バンクの評価が示す通り、Nubankの成長性と戦略が投資家から高く評価されていることは明らかである。バフェットの投資判断は、将来的な市場価値の上昇を見越した動きとも捉えられ、デジタル金融の未来がさらに広がることを予感させる。