アーク・インベストメント・マネジメントのキャシー・ウッドが率いる最新の13F保有報告書が提出され、テスラとモデルナの大規模な売却が明らかとなった。特にモデルナ株は全て売却され、同社のワクチン事業から完全に撤退。一方で、遺伝子関連株やヘルスケア分野への投資を積極的に拡大している。

バイオテクノロジー企業イルミナや遺伝子検査会社Nateraなどが新たな注力銘柄として浮上し、ヘルスケア関連株の保有も大幅に増加。これらの動きは、ウッドの投資戦略が従来のテクノロジー株中心から、成長が見込まれるバイオテクノロジーおよび医療分野へシフトしていることを示唆している。

特にテスラの収益減少やモデルナの業績懸念が、このポートフォリオ再編の背景にあると考えられる。

テスラ株売却の背景に見るEV市場の変動と課題

アーク・インベストメント・マネジメントがテスラ株の28.36%を売却した背景には、同社の収益減少と電気自動車(EV)市場の成長鈍化がある。2024年、テスラの純利益は前年同期比で50%以上減少し71億ドルに留まった。

売上高は977億ドルと微増したが、純利益率は8.2ポイント低下して7.3%となり、これは2020年以来の最低水準である。この結果、アーク・インベストはポートフォリオの中核としていたテスラ株の保有比率を調整する必要に迫られたと考えられる。

テスラの収益悪化の要因としては、原材料コストの上昇や競争激化が挙げられる。特に中国市場における競合の台頭は顕著であり、BYDなどの地元メーカーが価格競争を仕掛けている。また、インフラ整備の遅れや政府補助金の縮小もEV市場全体の成長にブレーキをかけている。こうした市場環境の変化が、アーク・インベストのテスラ株売却判断に影響を与えたと見られる。

一方で、テスラの長期的な成長可能性は依然として存在する。自動運転技術やエネルギー事業の拡大は収益改善の鍵となる。しかし、短期的な収益性の低下が投資家心理に与える影響は無視できず、アーク・インベストの決断は慎重なリスク管理の一環といえるだろう。

モデルナの完全撤退とワクチンビジネスの不確実性

モデルナ株の全売却は、アーク・インベストの投資戦略における大きな転換点を示している。同社は2024年第4四半期に116万株を売却し、ワクチン事業から完全に撤退した。モデルナ株はかつてアーク・インベストの31番目に大きいポジションであったが、ワクチン需要の減少と市場の不透明感が売却の決定打となったと推測される。

特に、ゴールドマン・サックスが1月29日にモデルナの格付けを「買い」から「中立」へ引き下げ、目標株価も51ドルに減額したことは、市場の信頼感に影響を与えた。モデルナはパンデミック期に急成長したものの、ワクチン売上の減少と新規開発の進捗遅れが業績に陰を落としている。これにより、アーク・インベストは成長余地のある他分野への資金再配分を進めたと考えられる。

しかし、モデルナの技術基盤は依然として強固であり、mRNA技術の応用範囲は広がり続けている。将来的にがん治療や希少疾患向けの新薬開発が進展すれば、再評価される可能性もある。現時点では短期的な収益性と市場の不透明感が優先され、アーク・インベストはより安定した成長が見込める分野に注力する方針を選んだといえる。

遺伝子関連とヘルスケア分野へのシフトが示す成長戦略

アーク・インベストがテスラとモデルナから資金を引き揚げ、遺伝子関連およびヘルスケア分野に注力したことは、長期的な成長戦略の一環である。特にサンディエゴを拠点とするイルミナへの68万株超の新規投資は、この分野への強い関心を示している。イルミナはゲノム解析技術のリーダー企業であり、パーソナライズド医療の進展とともに市場の拡大が期待されている。

また、テキサス州の遺伝子検査企業Nateraへの追加投資も注目に値する。同社は非侵襲的出生前診断(NIPT)技術を提供し、がん検査市場への進出も進めている。これにより、アーク・インベストの保有銘柄の中で重要な位置を占めるようになった。さらに、イスラエルのBrainswayへの投資も示す通り、うつ病治療や禁煙支援といったメンタルヘルス分野への関心も高まっている。

これらの動きは、ヘルスケアとバイオテクノロジー分野が今後の成長産業であるとの見通しに基づいている。人口の高齢化や個別化医療の需要拡大が背景にあり、これらの分野は安定した成長が見込まれる。一方で、規制リスクや技術的課題も存在するため、投資先の選定には慎重さが求められる。

アーク・インベストの戦略は、リスクを分散しつつ成長性の高い分野に集中投資するバランスを取ったものといえるだろう。

Source:24/7 Wall St.