投資の世界で「オマハの賢人」と称されるウォーレン・バフェットは、94歳の今なおバークシャー・ハサウェイを率いる。2024年第3四半期時点で約2660億ドルのポートフォリオを有する同社は、多岐にわたる投資先で注目を集める。特に2019年第4四半期の保有銘柄の中で、アップルとアメリカン・エキスプレスは驚異的な収益を上げる一方、サウスウエスト航空とチャーター・コミュニケーションズは低迷した。これらの結果は、パンデミックや業界構造の変化など外的要因が影響した一方で、バフェットの投資哲学の再評価を促す。
バフェットの失敗から見える航空業界の構造的リスク
サウスウエスト航空(NYSE: LUV)の低迷は、投資家に航空業界の脆弱性を浮き彫りにした。COVID-19パンデミックによる旅客需要の激減は、同社に深刻な影響を与えた。バフェットが2020年第2四半期に全保有株を売却したにもかかわらず、その後の株価回復は鈍く、航空業界全体の平均リターンが-11%であることを考えると、同業他社と比べても顕著な成長が見られない。この事実は、経済的ショックに対する航空業界の脆弱性を示している。
一方で、サウスウエスト航空が抱える問題は、単に外的要因にとどまらない。航空業界は高額な設備投資や運航コストに加え、需要変動に対応する柔軟性の欠如が課題とされている。このような構造的リスクを考慮すれば、長期的な投資対象としての魅力が薄いと言える。バフェットの航空株売却は、これらのリスクを見越した戦略的判断とも考えられるが、同時にポートフォリオの多様性を欠く結果にもつながった。
メディア業界の変革とチャーター・コミュニケーションズの苦境
チャーター・コミュニケーションズ(NASDAQ: CHTR)の低迷は、メディア業界におけるストリーミングサービスの台頭による競争環境の変化を反映している。同社が提供するケーブルテレビサービスは、NetflixやDisney+といったストリーミングプラットフォームの急成長によって大きな圧力を受けた。2019年時点でバークシャー・ハサウェイが同社株を保有し続けた背景には、バフェットの「逆張り」戦略があると考えられるが、この5年間で-34%のリターンを記録し、その選択が裏目に出た形となった。
メディア消費の多様化が進む中、従来のケーブルテレビモデルは収益性の維持に苦戦している。さらに、ストリーミング企業のコンテンツ制作投資が増加する一方、ケーブル業界はそのスピードについていけていない現状がある。チャーター・コミュニケーションズの業績悪化は、業界全体の変革を示す象徴的な例と言えるが、バフェットの保有比率縮小は、彼自身がこの変化を完全には見通せなかったことを示している。
テクノロジーと金融を軸にした成功戦略の再評価
アップル(NASDAQ: AAPL)とアメリカン・エキスプレス(NYSE: AXP)の成功は、バフェットの投資哲学の中核をなす「競争優位性の確保」を鮮明に示している。アップルは5年間で237%の総リターンを記録し、S&P 500を大きく上回った。その成功の背景には、収益と調整後1株当たり利益(EPS)の大幅な増加、さらにはApple TV+の登場による事業領域の拡大が挙げられる。この成長により、バークシャーの総資産の50%以上がアップルに割り当てられている状況は、バフェットの集中投資戦略の成功例と言える。
一方、アメリカン・エキスプレスは5年間で160%のリターンを達成し、バークシャーのポートフォリオで第2位の規模を維持している。特筆すべきは、同社がクレジットカード負債の増加を追い風としつつも、延滞率を業界最低水準に抑えている点である。これらの事実は、バフェットの選好する「持続可能な競争力」を体現しており、他の投資家にとっても重要な示唆を提供するものである。