イーロン・マスクが970億ドル規模のOpenAI買収を提案したことが波紋を広げている。彼の狙いは、AIの「オープンソース化」と「安全性確保」にあるとされるが、OpenAIのサム・アルトマンCEOはこの提案を冷笑し、両者の対立は深まっている。

この動きは、マスクの関心がAI事業に移行している兆候とも取れる。テスラは依然としてEV市場での影響力を持つものの、需要の鈍化や競争激化、直近の決算不振など、不確実性が増している。TSLA株はOpenAI買収報道後に5%以上下落し、投資家の警戒感が浮き彫りとなった。

テスラの成長ストーリーは変わらず、AI技術やロボティクスの進化が将来の柱となる可能性が高い。しかし、マスクの優先事項が変化する中、テスラ株は今後も市場の注目を集め続けるだろう。

マスクのOpenAI買収提案が示すAI戦略の変化

イーロン・マスクがOpenAIの支配権を取得しようとする背景には、AI分野における影響力拡大の意図がある。彼はかつてOpenAIの共同創設者でありながら、2018年に経営方針を巡って対立し、同社を離れた経緯を持つ。現在、OpenAIは商業化路線を強めており、マスクはこれを「安全性を犠牲にした利益追求」と批判している。

その一方で、マスク自身もAI企業「xAI」を設立し、対抗馬となる技術開発を進めている。特に大規模言語モデル「Grok」は、X(旧Twitter)と統合され、マスクの構想するエコシステムの一部を形成しつつある。OpenAIの買収提案は、このAI競争において一気に主導権を握る試みとも解釈できる。

しかし、サム・アルトマンはこの動きを「単なる競争戦略」と切り捨てた。アルトマンの皮肉めいた反応が示す通り、実際に買収が成立する可能性は低いとの見方が支配的である。それでも、マスクの動きはAI市場におけるパワーバランスに影響を与え、テスラの未来にも関わる重要な要素となる。

テスラの決算低迷とEV市場の変化が示す課題

テスラは長年、電気自動車市場の牽引役を担ってきたが、直近の決算結果はその成長に陰りが見え始めていることを示唆する。2024年第4四半期の売上は市場予想を下回り、自動車部門の売上は前年同期比で19.8%の減少を記録した。これは主に「モデル3」「モデルY」などの価格引き下げが要因とされ、販売台数の増加よりも利益率の低下が懸念されている。

EV市場全体でも競争が激化している。中国のBYDをはじめとする新興EVメーカーが台頭し、低価格帯の市場を浸食している。さらに、フォードやGMといった伝統的な自動車メーカーもEVシフトを加速させ、価格競争が過熱している状況だ。こうした環境下で、テスラの利益構造は以前よりも不安定になりつつある。

マスクは、2026年以降にAIと自動運転技術の進化が業績回復の鍵になると主張するが、市場がその展望をどの程度信頼するかは未知数である。決算発表後の株価下落が示すように、投資家の関心は短期的な成長性にあり、マスクの未来志向の発言だけでは十分な安心材料にはならない。

テスラ株の評価を巡る投資家の分岐点

テスラの株価は過去1年間で90.6%上昇しているが、現在のバリュエーションは依然として高水準にある。非GAAPベースの予想利益の117.46倍、売上の9.67倍という評価は、他の自動車メーカーと比較しても際立っている。一方で、成長期待を織り込んだこれまでの平均水準と比較すると、割安感が出始めているとも言える。

投資家の評価は割れている。モルガン・スタンレーのアダム・ジョナスは目標株価を430ドルに維持しつつも、「トップピック」指定を外した。これに対し、スティフェルのスティーブン・ゲンガロは目標株価を492ドルから474ドルに下方修正しつつも、「買い」評価を維持している。アナリスト全体の市場コンセンサスは「ホールド(中立)」であり、楽観と慎重姿勢の両方が共存する形だ。

テスラの将来は、AI技術の進化や自動運転の実用化によって大きく変わる可能性があるが、その過程では不確実性が伴う。短期的にはEV市場の競争激化とマスクの関心の分散がリスク要因となる一方で、長期的には技術革新による成長余地が残されている。投資家にとって、テスラ株を持ち続けるか否かは、市場環境とマスクの戦略に対する信頼度に左右される局面を迎えている。

Source:Barchart.com