英国競争市場庁(CMA)は、AppleとGoogleのモバイルエコシステムにおける影響力を調査し、新たに定義された「戦略的市場地位(SMS)」の対象とするべきかを判断する動きを見せている。調査は最大9か月間続く可能性があり、両社の市場支配が競争を阻害しているかが焦点となる。
この背景には、2025年1月から施行された英国のデジタル市場法がある。一方で、インド政府は同二社に対し、自国が支援するアプリストア「GOV.in」をプラットフォームに導入し、さらにすべてのモバイルデバイスに公共サービスアプリをプリインストールするよう要求している。
これに対しAppleとGoogleは消極的な姿勢を示しており、インド政府は法的措置の可能性も視野に入れている。今回の動きは、グローバル規模で大手テック企業の影響力を再定義する重要な一歩となる可能性が高い。
英国CMAが注目する「戦略的市場地位」とは何か
英国競争市場庁(CMA)が新たに導入した「戦略的市場地位(SMS)」の概念は、デジタルプラットフォームの支配力を規制するための新基準である。この地位は、特定の企業が市場における競争を著しく歪めているかどうかを評価するために設けられた。
2025年1月から施行されたデジタル市場法(DMCC法)によって、CMAは市場の透明性を高めるためにより厳格な規制を適用できるようになった。SMSに指定された場合、企業は新たな義務を負うことになる。たとえば、不当な優越的地位の乱用を防ぐため、特定のビジネス慣行を制限される可能性がある。
今回の調査対象であるAppleとGoogleは、いずれもモバイルエコシステムの中核を形成しており、それぞれiOSとAndroidを通じてアプリの配布、決済、広告などにおいて高い支配力を持つ。これらの分野での競争促進が主眼に置かれているとみられる。
一方で、デジタル市場法の適用範囲には明確な課題もある。例えば、技術革新を阻害する可能性や、新規参入企業への影響が懸念されている。これらの点に対して、CMAがどのような具体的な措置を講じるかが今後の焦点となる。
インドが求める「GOV.inアプリストア」の導入背景とその波紋
インド政府が提案する「GOV.inアプリストア」の導入要請は、単なる市場拡大策にとどまらない。このアプリストアは、公共福祉サービスを広く国民に届けるための施策であり、各種サービスの普及を支えるインフラとして位置づけられている。特に農村部やインターネットへのアクセスが限定的な地域では、スマートフォンが主要な情報源となるため、この取り組みは重要な意味を持つ。
しかし、AppleとGoogleにとって、外部のアプリストアを自社のプラットフォームに組み込むことは容易ではない。両社のモバイルエコシステムは、セキュリティや収益モデルが密接に絡み合っており、他者の介入がその均衡を崩すリスクを伴う。Bloombergによる報道では、インド政府が法的措置を視野に入れていることが示唆されており、両者の対立は長期化する可能性が高い。
この動きは、規制がテクノロジー企業の運営方針にどのような影響を与えるかを問う試金石ともいえる。Appleが過去にロシアで類似の規制に対応した例があるものの、インド市場の規模や特性を考慮すると、完全な従属には課題が多いといえるだろう。
デジタル市場の競争規制が持つグローバルな影響
英国やインドの規制強化の動きは、世界のデジタル市場全体に波及する可能性を秘めている。特に、欧州連合(EU)や米国も含めた各国の規制当局が同様の動きを追随することで、テクノロジー企業が直面する環境は一層厳しさを増すとみられる。
こうした規制は、消費者の利益を保護し、公平な競争を促進することを目的としている。しかしながら、規制が過度に強化されることで、テクノロジーの進化や新興企業の成長を妨げる可能性も指摘されている。加えて、規制の適用範囲や基準が国ごとに異なることが、グローバル企業にとって大きな負担となりかねない。
今後の動向を注視する必要があるのは、AppleやGoogleがどのようにこれらの規制に対応し、事業運営を適応させるかという点である。同時に、これらの動きが他の業界に及ぼす影響や、新たな規制の枠組みを生み出す契機となるかも重要な視点である。CMAやインド政府の取り組みは、今後のデジタル市場の在り方を示す指針となる可能性を秘めている。
Source:Engadget