中国の半導体メーカーMoore Threadsが、16GBのGDDR6メモリを搭載したプロフェッショナル向けグラフィックスカード「MTT X300」を公開した。このGPUは、同社の第二世代MUSA「Chunxiao」アーキテクチャを基盤とし、4,096のストリームプロセッサーユニットによる14.4 TFLOPSの計算性能を実現する。
PCIe 5.0接続や8K解像度対応の4ディスプレイ出力を可能にするなど、最新技術を多岐にわたり搭載している。さらに、Unreal EngineやUnityなどの統合レンダリングエンジンと互換性があり、CADや非線形ビデオ編集、GISアプリケーションといった高負荷作業への利用が見込まれる。
Moore Threadsは、ハードウェア性能のみならず、幅広いソフトウェア対応力を武器に、プロフェッショナル市場への本格参入を狙う。
新世代アーキテクチャ「Chunxiao」がもたらす性能向上の実態

MTT X300の心臓部である第二世代MUSA「Chunxiao」アーキテクチャは、計算能力と効率性の両立を実現している。この設計は、4,096のMUSAストリームプロセッサーユニットを搭載し、シングルプレシジョンで14.4 TFLOPSという卓越した浮動小数点性能を発揮する。
さらに、256ビットのメモリインターフェースにより、16GB GDDR6メモリの最大限の利用を可能とし、448 GB/sという高バンド幅を誇る。この技術的な飛躍は、同社が従来の設計思想を刷新した成果といえる。
特筆すべきは、このアーキテクチャが汎用性を重視している点である。従来のGPU設計では特定の用途やCPUアーキテクチャに最適化される傾向があったが、「Chunxiao」はx86、Arm、LoongArchといった多様なCPUアーキテクチャに対応可能だ。これにより、あらゆるプラットフォームでのスムーズな統合が期待される。
この設計方針は、中国が独自技術の開発と普及に注力している背景とも関係が深い。Moore Threadsは競争力の向上を目指し、技術的な独立性を確立するために「Chunxiao」を開発した。これは単なる性能向上だけではなく、グローバル市場での存在感を高める戦略的な一手でもある。
プロフェッショナル向け特化設計とソフトウェア互換性の意義
MTT X300は、ハードウェア性能だけでなく、ソフトウェア対応力にも重点を置いている。CADやBIM、非線形ビデオ編集、GISといった専門的な作業をサポートするために、Unreal Engine、Unity、Cesiumといった主要な統合レンダリングエンジンとの互換性が確保されている。これにより、プロフェッショナル向けの作業環境にシームレスに適応することが可能だ。
特に注目すべきは、MTT X300のビデオコーデック対応力である。AV1やH.265、H.264など幅広いコーデックに対応し、1080pのビデオを最大36チャンネル同時にエンコードおよびデコードできる。このような多機能性は、映像制作やストリーミングサービスの需要に応える製品としての魅力を高めている。
また、このカードは中国国内の主要OSであるTongxinやKylinだけでなく、UbuntuやWindowsにも対応している。これは、中国市場に留まらず、国際市場にも積極的に進出する意図の表れといえる。こうしたソフトウェア互換性の広さは、競合他社との差別化要因となり、プロフェッショナル市場での受け入れを大いに後押しするだろう。
世界市場への挑戦とエネルギー効率への課題
MTT X300のTGP(総消費電力)は255Wに設定されており、高性能を実現する一方でエネルギー効率に課題を残している。特に、国際市場では省エネルギー性が求められる傾向が強まっており、競合他社が低消費電力の設計に注力する中で、Moore Threadsがどのような戦略を採るのか注目される。
しかし、255Wという数値は、プロフェッショナル用途における高負荷作業を前提とした設計としては許容範囲ともいえる。このような性能と消費電力のバランスは、エンドユーザーが具体的な用途とニーズに基づいて評価するべきポイントであろう。
さらに、中国が半導体技術の自給自足を目指す中で、Moore Threadsが国際競争力を高めるためには、製品の高性能化とともにエネルギー効率の最適化を進める必要がある。これは、同社がグローバル市場で持続可能な競争力を維持するための重要な課題となるだろう。