AppleがIntelではなくTSMCをチップ製造パートナーとして選択した背景には、技術力だけでなく、企業文化とビジネスモデルの違いが大きく影響している。2011年、IntelはAppleのチップ製造を請け負う提案を行い、Appleも一時は交渉を中断してIntelの話を聞く姿勢を見せた。
しかし、最終的にAppleはTSMCを選び、長期的な提携へと発展させた。決め手となったのは、TSMCの柔軟な顧客対応力と、ファウンドリーとして「顧客と競合しない」戦略であった。一方、Intelは自社ブランドのプロセッサを販売する事業構造を持ち、Appleの求める供給パートナーとして適さなかった。
さらに、TSMCはAppleの厳しい要求にも応じ、開発計画を大幅に変更するほどの対応力を示したことで、独占的なチップ供給パートナーの地位を確立した。
AppleとTSMCの関係を決定づけた2011年の選択の舞台裏
AppleがIntelではなくTSMCを選択した2011年の決定は、単なる技術的な優位性ではなく、戦略的な判断の積み重ねによって導かれた。Appleは当時、Mac向けのプロセッサをIntelから調達していたが、モバイル向けのプロセッサ市場ではTSMCの製造技術が鍵を握る状況にあった。
この年、AppleはIntelの提案を慎重に検討し、一時はTSMCとの交渉を中断した。Intelが提供できる製造能力や技術力について評価する機会を持ったが、結局、AppleはTSMCを選択した。その理由のひとつは、Intelが半導体の製造請負業者としての柔軟性を持たなかった点にある。
Intelは自社ブランドのプロセッサを開発・販売する企業であり、Appleの要求に合わせたカスタム製造が難しかった。一方、TSMCはAppleの要求に応じて製造プロセスを最適化する能力を持ち、Appleにとって理想的なパートナーだった。
特に2014年のチップロードマップ変更では、Appleの要望に従い、既存の開発計画を大幅に修正した。この柔軟性は、TSMCがAppleの求める高精度なチップ開発を可能にし、長期的な関係を確立する要因となった。
TSMCのビジネスモデルがAppleの要求に適合した理由
TSMCがIntelを退けた最大の理由は、そのビジネスモデルがAppleの戦略と完全に一致していた点にある。TSMCはファウンドリー事業に徹し、顧客と競合しない姿勢を貫いてきた。一方、Intelは自社ブランドのプロセッサを販売しており、Appleにとっては潜在的な競合相手になり得た。
Appleにとって、プロセッサの供給元が競合関係にあることは大きなリスクである。製造技術の進化が激しい半導体業界において、独自の設計を外部に依存する以上、安定した供給と機密保持が重要になる。Intelは自社の製品開発を優先する傾向があり、Appleの専用設計に柔軟に対応できるか疑問視されていた。
これに対し、TSMCはAppleのカスタム仕様に応じたプロセス開発を行い、競合関係にならない点で信頼を獲得した。特にAppleが求めた20nmプロセス対応では、TSMCが独自の生産ラインを確保し、Appleのために設計を最適化した。このような対応力こそが、AppleがTSMCを選び続ける最大の要因となった。
IntelがAppleの信頼を得られなかった背景と現在の状況
Intelは長年にわたり半導体業界をリードしてきたが、Appleのチップ製造パートナーとしては信頼を勝ち取れなかった。その背景には、技術革新の遅れと、顧客対応の硬直性がある。
2011年の時点で、Intelは高性能なx86プロセッサを開発していたが、モバイル向けの省電力チップ分野ではTSMCに後れを取っていた。Appleが求めたのは、消費電力を抑えつつ高性能を実現するチップであり、この分野でTSMCは先行していた。加えて、Intelの製造設備は主に自社製品向けに最適化されており、Apple向けに柔軟な対応を取ることが難しかった。
現在、Intelは再びファウンドリー事業を強化し、Appleとの関係修復を図ろうとしている。しかし、AppleはすでにMシリーズチップをTSMCの先端プロセスで製造しており、Intelがこれに割って入る余地は限られている。TSMCの継続的な技術革新と顧客対応力が、今後もAppleとの強固な関係を維持する要因となるだろう。
Source:AppleInsider