AMDは、次世代データセンター向けGPU「Instinct MI350」シリーズの発売を、当初予定の2025年後半から前倒しし、2025年中頃に生産出荷を開始する計画を明らかにした。同社CEOのリサ・スー氏は、開発の順調な進捗と顧客からの強い需要を背景に、主要顧客へのサンプル出荷を今四半期中に開始し、生産出荷を年央までに加速すると述べている。

この動きは、データセンター向けGPU市場で圧倒的なシェアを持つNVIDIAに対抗し、AMDの競争力を高める狙いがあると考えられる。また、AMDは2024年にInstinctシリーズの販売額が50億ドルを超え、データセンター部門の売上が二桁成長すると見込んでおり、AIコンピューティング需要の高まりを受け、今後数年間でデータセンター事業が数百億ドル規模へと成長する可能性を示唆している。

しかし、NVIDIAの市場支配力を考慮すると、AMDがどの程度シェアを拡大できるかは不透明であり、今後の市場動向に注目が集まる。

AMDがデータセンター向けGPU市場で攻勢に出る理由

AMDは、次世代データセンター向けGPU「Instinct MI350」シリーズの発売を前倒しし、2025年中頃に生産出荷を開始する計画を発表した。この決定の背景には、AIコンピューティングの需要拡大と、競合するNVIDIAに対する市場シェア拡大の戦略がある。AIを活用するデータセンターの増加に伴い、GPUの性能向上と供給のスピードが競争力を左右する要素となっている。

特に、大規模なクラウド事業者やテック企業は、より高性能なAI向けGPUを求めている。NVIDIAが市場の大半を支配する中、AMDが競争に食い込むには、性能面と供給スピードの両方で優位性を示す必要がある。今回の前倒し決定は、AMDがこの課題に対応し、顧客の期待に応える姿勢を明確にするものといえる。

さらに、AMDは近年、MetaやMicrosoft、IBMといった主要顧客を獲得している。これにより、NVIDIAの寡占状態に風穴を開ける可能性がある。特に、企業ごとの独自AIモデルの開発が進む中で、AMDの製品が新たな選択肢として広がることは、業界全体の競争構造に影響を与えるだろう。

Instinct MI350が持つ競争力と今後の課題

Instinct MI350シリーズは、前世代のMI300シリーズを基盤としつつ、処理能力とエネルギー効率を向上させた製品とみられる。AMDは具体的な技術仕様を明らかにしていないが、AIトレーニングや推論の高速化に重点を置いたアーキテクチャが採用される可能性が高い。

特に、大規模言語モデル(LLM)や生成AIの処理に適したGPU性能が求められており、この分野でNVIDIAのH100やB100と競争することになる。一方で、AMDが直面する課題も少なくない。まず、ソフトウェアエコシステムの成熟度でNVIDIAに後れを取っている点が挙げられる。

NVIDIAのCUDAプラットフォームは、AI研究者や開発者の間で広く採用されており、AMDが市場で競争するためには、ソフトウェア環境の充実が不可欠となる。また、供給能力の問題も重要であり、TSMCなどの製造パートナーとどれだけ安定した生産体制を築けるかが、シェア拡大の鍵となる。

さらに、市場全体のトレンドとして、データセンターにおける消費電力の削減が求められている。MI350が消費電力あたりのパフォーマンスでNVIDIAを上回ることができれば、企業の採用が加速する可能性がある。しかし、価格面や長期的なサポート体制も考慮されるため、単に性能が高いだけでは市場での成功は保証されない。

AI市場の拡大がもたらすデータセンターGPUの未来

AI市場の成長が続く中、データセンター向けGPUの需要は今後さらに拡大すると予想される。特に、AIモデルの進化に伴い、計算リソースの増加が求められており、GPUの高性能化が不可欠な要素となっている。AMDがMI350を前倒しで投入する決定は、こうした市場の動きを捉えた戦略の一環といえる。

また、企業ごとのカスタムAIチップの開発も進んでおり、GoogleのTPUやAmazonのTrainiumのように、独自のアクセラレータを採用する動きも出てきている。この流れの中で、AMDがどのように差別化を図るかが注目される。オープンなエコシステムを活用し、多様なAIワークロードに適応できる製品を提供することが、NVIDIAとの差別化につながるだろう。

さらに、クラウドサービスプロバイダーの動向も市場に影響を与える要因となる。Azure、AWS、Google Cloudなどの主要クラウド事業者が、AMDのGPUをどの程度採用するかによって、市場の勢力図が変化する可能性がある。特に、コストパフォーマンスや供給の安定性が評価されれば、NVIDIAからの乗り換えを検討する企業も増えるだろう。

AMDのMI350シリーズが市場でどのような評価を得るのかは、今後数カ月の展開次第で決まる。技術的な競争力だけでなく、サプライチェーンやソフトウェア対応の整備が鍵を握る。データセンター向けGPU市場は、今後も熾烈な競争が続くことは間違いない。

Source:TechCrunch