中国のスタートアップ「DeepSeek」が発表した強化学習ベースのオープンソースAI「DeepSeek-R1」が、性能とコスト効率でAI業界に衝撃を与えた。一方で、同社のプライバシーポリシーにより、利用者データが中国サーバーに保存・共有される可能性が浮上し、データ流出や監視リスクへの懸念が広がっている。
特に、DeepSeekのAIアシスタントを活用するアプリやウェブサービス利用者の個人情報が中国の法的要件に基づきアクセス可能である点が問題視されている。これに対し、完全オープンソースである「DeepSeek-R1」のローカル利用には安全性が確保されているとの指摘もあり、利用方法次第でリスクが大きく異なる状況だ。
DeepSeekのプライバシーポリシーが招いた懸念とその背景

DeepSeekのプライバシーポリシーでは、利用者の個人情報が中国国内のサーバーに保存され、特定の条件下で政府や法執行機関と共有される可能性が明記されている。具体的には、アカウント作成時に提供される名前やメールアドレス、使用データ、チャット履歴などが含まれる。
さらに、中国のデータ保護法により、国内サーバー上のデータは政府が最低限の根拠でアクセス可能である点が特に重要である。この法律は、違法活動の調査を目的としているものの、個人や企業のデータ流出リスクを伴うため、国際的な懸念を引き起こしている。
加えて、DeepSeekのサービス利用者が特に注目すべき点は、AIアシスタントやモバイルアプリなどのクラウドベースのツールを利用する際、入力したテキストや音声が中国に送信される可能性があることである。Android版アプリのダウンロード数が100万件以上に達した事実は、多くの利用者がこの問題を認識せずにサービスを利用している現状を物語っている。スティーブン・ハイデル氏の発言が示すように、これらのリスクに対する注意喚起は業界内外で重要な議論となっている。
これに対して、利用者が選択肢を持つべきであるとの視点も浮上している。特に、企業が透明性を保ち、利用者にリスクを理解させるための明確な情報提供が求められるだろう。
オープンソースで示された可能性とローカル利用の安全性
DeepSeek-R1はオープンソースとして提供されており、その運用は完全にローカル環境に限定することが可能である。これは、利用者がデータ送信リスクを回避しつつ、モデルの性能を最大限に活用できることを意味する。たとえば、Ollamaのようなオープンソース実装ツールを使用すれば、DeepSeek-R1を個別のハードウェア上で安全に動作させることができる。Emad Mostaque氏の証言によれば、「R1-distill-Qwen-32B」モデルは、16GBのvRAMを備えたMacでも円滑に動作するとのことだ。
さらに、Hyperbolic Labsなどのサードパーティオーケストレーターを活用すれば、GPUクラスターを利用したモデルのトレーニングやファインチューニングが可能である。この方法は、データをローカル環境に限定し、データ漏洩や監視リスクを排除するために有効である。こうした運用が求められる場面は、特に機密情報を扱う企業や研究機関にとって重要な意味を持つ。
一方で、Perplexityのような第三者が提供するモデルセレクターの使用も注目に値する。同社はR1を独自のプラットフォームに組み込み、データセンターのサーバーで安全にモデルをホストしている。このように、DeepSeek-R1の利活用は、リスクを管理しつつ効果的に行える手法が複数存在している。
国際市場におけるデータ保護問題と日本が取るべき対応
今回のDeepSeekに関連する問題は、単に一企業のプライバシーポリシーにとどまらず、中国の法制度やグローバルなデータ保護の課題に焦点を当てるものである。特に、日本の企業や研究機関がこうしたリスクをどのように評価し、対策を講じるかは喫緊の課題である。
日本国内では、データ保護に関する法規制が強化されてきたが、海外企業が提供する技術やサービスの利用におけるリスクについては、さらなる注意が必要である。たとえば、GDPRなど欧州連合の規制と比較しても、海外のデータ保護基準と整合性を保つための制度整備が求められている。また、利用者自身も提供される情報やリスクに関する認識を高め、意識的に選択を行うことが重要である。
さらに、日本企業は自国のデータを保護するために、オープンソース技術の活用やローカル環境での運用を進めるべきだろう。特に、重要なデータを海外サーバーに依存することなく管理するためのインフラ整備が急務である。これにより、グローバルな競争力を保ちながら、安全な技術活用を実現する可能性が広がる。
Source:DeepSeek、VentureBeat、WIRED