アメリカの鉄鋼メーカーU.S. Steel(ティッカー:X)が、Cleveland-Cliffs(CLF)とNucor(NUE)による共同買収計画の対象となっている。報道を受け、株価は6%以上上昇し36.34ドルを記録した。今回の動きは、バイデン政権が国家安全保障を理由に日本製鉄の140億ドル買収を阻止した直後に起こり、業界に再び注目が集まる。
Cleveland-CliffsはU.S. Steelの完全買収を計画しており、同社のBig River Steel子会社をNucorに売却する意向だ。米国インフラ法案による需要増加やロシアの鉄鋼輸出減少が業界の追い風となる一方、U.S. Steelの業績は厳しい状況にある。2024年第3四半期の純利益は前年同期比で大幅に減少しており、第4四半期も調整後EBITDAの低迷が予想されている。
アナリストらはU.S. Steel株を強気に評価する一方で、過去10年間の株価パフォーマンスは芳しくなく、慎重な投資判断が求められる。業界の将来と国家の産業戦略が絡み合う中、今後の買収交渉は市場に大きな影響を与えるだろう。
米国インフラ法案が鉄鋼需要に与える影響とU.S. Steelの戦略
1.2兆ドル規模の米国インフラ法案は、鉄鋼業界にとって大きな追い風となっている。この法案により、道路、橋梁、電力網といった基盤整備への投資が進み、鋼材の需要が増加すると見込まれる。特に、U.S. Steelは自社の製品がインフラ事業に適合していることから、この需要増を戦略的に取り込む姿勢を示している。
また、U.S. Steelは近年、電気炉を用いた製鋼技術に積極的な投資を行い、製造プロセスの効率化と環境負荷の軽減を図っている。この技術革新は、法案による需要拡大と相まって競争力を高める要因となり得る。しかし、業界全体の競争が激化する中、これが収益増に直結するかどうかは不透明である。
一方で、この動きには新たな課題も潜んでいる。例えば、米国内での鉄鋼生産能力の増強は供給過剰を招く可能性がある。こうした市場環境を踏まえ、U.S. Steelがいかに柔軟な対応を取るかが今後の成長の鍵となるだろう。
鉄鋼業界の国際競争と日本製鉄買収阻止の背景
日本製鉄による140億ドル規模のU.S. Steel買収が阻止された背景には、単なる企業買収以上の意味がある。バイデン政権が国家安全保障を理由に介入したことで、鉄鋼業界が米国経済や軍事戦略にとっていかに重要であるかが浮き彫りになった。この一件は、国際競争が激化する中で米国政府が自国産業を保護する姿勢を鮮明にした象徴的な出来事といえる。
U.S. Steelは、1901年に設立された歴史ある企業であり、国内外の重要産業に向けた製品供給を担ってきた。そのため、同社の所有権が外国企業に移ることは、米国の産業基盤や労働市場に対するリスクとして警戒された。こうした懸念が、ホワイトハウスによる阻止判断に結びついたのであろう。
しかし、この動きが米国の鉄鋼業界全体に及ぼす影響も無視できない。特に、競争環境が一段と制限される可能性や、海外投資家が慎重な姿勢を取ることによる資金調達の課題が懸念される。今後、こうした国際的な影響を踏まえた政策の在り方が問われることになるだろう。
鉄鋼株の過去のパフォーマンスと今後の見通し
U.S. Steelを含む鉄鋼株は、その重要性にもかかわらず過去10年間でS&P 500指数に対して劣後してきた。特に、U.S. Steelの株主へのリターンは約50%にとどまり、同期間におけるS&P 500の190%のリターンと大きな差がある。この背景には、鉄鋼業界特有の循環的性質と高い固定費がある。
しかし、ウォール街の予測では、U.S. Steelのフリーキャッシュフローが今後改善すると見込まれている。2025年には6億4400万ドルのフリーキャッシュフローを計上すると予測され、2024年の流出からの回復が期待されている。これにより、株価収益率(P/E)は割高ではないとされている。
ただし、投資家は業績や市場環境の変動に留意する必要がある。特に、景気後退リスクや製品価格のさらなる下落が収益を圧迫する可能性は否定できない。こうしたリスクを考慮しつつ、長期的な視点でU.S. Steel株を評価することが求められるだろう。