Appleは、次世代のM5チップにおいてTSMCの先進的な「SoIC-MH」パッケージング技術を採用しない可能性が浮上している。台湾の半導体大手TSMCが開発したこの技術は、熱管理と電気性能を向上させることで、ワットあたりのパフォーマンスを強化するものだが、初採用はM5 Proやそれ以上の高性能モデルになると報じられている。

TSMCの3nmプロセス「N3E」および「N3P」による効率改善が限定的であることが、AppleがM5 Proでの新技術導入を決定する要因と考えられる。これは、M5 ProがM4 Proとの差別化を図る上で重要な要素となる可能性がある。M5 MaxやM5 Ultraへの適用については未確認であり、今後の動向が注目される。

AppleがM5でTSMCのSoIC-MHを採用しない理由とその背景

AppleがM5チップにTSMCの先進的なSoIC-MHパッケージングを適用しない決定は、技術的および経済的な複合要因によるものと考えられる。SoIC-MHは、垂直スタッキングによる熱および電気性能の向上を実現し、ワットあたりのパフォーマンスを大幅に改善する技術である。

しかし、この技術の適用には製造コストの上昇が避けられず、AppleはM5の基本モデルではコスト効率を重視した結果、従来のパッケージング技術を維持する判断を下した可能性が高い。また、TSMCの3nmプロセス「N3E」および「N3P」の効率改善が5~10%と限定的であることも、この決定に影響を与えている。

この程度の改善では、SoIC-MHの導入によるパフォーマンス向上がコスト増加に見合わないと判断された可能性がある。一方で、M5 Pro以降の上位モデルには、より高性能を求めるユーザー層への訴求力を強化するためにSoIC-MHを採用することで、差別化を図る戦略が見て取れる。

SoIC-MH技術の特性とM5 Proでの効果的な活用

TSMCのSoIC-MHパッケージング技術は、Small Outline Integrated Circuit Molding-Horizontalの略で、チップを垂直方向に積層し、回路層の追加により信号遅延を最小化しつつ熱効率を向上させる。この技術は、特に高性能を求められるSoCにおいて、その真価を発揮する。

M5 Proにこの技術が適用されることで、CPUおよびGPUのクロック速度を向上させつつ、発熱の抑制と電力効率の改善が期待される。しかし、SoIC-MHの導入は単なる性能向上にとどまらない。垂直積層により、チップサイズの縮小と設計の柔軟性が向上し、結果としてデバイス全体の薄型化やバッテリー寿命の延長にも寄与する。

Appleはこれにより、M5 Proの市場競争力を強化し、既存のM4 Proとの差別化を図る狙いがあると見られる。ただし、この技術の実装が製品価格にどう影響するかについては、今後の動向を注視する必要がある。

M5 MaxおよびM5 Ultraへの技術展開と市場への影響

現時点でTSMCのSoIC-MH技術がM5 MaxやM5 Ultraにも適用されるかどうかは明確にされていないが、Appleがこの技術を上位モデルに拡大する可能性は高い。特にM5 Ultraのようなハイエンドチップでは、SoIC-MHによる性能向上がプロフェッショナル向けの需要を喚起する強力な武器となるだろう。

これは、映像編集や3Dレンダリングなど、高度な計算処理を必要とする分野において、Apple Siliconの優位性をさらに強化する要因となる。一方で、この技術展開には製造コストの増大というリスクも伴う。高性能モデルへの技術適用が進む中で、Appleがどのように価格戦略を調整するかが、今後の売上と市場シェアに大きな影響を与えると考えられる。

消費者にとっては、性能向上と価格のバランスが重要な判断材料となるため、Appleの次なる一手が注目される。

Source:Wccftech