量子コンピューティング業界が再び注目を集めている。物議を醸す元ヘッジファンドマネージャーのマーティン・シュクレリが、IonQ(IONQ)とRigetti Computing(RGTI)の株を「キャリア最高のショート(売り仕掛け)の一つ」と断じたためだ。2025年1月21日の発言を受け、市場では両社の技術的信頼性や将来性に対する議論が活発化している。
シュクレリは、両社の量子コンピュータがAmazon Web Services(AWS)のプラットフォームでエラーを頻発している点を問題視。これにより、量子コンピューティング技術の商業的な実用化に疑問が生じるとの見解を示した。一方で、IonQとRigettiは過去1年間で驚異的な株価上昇を記録しており、今後の成長余地に期待を寄せる声も少なくない。
量子コンピューティング業界は依然として黎明期にあり、技術革新が続く中で市場の評価は揺れ動いている。IonQとRigettiの現状を分析し、投資判断の参考となる材料を探る。
シュクレリの指摘は正当か 量子コンピューティング企業の技術的課題と評価
IonQとRigetti Computingの量子コンピュータがAmazon Web Services(AWS)のBraketプラットフォームでエラーを頻発させていることは、シュクレリの批判の根拠となった。彼が指摘したように、AWS上で稼働するIonQの3つのデバイスとRigettiの2つのシステムはオフラインまたはエラー状態にあり、これは両社の技術の信頼性に疑問を投げかける要因となっている。
量子コンピュータは、従来のコンピュータとは異なり、量子ビット(qubit)の状態を維持しながら計算を行う。しかし、qubitは外部環境の影響を受けやすく、安定した計算を行うことが極めて難しい。IonQはイオントラップ方式、Rigettiは超伝導方式を採用しているが、どちらの技術もまだ商業化の段階には至っておらず、長時間の安定稼働が課題とされている。
こうした技術的制約にもかかわらず、量子コンピューティング市場は急成長を遂げている。Microsoftは企業向けに量子対応戦略の導入を推奨し、McKinseyは2035年までに市場規模が2兆ドルに達すると予測している。しかし、AWS上での障害は、現在の技術がその期待に応えられる段階にないことを示しており、短期的な市場の過熱感を警戒する必要がある。
IonQとRigettiの成長戦略 市場の評価は正当か
IonQは2024年の売上を3,850万〜4,250万ドルと予測し、米国空軍研究所との契約やオークリッジ国立研究所との共同研究を進めるなど、積極的な成長戦略を打ち出している。一方のRigettiは、2025年に84量子ビットのAnkaa-3システムをクラウド提供し、100量子ビットの壁を突破することを目標としている。こうした取り組みは、技術的進歩が着実に進んでいることを示している。
しかし、IonQの企業価値は83億ドルに達し、売上の219.3倍という極めて高い評価を受けている。また、Rigettiは株価が1年間で1,054%も急騰したが、直近では下落傾向にある。これは、投資家が量子コンピューティング市場の成長ポテンシャルを評価しているものの、現状の業績や技術力と株価のバランスに疑問を抱いていることを示唆する。
ウォール街のアナリストは、IonQを「適度な買い(Moderate Buy)」、Rigettiを「強気の買い(Strong Buy)」と評価しているが、その目標株価は現在の取引価格を下回る水準である。このことからも、市場は成長期待を持ちながらも、実際の企業価値を慎重に見極めている段階といえる。
量子コンピューティング市場の未来 短期的リスクと長期的展望
シュクレリの発言は、量子コンピュータ業界の現状に対する警鐘とも取れる。事実として、AWS上での技術的課題や過熱する市場評価は投資家にとって重要な要素だ。しかし、量子コンピューティングが長期的に成長産業であることに疑いの余地はない。
Nvidiaのジェン・スン・フアンやMetaのマーク・ザッカーバーグも、実用化には15〜20年の時間を要すると述べている。これは、現在の市場評価が短期的な利益を期待するものではなく、技術革新が進んだ未来を見据えていることを意味する。Microsoftの取り組みやMcKinseyの市場予測は、量子コンピュータが今後数十年の間に産業構造を変革する可能性を示唆している。
投資家にとっては、短期的な株価変動ではなく、技術の進化と商業化の進展を慎重に見極めることが求められる。IonQとRigettiは今後の市場を牽引する可能性があるが、現時点ではリスクと期待が交錯する状況にあるため、慎重な投資判断が必要となる。
Source:Barchart.com