インテルは、当初AIおよび高性能計算(HPC)向けに開発していたGPU「Falcon Shores」の市場投入を断念し、後継となる「Jaguar Shores」に注力する方針を明らかにした。暫定共同CEOのミシェル・ジョンストン・ホルツハウス氏は、業界からのフィードバックを受け、Falcon Shoresを内部テストチップとして活用し、ラックスケールのシステムレベルソリューションの開発に専念すると述べている。

この決定は、Gaudiシリーズの販売不振や、NVIDIAやAMDといった競合他社との競争激化を背景に、AIデータセンター市場での競争力強化を目指した戦略的転換と考えられる。Jaguar Shoresは、AI推論やHPC向けに設計されたGPUであり、インテルはこれを通じてAI市場での地位向上を図る意向だ。しかし、具体的なリリース時期や詳細は未定であり、同社の今後の動向に注目が集まる。

インテルが直面するAI市場の課題と競争環境

インテルはAIアクセラレータ市場での競争に苦戦しており、その背景には複数の要因がある。NVIDIAはH100をはじめとする強力なGPU製品群を市場に投入し、データセンター向けAI推論とトレーニングの分野で圧倒的なシェアを獲得している。一方、AMDもMI300シリーズを通じて存在感を高めており、インテルの立場はますます厳しくなっている。

インテルはこれまで、Falcon ShoresをAI市場における重要な製品として位置付けていた。TSMCの3nmプロセスを採用し、CoWoS-Rパッケージ技術を導入することで、性能向上を図る計画だったとされる。しかし、業界の需要が変化し、より高度なラックスケールの統合ソリューションが求められる中で、単独のGPUでは競争力を維持できないと判断した可能性がある。

また、インテルはAIアクセラレータ市場において遅れを取っているだけでなく、製造技術の面でも課題を抱えている。自社のプロセス技術では競争力のある製品を短期間で投入するのが難しく、TSMCの先端プロセスを採用せざるを得ない状況にある。

これにより、製造コストの増加や供給体制の制約が生じるため、NVIDIAやAMDと同等の競争力を維持するのは容易ではない。こうした状況を受け、インテルは市場戦略の抜本的な見直しを迫られている。

Jaguar Shoresが目指す新たなアーキテクチャの可能性

インテルはFalcon Shoresの市場投入を中止し、次世代のJaguar Shoresに軸足を移すことを決定した。しかし、Jaguar Shoresが具体的にどのようなアーキテクチャを採用し、どの市場をターゲットとするのかは明らかにされていない。ただし、現時点での発表内容から、AI推論やHPC向けに最適化されたソリューションとなる可能性が高い。

同社の暫定共同CEOであるミシェル・ジョンストン・ホルツハウス氏は、顧客の要望に応えるためにラックスケールの統合ソリューションを提供することが重要であると強調している。これは単なるAIアクセラレータの開発ではなく、システム全体としての最適化を図る方向性を意味している。

つまり、Jaguar Shoresは単体のGPUではなく、CPUやメモリ、ネットワークインフラを含めた統合プラットフォームとして設計される可能性がある。また、インテルはGaudiシリーズの開発を通じて、独自のAIアクセラレータのノウハウを蓄積してきた。

Gaudi2はNVIDIAのA100と競争する製品として投入されたが、市場でのシェアは限られたものとなった。この経験を踏まえ、Jaguar Shoresでは従来のGPUアプローチとは異なる技術が導入される可能性がある。特に、メモリ帯域幅の最適化や、消費電力効率の向上といった点が強化されることが予想される。

AI市場でのインテルの今後の戦略と課題

インテルのAI市場における戦略転換は、競争環境の変化に適応するためのものだが、課題も多い。NVIDIAがソフトウェアエコシステムを確立し、CUDAをはじめとする開発環境を強固なものとしている一方で、インテルはソフトウェアの面で大きなハンディキャップを抱えている。この差を埋めるためには、ハードウェアだけでなく、AI開発環境の整備にも注力する必要がある。

また、Jaguar Shoresが競争力のある製品となるためには、市場投入のタイミングが極めて重要である。NVIDIAやAMDがすでに次世代AIアクセラレータを計画している中、インテルが遅れを取れば、市場シェアの奪還はさらに困難になるだろう。そのため、同社がどのようなスケジュールでJaguar Shoresを展開するのかが今後の焦点となる。

さらに、インテルはデータセンター市場でのポジショニングを見直す必要がある。これまでCPUを中心としたビジネスモデルを展開してきたが、AIの成長に伴い、GPUやアクセラレータへの依存度が高まっている。今後は、NVIDIAのようにソフトウェアとハードウェアを統合した戦略を採用するか、AMDのようにオープンなエコシステムを構築するのか、その方向性が問われることになる。

インテルのAI市場での立場は依然として厳しいが、Jaguar Shoresが競争力を持つ製品として市場に投入されれば、状況は大きく変わる可能性がある。同社がどのように競争を進めていくのか、引き続き注目される。

Source:Wccftech