ウォール街の著名投資家であるスタンレー・ドラッケンミラー氏が、2024年にエヌビディアとパランティアの株式を大規模に売却し、注目を集めている。AI革命が市場を席巻する中、両社の株価は急騰を続けたが、高い評価倍率に警戒感が広がりつつある。
一方、ドラッケンミラー氏は2024年に112%の上昇を遂げたテバ製薬の株式を大量に購入。同社は戦略転換と法的課題の解決を経て成長軌道に復帰しており、「Austedo」や「Ajovy」といったブランド薬が収益を押し上げる重要な要因となっている。この動きは、AI株の高評価リスクを回避しつつ、製薬業界の再評価に目を向けた戦略的な資産配分として、多くの投資家の注目を集めている。
AI株の高騰に潜むリスクとドラッケンミラー氏の決断
エヌビディアとパランティアの株式は、AI革命を背景に2024年も市場で急成長を遂げた。エヌビディアはGPU市場のリーダーとして172%の株価上昇を記録し、パランティアは369%という驚異的なパフォーマンスを示した。しかし、ドラッケンミラー氏がこれらの株式を大規模に売却した背景には、過剰評価のリスクがあると見られる。
特にエヌビディアのP/S比率が40倍超、パランティアのP/S比率が73倍という水準は、ドットコムバブル崩壊時に匹敵するとされる。過去の事例では、急速な成長がもたらすバブルの崩壊が企業評価に大きな影響を与えることがあった。こうした状況下での売却は、単なる利益確定以上の警戒感を反映している可能性がある。
一方で、ドラッケンミラー氏の動きはAI市場全体への悲観的な見解を示しているわけではない。市場での過剰な期待が一定の調整を迫られる局面において、冷静な投資判断が求められるという点で、彼の売却戦略は示唆に富むものである。
テバ製薬の復活と投資家心理の変化
かつて巨額の負債とオピオイド訴訟問題に苦しんだテバ製薬は、2024年に見事な復活を遂げた。同社は42億5000万ドルの和解金に合意し、主要製品「Austedo」や「Ajovy」の売上が前年比20%以上の成長を記録している。また、非中核資産の売却と運営費削減により財務基盤を強化し、株価は112%上昇した。
ドラッケンミラー氏が第3四半期に約143万株を購入したのは、これらの改善が2025年以降も持続可能であるとの見立てによるものだと考えられる。特にオピオイド危機の法的解決は、同社が過去のリスクから脱却し、新たな成長フェーズに入るきっかけとなった。これにより、同社はジェネリック薬中心からブランド薬への移行を強化しつつある。
この動きは、投資家心理における変化を象徴している。リスク回避と高収益性のバランスを追求する中で、製薬株のように安定性と成長性を兼ね備えた分野に注目が集まる背景がうかがえる。
長期視点での投資とドラッケンミラー氏の哲学
スタンレー・ドラッケンミラー氏は、短期的な市場の波に乗るのではなく、長期的な視点で投資を行うスタイルを持つことで知られている。AI株売却後に製薬株へ集中投資した今回の決断もその哲学を反映している。特にテバ製薬のような課題を抱えつつも回復の兆しを見せる企業は、将来的に大きなリターンをもたらす可能性がある。
PwCの予測によれば、AI革命は2030年までに15.7兆ドルの経済価値を生むとされる。しかし、ドラッケンミラー氏はその恩恵を得るためには一時的な市場の熱狂を避け、より安定的な成長が期待できる分野に資金を振り向けることが重要だと示唆しているように見える。
彼の投資スタイルは、企業の長期的な潜在力を評価し、市場の浮き沈みに左右されない冷静な判断を重視するものである。このアプローチは、将来を見据えた資産運用を行う上で多くの示唆を与える。