オーストラリアとインドの政府機関が、新興AIチャットボット「DeepSeek」の使用を禁止・制限する動きを見せている。オーストラリア内務省は国家安全保障上の懸念から、公用デバイスでの利用を正式に禁止し、インド財務省も政府職員に対して使用を控えるよう警告を発した。DeepSeekは急速に人気を集めたが、最新の調査によりデータ収集とプライバシー保護の脆弱性が指摘され、各国の規制当局が対応を進めている。
この動きはオーストラリアとインドにとどまらない。米海軍はセキュリティおよび倫理的な懸念から使用を全面禁止し、イタリアのデータ保護機関も規制を強化。DeepSeekだけでなく、ChatGPTや類似のAIモデルも各国のデータプライバシー法と摩擦を生んでおり、AI技術の急成長に伴うガバナンスの必要性が浮き彫りとなった。
DeepSeek禁止の背景にある安全保障リスクとは

DeepSeekの急速な普及に対し、各国政府は安全保障上のリスクを警戒している。オーストラリア内務省が発表した指針では、特に「広範なデータ収集」と「外国政府による裁判外の介入」によるリスクが問題視された。これは、AIが収集する情報が意図せず国家機密に関わる可能性や、外国の法律に基づくデータ利用がオーストラリアの法律と相反する恐れがあるためである。
また、DeepSeekのアルゴリズムがどのようにデータを処理し、蓄積するのかが不透明であることも懸念点となった。特に、政府機関の職員が業務中に機密情報を含むデータを入力すれば、AIがそれを学習し、第三者が利用できる状態になりかねない。これにより、国家機密が外部に流出するリスクが生じ、政府としての対応が急務となった。
インド政府も同様の懸念を抱き、財務省が公務での使用を禁止する措置を講じた。背景には、機密文書のAIによる無意識の流出が国家の経済安全保障に直結する可能性があるためだ。さらに、米海軍が倫理的・安全保障上の理由でDeepSeekの使用を全面禁止し、イタリアのデータ保護機関も規制を強化するなど、世界的な動きが加速している。
この一連の規制強化は、単なるAI技術の制限ではなく、国家のデータ主権を守るための戦略的判断といえる。今後、AI技術が進化するにつれ、政府や企業はデータ管理の透明性や規制の厳格化に対応する必要があるだろう。
AI規制の世界的潮流とDeepSeekの影響
AI規制の動きはDeepSeekに限らず、世界各国で加速している。ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及するなかで、各国のデータ保護当局はプライバシー保護の観点から厳しい対応を求めている。例えば、イタリアのデータ保護機関はDeepSeekのプライバシーポリシーが不十分であると判断し、国内での利用を制限する措置を講じた。
特に欧州連合(EU)は、AI規制の枠組みを強化し、AIが個人情報をどのように処理するのかを厳格に管理しようとしている。「AI法案(AI Act)」が進行中であり、高リスクAIの規制や透明性の確保が求められることになる。こうした規制の厳格化は、DeepSeekのような新興AIサービスにも大きな影響を及ぼすと考えられる。
一方で、AIの利便性を重視する動きも存在する。米国ではAIの軍事利用や産業応用を推進する方針が強まり、中国は自国のAI技術を強化し、独自の規制体系を整備している。各国の規制戦略が分岐するなかで、AI企業はデータ管理や規制対応をより慎重に行う必要がある。
AI技術の進化は不可避であるが、それに伴うデータの扱い方には国際的な統一基準が求められるだろう。DeepSeekの禁止措置は、その先駆けとなる可能性があり、各国の規制の在り方が今後のAI市場の形成に大きな影響を与えることは間違いない。
企業に求められるAI活用のガイドライン
AI技術の発展に伴い、企業においても適切なガイドラインの策定が急務となっている。DeepSeekの禁止措置が示すように、AIツールを無制限に活用することはリスクを伴う。特に企業内での機密データの取り扱いにおいては、慎重な管理が求められる。
多くの企業では、ChatGPTやDeepSeekのようなAIツールを業務に活用しているが、その多くは明確な使用ルールが整備されていないのが実情だ。例えば、従業員が業務上の機密情報をAIに入力した場合、その情報が外部に流出する可能性がある。これは企業の知的財産や顧客情報の流出につながり、法的リスクを引き起こす要因となる。
そのため、企業はAI活用に関する社内ポリシーを明確化し、従業員に適切な利用方法を教育する必要がある。具体的には、AIツールを使用する際の情報入力基準、プライバシー保護対策、外部サーバーへのデータ送信の可否などを明示することで、リスクを最小限に抑えることが可能となる。
また、各国の規制動向を注視し、法規制の変化に応じたコンプライアンス対応を強化することも求められる。DeepSeekの禁止は、企業にとってAI活用のリスクと可能性を見直す契機となる。今後、AIの進化が続くなかで、企業は単なる技術導入にとどまらず、リスク管理の視点を取り入れたAI戦略を構築していく必要があるだろう。
Source: TechRadar