気候変動の影響に対処するため、人工知能(AI)の利用が増えてきている。アフリカ、アジア太平洋地域、ヨーロッパ、南米と中央米各国が、グーグルのAIによる洪水予測表示プラットフォームを利用できるようになった。
参考:Google “Helping more people stay safe with flood forecasting”
洪水予報の未来 – AIが可能にする予知能力
これらの地域の60カ国に居住する政府、援助団体、市民は、洪水が発生する7日前からグーグルの洪水予測情報にアクセスできるようになった。
このシステムは2021年に始めて開始され、Flood Hubという名前で、河川洪水の予報を表示している。河川洪水とは、川や小川がその堤防を越えて周囲の地域に水を溢れさせる現象である。これらの洪水は、人間による気候変動により、過去よりも大きく、または頻繁に発生する可能性がある。
特に洪水リスクに対する人口の割合が高い地域 – オランダ、ベトナム、ラオス、カンボジア、そして最近サイクロン・モカに襲われたミャンマー等は、グーグルの予測可能な場所のリストに含まれている。中央アメリカの”乾燥回廊”の一部、ニカラグア、ホンジュラス、グアテマラも同様で、ここでは気候変動と紛争が絡み合っている。
洪水被害を軽減するAI技術の活用
AIはこのプラットフォームで中心的な役割を果たし、衛星画像、水位計、気象観測所のデータ等の公開データ源を駆使している。Flood Hubは、川に流れ込む水量を予測し、影響を受ける地域と洪水の深さを予測するために、二つの典型的な予測モデルを組み合わせて使用している。
グーグルのエンジニアリング&リサーチ部門の副社長で、危機対応責任者であるYossi Matias氏は、既存のデータソースに「数秒で大量のデータを処理するAIの能力を応用」していると述べている。また、Matias氏によれば、これらのモデルは、より多くのデータで訓練することで「劇的に改善」され、世界の一部で歴史的な洪水記録の利用可能性に隙間があることをある程度補っている。
ただし、このモデルは河川洪水に焦点を当てており、急な洪水、都市洪水、沿岸洪水に影響を受ける人々は同じ早期警戒の恩恵を受けられない。さらに、世界の人口の約37%はインターネットに一度もアクセスしたことがなく、これらの人々は大半が気候変動の危険性に著しく脆弱な地域に居住している。
Matias氏は、「AIをこのように使用する主な利点の一つは、河川洪水に影響を受ける可能性のあるコミュニティに、先行して警告を与えることができる点だ」と述べている。
AIによる洪水予測 – 環境課題解決への一歩か、さらなる深掘りが必要か
グーグルのAIによる洪水予報の全球展開は、間違いなく進歩的である。これはAIの進化と技術の助けを借りて気候変動の影響に立ち向かう方法の一例である。洪水被害の軽減、そして人々や政府が洪水に適切に対処できるようにするために、これらの予報は極めて重要である。
しかし、グーグルのAI洪水予報モデルが提供する恩恵には一定の制限があることに留意しなければならない。特に急な洪水、都市洪水、沿岸洪水に影響を受ける人々は、この予報モデルから直接的な警告を受けられない。
さらに、世界の人口の約37%がインターネットを利用していない現状を考えると、洪水予報のアクセシビリティと普及が重要な課題となる。特に気候変動の危険性に大きく脆弱な地域の人々が情報を得るための方法として、これらの技術がどのように普及するかが焦点となるだろう。
今後の課題としては、全ての種類の洪水に対する警告システムの開発、予測モデルのさらなる改善、そして全ての人々が予報にアクセスできるような普及策が挙げられる。これらは、人間と環境が共存する未来を目指す上での重要なステップとなるだろう。