MicrosoftのWindows Object Linking and Embedding(OLE)技術において、新たにCVE-2025-21298として識別されるゼロクリック脆弱性が発見された。この脆弱性はCVSSスコア9.8と極めて深刻であり、Microsoft Outlookを悪用することで、ユーザーの操作なしにリモートで任意のコードが実行される可能性がある。特に、リッチテキストフォーマット(RTF)ファイル内のOLEオブジェクト処理に起因し、メールのプレビューだけで攻撃が成立する点が大きな脅威となっている。
GitHub上では既に概念実証(PoC)エクスプロイトが公開されており、攻撃者は悪意のあるRTFファイルを用いることで、アプリケーションのクラッシュやシステムの制御を実現できる。影響を受けるのはWindows 10、Windows 11、および複数のWindows Serverエディションで、企業や組織は標的になりやすい。
Microsoftは1月のPatch Tuesdayで修正パッチを提供しており、速やかな適用が推奨される。更新が困難な環境では、メールをプレーンテキストで表示する設定や、不審なRTFファイルの開封を避けるなどの回避策が必要だ。OLEのようなレガシー技術に潜むリスクが改めて浮き彫りとなった今、企業は迅速な対応と監視体制の強化を求められている。
Windows OLEのゼロクリック脆弱性の技術的背景と攻撃の仕組み

CVE-2025-21298は、WindowsのOLE(Object Linking and Embedding)技術に関連するリモートコード実行(RCE)脆弱性である。この問題は、ole32.dllライブラリにおけるメモリ管理の欠陥、特に「Use After Free」(CWE-416)に起因している。この脆弱性が悪用されると、攻撃者は細工されたRTF(リッチテキストフォーマット)ファイルを用いて、標的システム上でコードを実行できるようになる。
具体的には、RTFファイル内のOLEオブジェクトを処理する際に使用されるUtOlePresStmToContentsStm関数が問題の発端である。この関数が「OlePres」ストリームから「CONTENTS」ストリームへデータを変換する際に、解放済みのメモリが誤ってアクセスされ、結果としてヒープメモリの破壊が引き起こされる。攻撃者はこの脆弱性を利用し、特定のメモリ領域に悪意のあるコードを注入し、実行することが可能となる。
このゼロクリック攻撃が特に危険なのは、ユーザーの明示的な操作を必要としない点にある。例えば、Microsoft Outlookでメールを開くことなく、プレビュー機能を有効にしているだけで、脆弱性が発動する可能性がある。これにより、標的の端末は瞬時に攻撃者の制御下に置かれる可能性がある。GitHubでは既にPoC(概念実証)エクスプロイトが公開されており、OutlookやWordのクラッシュが確認されていることから、実際の攻撃が発生する可能性は高い。
このような脆弱性が発生する背景には、OLEが長年にわたり互換性維持のために存続してきたレガシー技術であることが挙げられる。OLEは90年代に登場した技術であり、現代のセキュリティ要件には必ずしも適合していない。そのため、今後もOLEを使用する限り、同様の脆弱性が再び発生する可能性が指摘されている。
CVE-2025-21298が企業システムにもたらすリスクとは
この脆弱性は、単なる個人ユーザーだけでなく、企業システムに対しても深刻な影響を及ぼす。特に、Microsoft Outlookを日常的に利用する組織は標的になりやすく、セキュリティ対策が不十分な環境では被害の拡大が懸念される。企業が受けるリスクとして、情報漏洩、ランサムウェア攻撃、システム乗っ取りなどが挙げられる。
攻撃者がこの脆弱性を利用して侵入に成功すると、企業ネットワーク内でさらなる攻撃を展開する可能性がある。例えば、標的の端末にバックドアを設置し、企業の機密情報を窃取する、管理者権限を奪取しシステムの全権を掌握するなどの攻撃が想定される。PoCコードが公開されたことで、これを改良し、より高度なマルウェアに組み込む攻撃者も現れると考えられる。
特に問題となるのは、企業における電子メールの使用頻度の高さである。日常業務でMicrosoft Outlookを活用する企業は多く、従業員が受信するメールの量も膨大である。そのため、悪意のあるRTFファイルを含んだメールが紛れ込んだ場合、個々の従業員が全てを正確に識別するのは難しい。仮に1人の従業員が脆弱性を突いたメールを受信し、プレビュー機能を有効にしていた場合、社内ネットワーク全体に被害が広がる可能性がある。
さらに、この脆弱性を利用した標的型攻撃(APT:Advanced Persistent Threat)も考えられる。国家支援のハッカー集団や高度なサイバー犯罪組織が、特定の企業や政府機関を狙い、長期間にわたって機密情報を窃取するために活用する可能性がある。過去の事例では、類似の脆弱性を用いたサイバー攻撃により、金融機関や防衛関連企業が甚大な被害を受けたケースも報告されている。
企業が取るべき対策と長期的なサイバーセキュリティの課題
この脆弱性に対する最も確実な対策は、Microsoftが提供する最新のセキュリティパッチを適用することである。すでに1月のPatch Tuesdayで修正が行われているため、企業や個人ユーザーは迅速に更新を実施すべきである。しかし、業務システムとの互換性の問題から、すぐにアップデートが適用できない企業も存在する。そのような環境では、以下の緩和策を講じる必要がある。
まず、Microsoft Outlookの設定を変更し、受信メールをプレーンテキストで表示することで、悪意のあるRTFファイルの影響を軽減できる。ただし、これによりHTMLメールのレイアウト崩れや、画像・リンクが正しく表示されない問題が生じるため、業務効率への影響も考慮する必要がある。また、従業員に対して、不審なRTFファイルを開かないようにするセキュリティ教育を徹底することも重要である。
加えて、最小権限の原則(Least Privilege Principle)を厳格に適用し、攻撃が成功した場合の影響を最小限に抑えることが求められる。管理者権限を持つユーザーの数を制限し、一般ユーザーには不要な権限を与えないことで、攻撃者がシステムを完全に掌握するリスクを軽減できる。
さらに、長期的な視点では、企業はレガシー技術に依存しないITインフラの整備を進める必要がある。OLEのような古い技術が今後も脆弱性を生む可能性を考慮し、最新のセキュリティ設計を採用したシステムへ移行することが望ましい。近年では、サンドボックス技術やゼロトラストモデルを取り入れたセキュリティアーキテクチャの導入が進んでおり、こうした技術を活用することで、脆弱性の悪用リスクを低減できる。
今回のCVE-2025-21298の問題は、単なる一時的な脅威ではなく、組織のセキュリティ戦略全体を見直す契機となる。脆弱性対応を短期的なパッチ適用にとどめるのではなく、将来的なサイバー攻撃への備えを強化することが求められる。
Source: Cyber Security News