中国のHuaweiが開発したAIプロセッサ「Ascend 910C」が、Nvidiaの最先端GPU「H100」の推論性能の約60%に達することが、DeepSeekの研究で明らかになった。Ascend 910CはAIトレーニングには最適ではないものの、推論処理においては競争力を持ち、中国の半導体技術の進化を示すものとなっている。

HuaweiのAIチップは米国の制裁を受ける中でも進化を遂げており、特にPyTorchとの互換性やCUNNカーネルの最適化による効率向上が評価されている。これにより、AIワークフローへの統合が容易になり、Nvidiaへの依存を減らす可能性がある。

ただし、AIトレーニング分野では依然としてNvidiaが圧倒的優位を維持しており、Huaweiがこの領域で競争するためには長期的な安定性の確保やハードウェア・ソフトウェアのさらなる改良が求められる。

HuaweiのAscend 910Cが示す中国の半導体進化とその限界 中国の半導体戦略におけるAscend 910Cの役割

HuaweiのAIプロセッサ「Ascend 910C」は、中国の半導体独立を推進する戦略の一環として注目されている。米国による先端半導体技術への規制が続く中、中国は自国製チップの開発を加速させてきた。Ascend 910Cは、TSMCの技術から脱却し、SMICの7nmプロセス「N+2」によって製造されている。

これは、中国の半導体製造技術が先端分野において一定の進展を遂げたことを示唆するものであり、特にAI分野においてはその影響が大きい。加えて、Ascend 910Cは推論性能においてNvidia H100の約60%を達成しており、一定の競争力を持つことが示された。

これは、NvidiaのGPUに依存しないAIインフラの構築を目指す中国にとって大きな前進である。特に、CUNNカーネルの手動最適化により性能向上が可能である点が評価されており、AIワークフローの効率化が期待されている。しかし、AIトレーニング分野では依然としてNvidiaのA100やH100が圧倒的な優位を維持している。

DeepSeekの研究では、中国製プロセッサは長期的なトレーニングの安定性に課題を抱えていることが指摘されている。この点を克服しなければ、Ascend 910Cは推論専用のプロセッサとしての立ち位置にとどまる可能性が高い。中国がAIコンピューティング分野でさらなる競争力を得るためには、トレーニング分野での安定性向上とソフトウェアエコシステムの強化が不可欠である。

Huaweiの技術進化と米国制裁の影響

HuaweiのAscend 910CがNvidiaの最先端GPUと比較可能な性能を持つことは、中国の技術進化を示す一例である。しかし、その背景には米国による厳しい半導体規制の影響が色濃く反映されている。Huaweiは、TSMCの最先端プロセス技術へのアクセスを失ったことで、代替となるSMICの「N+2」プロセスを採用せざるを得なかった。

この技術はTSMCのN7+と同等とされるが、EUV(極端紫外線リソグラフィ)を使用できないため、製造効率や歩留まりには限界がある。また、HuaweiのAIプロセッサが採用するチップレットアーキテクチャは、プロセッサ性能を最大化する手法の一つであるが、これはNvidiaやAMDが長年培ってきた技術と比較すると成熟度に差がある。

特に、AIトレーニングに必要なメモリ帯域や消費電力の最適化が課題として残っている。このため、HuaweiのAIチップは推論向けとしては有力な選択肢となるものの、トレーニング用途では依然として課題を抱えている。さらに、NvidiaはAIソフトウェアエコシステムの面でも圧倒的な優位性を持つ。

CUDAを中心とした開発環境が20年以上にわたり最適化されてきたのに対し、HuaweiのAscendシリーズはソフトウェア最適化の面で発展途上にある。DeepSeekの研究では、PyTorchとの互換性を高める試みが進められているものの、Nvidiaのソフトウェアとの完全な互換を実現するには相当な時間と投資が必要となる。

AI市場における中国の今後の課題と展望

今後のAI市場において、HuaweiのAscend 910Cが持つ意義は決して小さくない。特に推論分野においては、コスト効率を重視する企業にとって有力な代替手段となる可能性がある。しかし、AIトレーニングの分野ではNvidiaの支配が続いており、Huaweiがこの領域で競争力を確立するには、さらなる技術的ブレークスルーが求められる。

AIモデルの進化が進む中で、特にTransformerアーキテクチャが主流となることにより、Nvidiaのソフトウェアエコシステムの優位性が低下する可能性も指摘されている。DeepSeekの研究は、中国がハードウェアとソフトウェアの最適化技術を強化することで、Nvidiaの支配に対抗できる可能性があることを示唆している。

しかし、それが実現するためには、中国国内での半導体製造技術のさらなる発展と、ソフトウェアエコシステムの確立が必要不可欠である。また、AIコンピューティングの世界市場で競争するためには、性能だけでなく、安定した供給体制や長期的なトレーニングの信頼性を確保することが求められる。

米国の規制が続く中で、中国がどのように半導体戦略を展開し、AI分野での競争力を維持するのかが今後の焦点となる。Ascend 910Cはその一歩となり得るが、真の競争力を得るにはさらなる進化が不可欠である。

Source:Tom’s Hardware