米国の新たな関税政策が、AppleのiPhone事業に大きな打撃を与える可能性が浮上している。UBSの最新レポートによれば、中国で生産され米国に輸出されるiPhoneは全体の約3分の1を占め、特に高価格帯モデルが多いため、収益への影響はそれを上回る見込みだ。
Appleの粗利益率は、関税補填がなければ1%の圧力を受け、年間EPS(1株当たり利益)が約3%減少する可能性があるとUBSは指摘。影響はAppleだけにとどまらず、多くのテクノロジー・ハードウェア企業やネットワーク関連企業も、中国やメキシコ、カナダの契約製造業者に依存しているため、同様のリスクを抱えている。
一方で、影響を回避できる企業もある。Extreme NetworksやNetAppは、中国以外の拠点を活用することで関税の影響を限定的に抑えている。一方、JabilやArista Networks、Celesticaといった企業はメキシコや中国に大規模な生産拠点を持つため、関税の影響が深刻になる可能性が高い。
UBSは、今回の関税が短期的なものではなく、長期化する可能性が高いと予測。特にカナダやメキシコの輸出依存度の高さを踏まえると、米国が交渉の主導権を握る構図が続く可能性がある。Appleの株価動向とともに、関税の影響を受ける関連企業の動向も注視する必要がある。
Appleのサプライチェーン戦略と関税の影響拡大の可能性
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Appleはこれまで、サプライチェーンの最適化を進めることで利益率を維持し、製造コストの管理に努めてきた。しかし、米国の新たな関税措置は、こうした戦略に根本的な見直しを迫る可能性がある。特に、iPhoneの主要な生産拠点である中国からの輸入に10%の関税が課されることで、Appleのコスト構造に直接的な影響を及ぼす。
すでにAppleは一部の生産をインドやベトナムへと分散させているが、依然として中国がサプライチェーンの中核を担っていることに変わりはない。UBSの分析によれば、AppleのiPhone販売台数の約3分の1が中国経由で米国に輸出されているため、関税によるコスト増加は避けられない。また、高価格帯モデルの割合が大きいため、収益への影響は販売台数の割合を超える可能性がある。
この影響は、単なる生産コストの増加にとどまらない。Appleは最終的に価格転嫁を行うか、利益を削って関税負担を吸収するかの決断を迫られることになる。価格転嫁を行えば消費者需要の減少を招き、利益を圧縮すれば株主の利益が損なわれる。いずれの選択肢も、Appleの成長戦略にとって大きな試練となるだろう。
さらに、Appleだけでなく、他のテクノロジー企業も同様の問題に直面することになる。特に、米国市場向けの製品を中国やメキシコで製造する企業にとっては、今後の生産拠点の再編が不可避となる。関税の適用範囲が広がることで、サプライチェーン全体の再構築を余儀なくされる可能性が高まっている。
関税の長期化と米国企業の対応策 交渉力を握るのは誰か
今回の関税措置が一時的なものなのか、それとも長期にわたって継続するのかは、今後の貿易交渉の行方に大きく依存する。UBSの見解では、特にカナダやメキシコの輸出依存度を考慮すると、米国が交渉の主導権を握る可能性が高い。これにより、米国企業は関税リスクを見越した経営戦略を求められることになる。
Appleをはじめとするテクノロジー企業は、すでに中国依存を減らすためにインドやベトナムへの生産移転を加速させている。しかし、この移転は短期間で完了するものではなく、多額の投資と時間を要する。さらに、インドや東南アジアに新たな生産拠点を設けたとしても、労働力の質やインフラの整備が整うまでには時間がかかるため、中国の代替として完全に機能するには課題が残る。
一方で、関税の長期化はAppleにとって交渉力の強化にもつながる可能性がある。過去にも同社はサプライヤーとコスト削減交渉を進め、関税による影響を最小限に抑えてきた。今回も中国の製造パートナーと価格調整を行うことで、一部のコスト増加を吸収できる可能性がある。ただし、それがどの程度可能なのかは、今後の経済環境や供給網の安定性に左右される。
米国が関税政策を継続する限り、Appleだけでなく、他のテクノロジー企業も柔軟な対応を迫られる。特に、関税の影響を受ける地域に製造拠点を持つ企業は、価格戦略の見直しとサプライチェーンの分散化を急ぐ必要がある。今後の展開次第では、米国市場における競争環境そのものが変化する可能性もあるだろう。
Apple株の行方 投資家が注視すべきポイントとは
Appleの株価は、関税の影響がどの程度業績に反映されるかによって大きく変動する可能性がある。特に、iPhone事業の収益構造を考慮すると、関税負担が最終的に企業価値にどのような影響を及ぼすのかが重要な焦点となる。
現在、UBSはAppleの粗利益率が関税によって100ベーシスポイント(1%)の圧力を受ける可能性があると指摘している。この影響は、短期的には株価の下押し要因となり得るが、Appleのブランド力やエコシステムの強さを考慮すれば、長期的な成長を阻害する要因にはならないという見方もある。
また、Appleは過去にもコスト上昇局面において価格戦略を柔軟に変更し、利益を維持してきた実績がある。たとえば、為替の影響やサプライチェーンの問題が発生した際にも、価格改定や新しい販売戦略を取り入れることで収益を確保してきた。今回の関税措置に対しても、同様の対応を取る可能性が高い。
さらに、InvestingProのAI分析によれば、市場には過小評価されている成長銘柄が存在し、Appleもその一角を担う可能性がある。過去1年でAIは30%以上の急騰を記録した銘柄をいくつも特定しており、Appleが再び市場の注目を集めるかどうかは、関税の影響をどのように克服するかにかかっている。
投資家にとって重要なのは、Appleの財務体質と市場での競争力を冷静に評価することだ。関税の影響は一時的な調整要因となる可能性があるが、Appleの長期的な成長戦略を考慮すれば、短期的な株価の変動に過度に反応する必要はない。Appleの次の一手が市場にどのような影響を与えるのか、今後の動向に注目が集まる。
Source:Investing.com