手頃な価格帯とソーシャルメディア戦略で急成長を遂げたe.l.f Beauty(ティッカー: ELF)が、第3四半期の決算ミスを受けて株価が19%下落した。同社は前年同期比31.2%増の3億5,530万ドルという売上高を達成し市場予想を上回ったものの、2025年度通期および第4四半期のガイダンスを下方修正。
売上成長の鈍化、ソーシャルメディアでのエンゲージメント低下、新製品販売の不調などが重なり、今後の成長戦略に不安が広がる。さらに、消費者行動の変化や過去の在庫積み増しの反動も業績を圧迫している。
e.l.f Beautyの成長を支えたマーケティング手法とその転換点

e.l.f Beautyは、ソーシャルメディアを最大限に活用したマーケティング戦略で急成長を遂げてきた。特にTikTokを活用し、インフルエンサーや一般ユーザーが自発的に製品を紹介することで、ブランドの認知度を飛躍的に向上させた。手頃な価格とトレンドを押さえた製品展開が相まって、若年層を中心に圧倒的な支持を獲得し、市場での競争優位性を確立した。
しかし、直近のデータによれば、e.l.f Beautyのソーシャルメディア上のエンゲージメントが低下していることが明らかになった。TikTokのアルゴリズム変更や、消費者の関心が山火事などの社会的課題へと移ったことが要因とされる。これにより、これまでのような爆発的な口コミ効果が得られにくくなり、売上成長の鈍化につながった可能性がある。
この状況を打開するため、e.l.f Beautyは従来のデジタルマーケティングに依存するのではなく、小売店でのプレゼンス強化に乗り出している。TargetやWalgreensといった主要店舗での展開を拡大し、消費者が直接商品を手に取る機会を増やす戦略に移行している。今後、この新たな戦略が功を奏するかが、同社の成長を左右する重要なポイントとなる。
消費行動の変化と化粧品業界の景況感
e.l.f Beautyの売上成長鈍化の一因として、消費者の購買行動の変化が挙げられる。2024年12月のホリデーシーズンにおいて、消費者は大量購入を行ったことで、2025年初頭の需要が落ち込んだ。この「買いだめ」の影響が、第4四半期のガイダンス修正の背景にある。また、前年には「Glow Reviver Lip Oil」が世界的な成功を収め、小売業者の在庫積み増しが進んだが、今年はその反動が出荷量減少という形で表れている。
こうした動きは、e.l.f Beautyだけでなく、業界全体にも影響を及ぼしている。Estée Lauderも第4四半期のガイダンスを下方修正し、中国市場の低迷が業績を圧迫していることを明らかにした。価格帯やターゲット層が異なる企業が同時期に成長鈍化を示したことで、化粧品市場全体の需要動向に対する不透明感が増している。
この変化を踏まえ、e.l.f Beautyがどのような市場対応を行うかが注目される。ホリデーシーズン後の消費減退は短期的な課題であるものの、新製品の販売が想定を下回っていることは長期的な成長戦略の見直しを迫る要因となる。企業の持続的成長には、変化する市場環境に即応する柔軟な戦略が不可欠となる。
e.l.f Beautyの今後の成長戦略と市場での位置付け
現在、e.l.f Beautyは短期的な業績低迷に直面しているものの、長期的な成長の可能性を否定する声は少ない。同社はデジタル領域のさらなる強化に加え、カラーコスメやスキンケア市場への進出を加速させており、成長の柱を多角化する戦略を進めている。特に、スキンケア市場は競争が激化しているが、e.l.f Beautyは手頃な価格帯での市場開拓を進めることで、新たな顧客層の獲得を狙っている。
また、国際市場への拡大も重要な戦略の一つである。現在、米国市場を中心に事業を展開しているが、欧州やアジア市場における認知度向上を目指し、マーケティング施策を強化している。特に、アジア市場では手頃な価格帯の化粧品が人気を集めており、e.l.f Beautyのブランド戦略と親和性が高い。こうした市場動向を踏まえ、適切な商品展開とプロモーションを行うことが、今後の成功の鍵を握る。
短期的な業績の不安定さが投資家心理に影響を与えているものの、e.l.f Beautyの成長戦略には引き続き注目が集まる。ソーシャルメディアの活用を見直し、実店舗でのブランド浸透を図ることで、同社は競争環境の変化に対応しながら成長を続ける可能性がある。今後の動向が、業界全体のトレンドを占う指標となるだろう。
Source:GuruFocus