米国の半導体大手Nvidiaは、2025年初頭に株価が低迷し、投資家の注目を集めている。特に、中国のAIスタートアップであるDeepSeekが低コストで高性能なAIモデル「DeepSeek-R1」を発表したことが市場に大きな影響を与えた。このモデルは、OpenAIの最先端モデルと同等の性能を持ちながら、開発費用がわずか558万ドルと報告されている。この発表により、Nvidiaの株価は一時17%下落し、時価総額で約6000億ドルが失われた。
しかし、Nvidiaの長期的な成長見通しは依然として明るいと考えられる。同社はAIチップ市場でのリーダーシップを維持しており、主要なクラウドコンピューティング企業や政府機関からの需要も堅調である。さらに、5000億ドル規模のAIインフラ投資計画「Stargateプロジェクト」にも技術パートナーとして参加しており、OracleやOpenAIとともにAIデータセンターの建設を進めている。
また、DeepSeekの低コストモデルの登場は、AIアプリケーションの普及を加速させ、結果的にNvidiaのチップ需要を押し上げる可能性がある。これは、効率的な技術革新が需要を増大させる「ジェヴォンズのパラドックス」に類似している。
現在、Nvidiaの株価は一時的な下落を経験しているが、AI市場の拡大と同社の技術的優位性を考慮すると、長期的な投資機会として再評価する価値があるだろう。
Nvidia株価下落の背景にある市場の誤解

Nvidiaの株価が急落した要因の一つとして、中国のAIスタートアップDeepSeekの発表が挙げられる。同社は「DeepSeek-R1」という推論モデルを開発し、そのトレーニング費用がわずか560万ドルであったと主張した。この数値は、Nvidiaのチップを活用するOpenAIのAIモデル開発費と比較すると極めて低コストであり、市場では「Nvidia製品の必要性が減少するのではないか」との懸念が広がった。
しかし、専門家の分析によれば、このコストは実際のAI開発に必要な総額を反映していない可能性が高い。DeepSeekはNvidiaのHopper GPUを5万台以上利用しており、設備投資を含めた費用は16億ドルに達しているとの報告もある。加えて、AIの開発にはデータ処理、モデルの微調整、研究費用などの隠れたコストが伴うため、表面的なトレーニング費用だけを比較するのは適切ではない。
市場がこの点を過剰に評価し、Nvidiaの価値を見誤った可能性は否定できない。DeepSeekの技術革新が示されたことで、NvidiaのAI市場における地位が揺らぐという見方もあるが、一方で同社のハードウェア需要が即座に減少するとは考えにくい。むしろ、競争が促進されることで、より高度なチップへの需要が高まり、Nvidiaの長期的な成長に寄与する可能性もある。
AIインフラ投資の拡大がNvidiaの成長を支える
一方で、Nvidiaの成長を下支えする要因として、米国政府および民間企業によるAIインフラへの巨額投資が挙げられる。特に「Stargateプロジェクト」と呼ばれる5000億ドル規模のAIインフラ投資計画は、Nvidiaの事業にとって大きな追い風となる可能性がある。このプロジェクトにはOracle、OpenAI、ソフトバンク、アブダビのAI投資ファンド「MGX」などが関与しており、今後のAIデータセンター建設が加速すると見られている。
また、MicrosoftやMetaもAI分野への投資を拡大する意向を示しており、先端半導体製造装置を提供するASMLの受注増加が、AIチップ需要の堅調さを裏付けている。このような背景から、Nvidiaの高性能GPUは今後も必要不可欠な存在であり続ける可能性が高い。
さらに、AI技術の進化が加速する中、より高度な計算能力を持つハードウェアが求められることになる。Nvidiaはすでに次世代GPUの開発を進めており、これがクラウド企業や研究機関のニーズを満たすことができれば、長期的な収益基盤の安定化につながるだろう。こうした流れを踏まえると、現在の株価下落は一時的なものであり、今後の成長を期待する投資家にとっては魅力的な機会となる可能性がある。
AI市場の成長がNvidiaにとってもたらす新たな機会
AI市場全体の成長は、Nvidiaの事業環境に対してプラスの影響を与える可能性がある。低コストなAIモデルの登場は、一見するとNvidiaのチップ需要に悪影響を与えるように思えるが、実際にはAI技術の普及を加速させる要因となり得る。これは「ジェヴォンズのパラドックス」として知られる経済現象と類似している。
ジェヴォンズのパラドックスとは、技術革新によって効率が向上すると、消費量が減少するのではなく、逆に増加するという理論である。例えば、燃費の良い自動車が登場すると総走行距離が増えたり、LED電球の普及が家庭の照明使用量増加につながったりする現象がこれに当たる。AIにおいても、より効率的なモデルが開発されることで、AIの活用機会が拡大し、最終的にNvidiaのチップに対する需要が高まる可能性がある。
加えて、AI技術の発展はデータセンターの増設を促進し、それに伴いハードウェアの需要も拡大すると考えられる。特に、クラウドサービスを提供する大手テクノロジー企業は、継続的にAIインフラへ投資を行う必要があり、Nvidiaはこうした需要の受け皿となる立場にある。今後もAI市場の拡大が続く中で、Nvidiaの技術と市場シェアの優位性が維持される可能性は十分にあると言えるだろう。
Source:The Motley Fool