量子コンピューティング分野での先駆者として知られるD-Wave Quantumが、NVIDIAのCEOジェンセン・ファン氏の悲観的な予測に正面から反論した。同社CEOのアラン・バラッツ氏は、D-Waveのアニーリング技術がすでに現実の問題解決に貢献していると主張。実際、同技術を用いた計算時間の劇的短縮が報告されている。

一方で、D-Waveの財務状況は波乱含みである。株価は直近で大きく変動しつつも、過去1年間で驚異的なリターンを記録。同社の収益構造は進化しつつあり、QCaaSの成長がその将来性を裏付ける。また、顧客基盤の拡大や米国政府の研究支援も同社の成長を後押しする要因となっている。

量子コンピューティングの実用化を巡る議論が続く中、D-Waveの取り組みは、同分野が単なる未来の技術ではなく現在進行形の革新であることを示している。

D-Wave Quantumのアニーリング技術がもたらす実用的効果とその実績

D-Wave Quantumは、アニーリング量子コンピューティング技術を実用化し、すでに様々な産業に具体的な利益をもたらしている。同社が提供する「Advantage」システムは、従来の計算方法では困難だった最適化問題を効率的に解決できる。ある通信会社では、計算時間を25時間からわずか40秒に短縮する成果が報告されており、この結果は同技術の有効性を強調している。

さらに、D-Waveは顧客基盤の拡大にも成功している。同社の顧客数は、過去1年間で125社から132社に増加し、フォーブスグローバル2000の企業も27社が採用している。これは、同社の技術が一部の特殊な用途に限られず、幅広い産業で需要が高まっていることを示している。NVIDIAが主張する「実用化にはまだ数十年を要する」との見解とは異なり、D-Waveの取り組みはすでに現実の問題解決に役立っている。

しかし、D-Waveの技術がすべての量子コンピューティングの課題を克服したわけではない。例えば、キュービットの増加によるノイズの影響やスケーラビリティの問題は依然として存在する。この点を踏まえると、同社の技術がさらに進化する可能性は高いが、長期的な競争力を維持するには、さらなる開発が必要である。

NVIDIAとの論争が浮き彫りにする量子技術の展望と課題

NVIDIAのCEOジェンセン・ファン氏がCES 2025で述べた「実用的な量子コンピュータは20年先」という見解は、業界内で大きな議論を呼んだ。この発言は、量子技術の進展速度に対する見解の分断を象徴している。D-WaveのCEOアラン・バラッツ氏は、この見解を「完全に間違っている」と断言し、ゲートモデル量子コンピュータを基準とした主張がアニーリング技術を無視していると批判した。

量子技術の実用化には、確かに大きな課題が残る。ファン氏が指摘したキュービット数の大幅な増加やエラー修正技術の向上は、ゲートモデルにとって不可欠である。一方で、D-Waveが推進するアニーリング方式は、現在の技術水準でも特定の最適化問題に対して実用性を発揮している。これにより、量子コンピューティングの実用化がすべて遠い未来にあるわけではないという新たな視点が示された。

この論争は量子技術が一枚岩ではなく、多様なアプローチが存在することを明らかにしたと言える。業界全体が各技術の特性を理解し、それぞれの強みを活かすことで、量子技術の普及が加速する可能性が高い。したがって、現時点での悲観的な予測が、すべての技術進歩を否定する根拠とはならない。

財務の浮き沈みが示すD-Waveの成長戦略と課題

D-Waveの株価は、過去1年間で621%のリターンを記録するなど注目を集める一方で、直近では36%の下落も見られる。同社の2024年第3四半期の収益は1.9百万ドルで、前年同期比27%減少した。この減収の主要因は、プロフェッショナルサービスの収益が80%も減少したことである。ただし、QCaaS収益が前年同期比41%増加し、1.6百万ドルに達した点は同社の成長可能性を示唆している。

さらに、予約数は前年同期比22%減少したものの、顧客数が増加している事実は注目に値する。特に、フォーブスグローバル2000の顧客数が増えたことは、同社の技術が世界的な大企業からも評価されていることを裏付ける。これらのデータは、D-Waveが市場での課題に直面しながらも着実に前進していることを示している。

財務の浮き沈みは、量子コンピューティング市場の不確実性と同社の成長戦略の双方を反映していると言える。D-Waveは、アニーリング技術を武器に短期的な成果を上げつつも、さらなる投資と技術開発が求められる段階にある。長期的な成功を目指すためには、収益モデルの多様化と顧客基盤のさらなる拡大が不可欠である。