米国の半導体大手Nvidiaは、中国のスタートアップDeepSeekによるAIトレーニングコスト削減の影響で株価が急落し、市場に不安が広がっていた。しかし、AmazonとAlphabetが発表したAIインフラへの巨額投資計画が、再びNvidia株に明るい展望をもたらしている。両社は2025年に向け、AI関連の資本支出をそれぞれ1,000億ドルと750億ドル規模に増加させる方針を示し、AIインフラ需要の堅調さを強調した。AIモデルの開発コスト低下がGPU需要を押し上げるとの見方が強まり、Nvidiaの成長見通しに対する市場の期待感は再燃している。

DeepSeekの登場が示すAIトレーニングの新たな潮流

DeepSeekが発表した大規模言語モデルは、わずか600万ドルという低コストでトレーニングされたとされる。この数字は、OpenAIのGPT-4が1億ドル以上を要したと推定されることと比較すると、極めて大きなコスト削減である。この発表が市場に衝撃を与えたのは、従来のAIモデル開発に必要とされる資本と技術的制約が根本から変わる可能性を示唆したためだ。

しかし、多くのアナリストはDeepSeekのコスト削減の実態に疑問を投げかけている。Wedbush SecuritiesのDan Ives氏は、最新のNvidiaハードウェアなしでこのコストを実現できるとは考えにくいと指摘している。また、リサーチ企業SemiAnalysisの調査によれば、DeepSeekは次世代のNvidia GPUを使用しており、実際にはトレーニングコストが16億ドルに達していた可能性があるという。この点を踏まえれば、DeepSeekの事例が本当にNvidiaの支配する市場構造を変革するのかは、慎重に見極める必要がある。

一方で、AIのトレーニングコストが下がることは、より多くの企業がAI技術を活用する機会を得ることを意味する。これにより、AIを活用する市場全体が拡大し、NvidiaのGPU需要が減少するどころか、むしろ増加する可能性も指摘されている。DeepSeekの登場は、単なるコスト削減の事例ではなく、AIインフラの進化と市場のダイナミズムを映し出す象徴的な出来事といえるだろう。

AmazonとAlphabetが示すAIインフラ需要の拡大

AmazonとAlphabetの決算発表により、AIインフラへの巨額投資が継続することが明らかになった。Amazonは、2025年の資本支出が1,000億ドルを超える可能性があると述べ、Alphabetも750億ドル規模の投資を計画している。これらの支出は主にデータセンター、サーバー、ネットワークの強化に向けられ、NvidiaのGPUを含むAI関連の半導体需要を押し上げると予想されている。

特にAmazonのCEOであるAndy Jassy氏は、AIモデルの開発コストが今後も低下し続けることで、企業が自社アプリケーションに生成AIを組み込む流れが加速すると述べた。この見解は、単にAIインフラの投資が増加するだけでなく、AI技術がより幅広い業界に浸透することを意味する。AlphabetのCEOであるSundar Pichai氏も、トレーニングコストの低下が推論向け投資の拡大につながっているとし、生成AI市場の発展を支える要素になっていると指摘した。

こうした大手クラウド企業の投資動向は、Nvidiaの事業環境を左右する重要な要素となる。仮にAIモデルの開発コストが低下しても、それに伴い利用企業が増えれば、全体としてのGPU需要は高水準を維持する可能性がある。むしろ、AIの民主化が進むことでNvidiaの市場支配力がさらに強まる展開も考えられる。企業の設備投資の方向性は、今後の半導体市場を占う重要な指標であり、AIインフラの拡大とともに、新たなビジネスモデルの形成が進むことが予想される。

Nvidiaの成長を巡る市場の見方とリスク要因

ウォール街では、Nvidiaの成長が今後も続くとの見方が支配的である。アナリストのコンセンサスでは、2026年度までに調整後利益が年率52%で成長すると予測されており、現在の株価収益率(PER)50倍も妥当な水準とされている。AIトレーニングの効率化がGPU需要を押し上げるとの見方が強まる中、AmazonやAlphabetの投資計画がこの成長シナリオを裏付けている。

しかし、Nvidiaの成長軌道にはリスクも潜んでいる。まず、DeepSeekのような企業が今後も登場し、AIトレーニングのコスト削減が加速すれば、既存のAIインフラ市場の勢力図が変わる可能性がある。これにより、NvidiaのGPUが依然として不可欠な存在であり続けるかは不透明な部分がある。また、競争が激化すれば、Nvidiaの市場シェアや利益率に影響を及ぼす可能性も否定できない。

さらに、AIインフラの拡大が続く一方で、クラウド企業が独自のチップ開発を進める動きにも注視が必要だ。Googleはすでに自社開発のTPU(Tensor Processing Unit)を導入しており、AmazonもAI処理向けのカスタムチップを開発している。これらの技術革新がNvidiaのGPUに代替するものとなる場合、長期的な成長シナリオには修正が求められる可能性がある。

結局のところ、Nvidiaの成長を支える要素とリスクは共存しており、市場の期待値は依然として高い。しかし、競争環境の変化や技術革新の影響を見極めることが、今後の投資判断において不可欠となるだろう。

Source: The Motley Fool