ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、ウォール街の一部アナリストが「売り」を推奨するシリウスXMへの投資を大幅に増やしている。同社は競争激化や成長鈍化の懸念から市場で評価が低迷しているが、バークシャーはこの局面を長期的な価値創出の好機と見ている可能性が高い。
バークシャーは過去1年でシリウスXMの株式を230万株追加購入し、保有比率を全発行株数の約35%に拡大。シリウスXMはバークシャーのポートフォリオで15番目に大きなポジションを占めるに至った。シリウスは新たなポッドキャスト戦略や価格改定を通じて会員数回復を目指しており、株価も年初来で約16%上昇している。
一方で、複数のアナリストは業績への懸念を維持し、目標株価を引き下げる動きもある。この投資判断は、短期的な市場評価とは異なる長期的な成長への確信に基づいていると考えられる。
バフェットがシリウスXMに注目する真の理由とは

バークシャー・ハサウェイがシリウスXMへの投資を拡大した背景には、単なる短期的な株価変動を超えた戦略的な視点が存在する。同社は米国連邦通信委員会(FCC)から衛星ラジオの独占ライセンスを保有する希少な企業であり、この規制上の優位性は競争環境が厳しい音楽配信市場においても揺るがない基盤となっている。特に、予想利益の約8.5倍という低いPER(株価収益率)は、バークシャーのバリュー投資哲学と合致している。
さらに、シリウスXMは堅実なキャッシュフロー創出力を持ち、配当利回りは4.2%と高水準を維持している。この安定的な配当収入は、バークシャーのポートフォリオにおいてリスク分散の役割も果たす。競合であるSpotifyやApple Musicがサブスクリプションモデルの変化に直面する中で、シリウスは独自の収益構造と広告ビジネスの拡大によって収益源の多様化を図っている。
加えて、バークシャーは短期的な市場のノイズに左右されず、長期的な視点で企業の本質的価値を見極める投資スタンスを貫いている。シリウスXMの株価が市場全体の強気相場に乗り遅れている現状は、バフェットにとってはむしろ投資妙味が高まる好機と映った可能性が高い。
シリウスXMの成長課題と新戦略の全貌
シリウスXMが直面する最大の課題は、音楽ストリーミング市場における熾烈な競争環境である。SpotifyやApple Musicといったグローバルプレイヤーは膨大な音楽ライブラリとパーソナライズ機能でユーザーの支持を獲得しており、特に若年層のシェアを巡る争いは激しさを増している。この競争下で、シリウスは単なる音楽配信企業から総合的なオーディオプラットフォームへの転換を図っている。
その一環として、シリウスは大規模なポッドキャストブランドの買収と独占的な配信権の取得を進め、広告収入の拡大に注力している。また、新しい価格戦略を導入することで、既存顧客の解約率抑制と新規顧客の獲得を両立させる狙いがある。実際、直近の四半期決算では1年半ぶりにサブスクライバー数の増加を記録し、株価も年初来で約16%上昇するなど一定の成果を上げている。
ただし、これらの戦略が長期的な収益成長に直結するかは依然として不透明であり、アナリストの間でも評価は分かれている。バンク・オブ・アメリカのジェシカ・リーフ・エーリッヒ氏は、同社株に対して依然として「アンダーパフォーム」の評価を維持し、目標株価を21ドルに引き下げている。このような懸念は、シリウスの成長戦略が市場の期待に応えきれていない部分を浮き彫りにしている。
ウォール街とバフェットの視点のズレが示す投資の本質
ウォール街のアナリストがシリウスXMに対して慎重な評価を下す一方で、バフェット率いるバークシャーは積極的に買い増しを続けている。この視点のズレは、短期的な業績予想と長期的な企業価値評価という投資スタンスの違いに起因する。アナリストは通常、四半期ごとの業績やマクロ経済動向に基づいて株価目標を設定するが、バフェットはそれらの変動要因を超えて企業の持続可能な競争優位性に着目する。
シリウスXMの現状は、短期的には成長の鈍化や競争激化といった不安材料が目立つ。しかし、長期的には規制上の優位性、堅実なキャッシュフロー、広告収益の多様化といった強みが評価される可能性がある。バークシャーがシリウスXMを「永遠に保有できる株」として位置付けているのであれば、短期的な株価変動はむしろ買い増しの好機と捉えられる。
また、バフェットは市場が悲観的な時こそ大胆な投資判断を下すことで知られており、この逆張りの姿勢こそが過去の成功を支えてきた要因でもある。シリウスXMへの投資は、こうした哲学が現在も変わらず貫かれていることを示す好例であり、投資家にとっては市場のノイズに惑わされない重要性を再認識させるものである。
Source:CNBC、The Motley Fool